「では2029年に始めればいい」と考えたくなるが、そうはいかない事情がある。
国内のメインフレームユーザーは、同じ期限を共有している。ということは、移行の需要が同じ時期に集中する。移行を担える技術者にも、それを引き受けられるSIerにも、数には限りがある。
需要が集中すれば、単価は上がる。要員は確保しにくくなる。選べるパートナーは減る。急いだ結果、高い品質をあきらめる判断も出てくるだろう。後発になるほど移行の発注は高く、遅く、そして選択肢が少なくなる。遅れは、利息を付けて返ってくる。
では、その利息はどの程度か。筆者はこれを一度見ている。2000年問題のときだ。あのときも期限が全社に共通していて、最後の2年は、単価も要員の取り合いも尋常ではなかった。
あのとき筆者は、修正要員をかき集める側にいた。実感で言えば、2年前なら普通の単価で頼めた作業が、直前には倍を出しても人が来ない。2年で倍。利息の率としては、それくらいを見ておいた方がいい。しかも倍の金額を出して来てくれた人は、そのシステムを知らない。教える時間もない。今回は対象が機械の入れ替えまで含む分、期間はもっと長く、影響はもっと広い。
とはいえ、いきなり移行の意思決定はできない。予算にも体制にも都合がある。だから、判断の材料を作るところから始めることを勧めたい。2026年のうちにするなら、2つで足りる。
一つは、資産の棚卸しだ。プログラムの本数、JCL(バッチ処理の手順を書いた定義体)の数、帳票の種類、外部システムとの接続。これは数えるだけの作業で、外部に頼まなくてもかなりの部分を自社でできる。
もう一つは、「(システムについて)聞ける人リスト」の作成である。これは人事の領域に触れるので、名目を先に決めておいた方がいい。保守体制のリスク洗い出し、というのが通りやすい。有識者が抜けたときに誰も分からなくなる範囲を可視化する、という趣旨である。それも重ければ、まず自分のチームが受け持っている範囲だけで作ってみればいい。
そのシステムに関わった経験のある人を社内、OB、ベンダー側を問わず洗い出す。そして、誰が何を知っていそうか、あと何年在籍するのかを書き添える。作ってみると、たいていの会社が「思ったより少ない」ことに驚くはずだ。
書き添える項目は4つでいい。関わった時期、担当した範囲、いまの所属、そして退職までの年数。OBの連絡先が分かるならそれも書いた方がいい。人事に頼めば出てくる類の情報ではないので、現場の記憶をたどって作ることになる。だからこそ、覚えている人がいるうちにしか作れない。
この2つは、移行の方式を決める前にできる。棚卸しは資産が増えるほど、聞ける人リストは人が減るほど作りにくくなる。
次回は、その棚卸しの話をする。従来のアセスメントは本数とステップ数(おおむねソースの行数)で規模を測ってきた。だがAIに読ませることを前提にすると、測るべきものが変わる。
中野恭秀(なかの・やすひで)
アクセンチュア株式会社 デジタルコア シニア・プリンシパル
レガシーシステムを、新基盤・システムに移行するマイグレーションを中心としたAMO(Application Modernization and Optimization)を手掛ける。アクセンチュア入社以前は、メーカー系SIerや複数のベンダーで約40年にわたりコンバージョンやメインフレームのオープン系プラットフォームへのリホスト業務などを経験。COBOLコンソーシアムの設立にも従事した。
日立がメインフレームOS終了 次の注力「AIエージェントによる基幹システム刷新」の実態は? @IT、2026年7月15日
※同記事に「VOS3の販売終了は2027年11月、保守終了は2034年12月」と記載がある。
富士通も日立も去る、日本での「メインフレーム脱却」が一筋縄ではいかない理由 @IT、2026年7月22日
富士通がメインフレーム製造・販売から2030年度に完全撤退へ、66年の歴史に幕 日経クロステック
富士通「プレスリリース」 2022年9月1日
※2030年度に製造・販売終了、2035年度に保守終了という日程は、上記の富士通プレスリリースの注記に「メインフレームは2030年度販売終息・2035年度保守終了」として明記されており、各種報道とも一致している。なおGS21の製品ページ側では現在この年度の記載を確認できないため、公式の参照先は上記のリリースに統一した。
上記@IT 2026年7月22日の記事に記載がある。
BIPROGYがメインフレームの販売・保守を終了へ、国内継続は日本IBMとNECの2社に 日経クロステック、2026年6月
※販売・保守を終了する方針が2026年6月に報じられたが、本稿執筆時点で終了時期は公表されていない。@ITの取材でも、撤退の具体的な時期は顧客との調整のなかで検討中であることが確認されている。
厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正〜『継続雇用制度』の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止〜」
※2025年4月1日以降、定年制の廃止・65歳までの定年引き上げ・希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入のいずれかが必要となる。
本連載第1回「AI時代のモダナイゼーションは『変換』の話ではなくなった」を参照。
本文で示した倍率は、筆者が2000年問題への対応で修正要員の確保に当たっていた当時の実感であり、公表された統計に基づく数値ではない。本文でもその旨を明示している。
図1・図2はいずれも筆者が作成した。図1のベンダー日程は公表・報道されているものだが、工程の長さは規模により幅があるため、目安を示す模式図である旨を図中に注記している。図2は各時点で25歳から30歳だった人の2026年時点の年齢を算術的に示したもので、定年や再雇用の制度が企業により異なる旨を図中に注記している。
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