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最悪な時は最高の時 過去を誇らず、未来を望まず、現在を一生懸命生きる転機をチャンスに変えた瞬間(16)〜プロ野球選手 石井琢朗

年収を6分の1に落としても野球を続けたかった―― プロ野球選手 石井琢朗さんの転機をチャンスに変えた瞬間、そして将来の夢とは。

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転機をチャンスに変えた瞬間〜プロ野球選手 石井琢朗の場合

 2006年、ドラフト外入団選手としては秋山幸二選手以来史上2人目、投手として勝ち星を挙げた選手としても川上哲治選手以来史上2人目となる、通算2000本安打を達成した石井琢朗さん。さらに同年には、球団最多安打記録であった松原誠選手の通算2081本を塗り替え、自己最多となるシーズン174安打を放って完全復活を果たした。

 だが2007年に連続試合出場が途絶え、シーズン終盤には死球を受けて骨折するけがにも見舞われる。そして先発出場機会が激減した2009年オフ、「ミスターベイスターズ」とまで呼ばれた石井さんは、球団から戦力外通告を受けた。

 しかし石井さんは諦めなかった。自ら探した広島東洋カープへと移籍。1億2500万円あった推定年俸は2000万円にまで減ったが、39歳になった大ベテランは実績やプライドをかなぐり捨て、新天地でレギュラー奪取に挑んだのだ──。

石井琢朗(いしい たくろう) プロ野球選手

石井琢朗

1970年 栃木県生まれ。
1988年 横浜大洋ホエールズ(当時)入団。
1999年に通算1000本安打、1000試合出場、200盗塁達成。2006年に2000本安打を達成。2009年、広島東洋カープへ移籍。2012年秋に現役引退、同球団でコーチとして後進の指導に当たっている。


過去を誇らず、未来を望まず、現在を一生懸命に生きる

丸山 野球選手は「まだ現役続行を望まれているうちに、惜しまれつつやめたい」と潮時を考えている方が多いように思います。しかし石井さんは引退を選ばず、実績に見合っているとはとてもいえない低年俸で、広島への移籍を選択されました。前述の「引き際」とは異なる美学をお持ちのようですね。

石井 僕も以前は、少し余力を残して格好良く現役を引退しようと心に描いていました。でも野球ができることの幸せを考えたら、「ボロボロになってもやりたい」という思いが突き上げてきたのです。僕から野球を取ってしまったら、いったい何が残るのだろうかと。

 いくら年俸が下がったといっても、僕がそれだけの給料を稼げる職業なんて、他にはありません。引退するのは簡単です。でも引退したら、元には戻れないし、可能性をゼロにしてしまう。現役で続けてさえいれば、年俸を上げる可能性も追求できる。現状に感謝して、謙虚に野球を続けさせてもらおうという意味での、広島への移籍選択だったのです。

丸山 プロ野球選手になること、野手として成功すること、そして2000本安打……。数々の夢を実現されてきた石井さんですが、今後はどのような新たな夢を描いていますか。

石井 もう一度タイトルを取りたいとか、日本一を経験したいという思いはあります。でも今は、過去を誇らず、未来を望まず、とにかく現在を一生懸命生きてみようと。多くを願わずに、ひたむきに現在を積み重ねてゆけば、未来は自然と訪れるのかなと思っています。僕は、一度は底まで下がった人間ですから、それを謙虚に受け止めてやっていきたい。一日一日を大切にして、野球を一日でも長く続けること。それが夢といえば夢なのかもしれません。

丸山 最後に、今、転職を考えている30代、40代に、力強いメッセージをお願いします。

石井 転職すべきかどうか迷っているのに一歩を踏みだせずにいる人は、今まで自分が残してきた実績や、それに伴うプライドが邪魔をしていることもあると思います。そういう気持ちは僕にもありました。でも、それを取り除いて、もう一度、自分を見つめ直してもよいのではないでしょうか。

 恩師から頂いた「ワースト・コンディション・イズ・ベスト・コンディション」という言葉を、僕は大切にしてきました。どんな最悪な状況でも、今こそが最良の状況だと思えば、何でも挑戦できるのではないかと。現状に不満を言うのではなく、プラス発想でその現状を変える勇気を持ってみる。転機をピンチと思っている人が多いかもしれませんが、転機はチャンスでもあるのですから。

構成/平山譲

聞き手 丸山貴宏

丸山貴宏

クライス&カンパニー 代表取締役社長

リクルートで人事採用担当を約7年経験後、現社を設立。転職希望者面談数は1万人を超え、その経験と実績に基づいたカウンセリングは業界でも注目されている。「人の根っこのエネルギーを発掘する作業が、われわれの使命」がモットー。著書「キャリアコンサルティング」(翔泳社)


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※この連載はWebサイト「転機をチャンスに変えた瞬間」を、サイト運営会社の許可の下、一部修正して転載するものです。データなどは取材時のものです。

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