AIがコードを書き、設計を補い、テストまで担う時代に、エンジニアという職種はどこへ向かうのか。OpenAIの共同創業者やまつもとゆきひろ氏らの言葉と最新データを手掛かりに、AI時代のエンジニアに求められる役割を探ります。
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コーディング、テストコードの生成、デバッグ、さらにはCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインの構築に至るまで、AI(人工知能)が介在しない工程を探す方が難しくなりつつあります。こうした動向を受け、「AIがエンジニアの仕事を代替するのではないか」という議論が、業界内で現実味を帯びて語られるようになりました。
テキストを扱う職種では、この変化が既に現実のものとなっています。実際、キャリア10年超のライターが「この仕事はAIで内製することになりました」と告げられた事例が紹介されました。
筆者はその後、AIにはできない「人間固有の仕事」の探索を始めます。コードを書くことを主軸としてきたエンジニアも、同じ問いに向き合う時期が来ているのかもしれません。
AIによるコーディング支援は、既に「補助ツール」の段階を超えつつあります。コード生成AIの進化により、定型的な実装作業の多くが自動化され始めているからです。
OpenAIの共同創業者であり、AI界のキーマンの一人であるアンドレイ・カルパシー氏は、自身のワークフローについて、2025年の11月から12月までのわずか1カ月で、「人手による実装・補完が80%、AIエージェントが20%」から「AIエージェントによる実装が80%、人手による修正が20%」へと変化した、と述べています。
同氏はこれを、単なる効率化として手放しに喜んでいるわけではありません。AIが大量のコードを生成することで、低品質なコードがレビューも十分に経ないまま実システムに組み込まれていく未来を、「slopacolypse」(低品質を意味する「slop」と破局を意味する「apocalypse」を掛け合わせた造語。日本語では「スロポカリプス」とも)と呼び、警鐘を鳴らしています。
この懸念の根底にあるのは、「生成されたコードの品質を誰が保証するのか」という問いです。AIが実装を担う割合が増えるほど、人間のエンジニアには高度な判断力が求められます。しかしその判断力を持つエンジニアが、今まさに育ちにくくなっているとしたら――。
AIによる自動化が進む中で、もう一つの懸念として指摘されているのが「ジュニアエンジニアが育たなくなるのではないか」という問題です。AIが実装作業の大部分を担うようになると、従来ジュニアが担ってきたタスクそのものが減っていくからです。
プログラミング言語「Ruby」の生みの親として知られるまつもとゆきひろ氏は、現在のIT業界が直面しているこの特異な状況に対し、強い危機感を表明しています。
本来、エンジニアは実装経験を通じて設計力や品質判断力を身に付けていきます。現在のシニアエンジニアも、数多くの失敗やバグ修正を通じて「暗黙知」を蓄積してきました。しかし、そのプロセスがないエンジニアは、AIが出力したコードをレビューできるだけの広範な知識を、どう身に付ければいいのでしょうか。
まつもと氏が指摘するのは、危機感だけではありません。「今まで起きなかったことが起きる時代になった。リスクを理解した上で挑んでいると考えれば、ハイリスク・ハイリターンな時代ではないか」とも語り、現状を変化の好機として捉える視点も示しています。
技術継承の危機は、裏を返せば「シニアが暗黙知を意識的に言語化・伝達する」という、これまで怠りがちだった課題に正面から向き合う機会でもあります。まつもと氏の言葉は、現在のシニアエンジニアへの問い掛けとしても読めるでしょう。
AIによってコーディング作業が自動化される中で、「エンジニアの仕事はなくなる」という議論も出ています。しかし、AIを活用して成果を上げているエンジニアたちの実像を見ると、むしろ逆の方向が見えてきます。
ソフトウェアベンダーClaris Internationalのプロダクトマネジャーであるロニー・リオス氏は、AIを使って成功しているエンジニアたちは、思考力をAIの潜在性とうまくかみ合わせていると指摘します。
「AI時代にエンジニアが強化すべきスキルは、プログラミングスキルそのものではなく、『考える』『分析する』『理解する』という能力、つまりは『思考能力』が以前よりも求められている」と同氏は述べています。
エンジニアの役割が、「コードを書くこと」から、1人で「課題を発見し、思考し、解決すること」に移行していることを裏付けるデータもあります。
スタートアップの資本政策管理を手掛けるCartaの調査によると、創業者1人だけのスタートアップの割合は、2019年の23.7%から2025年後半には36.3%へと急増しています。AIが個人の生産性の天井を引き上げ、「1人でチームに匹敵する」出力が現実になりつつあることを示す数字です。
こうした変化の先に現れつつある理想像が「Cracked Engineer」(異常に強いエンジニア)です。複数のAIエージェントを同時に走らせ、自身は設計と検品に特化する「AIのオーケストレーター」であり、「10倍の生産性を自力でたたき出す」という従来の「10x Engineer」の概念を超えた存在として語られ始めています。
ただし、この記事が指摘するのは「Cracked Engineerになれる人だけが生き残る」という単純な選別論ではありません。むしろ重要なのは、ツールの習熟以上に「自分の居場所をどこに定めるか」という問いに答えることだとされています。
その具体的な指針として、以下の3点が示されています。
いま起きているのは、「AIが人間の仕事を奪う」という単純な代替ではなく、エンジニアという職種の内部構造が問い直されているという現象です。
コードを書く能力そのものより、「何を作るべきかを考え、AIと共に実装する能力」が問われる時代において、その問いに自分なりの答えを持つことが、最初の一歩になるのかもしれません。
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