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ワクワクが原動力〜「計画された偶発性」を地でいくキャリアの築き方転機をチャンスに変えた瞬間(21)〜フードエディター 小竹貴子(2/2 ページ)

専業主婦から未経験でWebディレクターへ、そして創業当時のクックパッドに入社し、執行役となり上場を経験。「計画された偶発性」を活用してキャリアを築いた、フードエディター小竹貴子氏の転機をチャンスに変えた瞬間とは。

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松尾 クックパッドで働きたいと思った魅力はどこにありましたか。

小竹 佐野さんの「世の中はインターネットで変わっていく」という話が腹落ちしたことが1つ。そして「クックパッドが佐野さんの描くビジョンの方向に成長するのなら、自分がその過程に携われるのは、本当に幸せなことだろうな」と感じたのです。何しろ、料理が楽しみになる人がどんどん増える世の中を自分が作っていけるのですから。

 そのころのクックパッドは売り上げが全然無くて、私の給料すらどこから出ているのか分からないような状況でしたが、「自分で決断し、自分で動かなければ誰もやってくれない」という環境に自分の身を置くのは、誰にでもできることではなく、とてもワクワクしました。もしうまくいかなくても、まだ30歳だったので他の会社を探せばいいだけですし。

松尾 一緒に働く人たちはいかがでしたか。

小竹 当時はITバブルで、「どのくらいもうかるか」という話をする人がネット業界には多かったのですが、佐野さんは「テクノロジを使って世の中を変える」という話をしていた唯一の人という記憶があります。実はクックパッド以外からも声を掛けられていたのですが、クックパッドを選んだのは、「毎日の料理を楽しみにすることで、心からの笑顔を増やす」という経営理念が私の中でしっくりきたのが大きかったです。

 私の後に入ってきたメンバーも、経営理念に引かれ、なおかつ「世の中を変えて、ちゃんと収益の出る会社に成長できる」と信じている人ばかりでした。そのころは「どうやったら料理が楽しくなるだろう」「どうすれば料理をする人が1人でも増えるだろう」という話をみんなで四六時中していました。そういう熱い話を気負いなくできる仲間に30代前半で出会えたのは、本当に良かったと思います。

意志決定はすぐに! 自分がワクワクする方向へ動く

松尾 2008年に執行役に就任し、2012年に退社して現在は個人としてご活躍されています。独立のきっかけは何でしたか。

小竹 2006年に結婚し、2009年の上場と同じくらいのタイミングで出産しました。そして3カ月半で復帰して、編集部門長と社長室室長を兼務しました。そこでよくメディアで取り上げられる「まかない制度」や、お勧めレシピを掲載した社員の名刺を作ったりしたのですが、初めての育児と執行役の両立がプレッシャーでうまくできず、モヤモヤしている時期が1年くらいありました。

 例えば、私は5時に退社しないといけないけれど、営業の社員が帰社するのは5時以降ですれ違ってしまう。自分都合で周りを動かすことに何となく遠慮してしまい、悶々と苦しむことが増えたのです。気が付いたら、周りに気を使い過ぎて自分のリズムを見失い、それまでは外を向いて仕事をしていたのに、自分を向いて仕事をするようになっていました。

 そこでいったんリセットするために執行役を降り、その1年後にクックパッドを卒業しました。荒っぽい選択かもしれませんが、40歳になって「もう一度、新たなチャレンジをするなら今だ」という思いもありました。

松尾 独立した後のビジョンはどのように描いていたのですか。

小竹 正直なところ、あまり具体的には考えていませんでした。クックパッドの元同僚に声を掛けてもらって、シェフが家庭料理の楽しさを伝える「シェフごはん」というサイトの編集を手伝ったのが最初の仕事になりました。

 今はグリーンハウスが運営している、食事を記録すると管理栄養士がアドバイスをくれるネットサービス「あすけん」の顧問をしています。また、きのこの会社ホクトの社外取締役も務めているのですが、これもクックパッドからのご縁です。

 緩やかにいくつもりがけっこう忙しくなりましたが、どれも自分が心から信じるサービスですし、悪い意味での遠慮が無くなり、ストレスフリーで仕事をしています。実は、古巣クックパッドでも最近仕事をスタートしました。

松尾 いろいろな決断の場面がありましたが、そこで大切にしてきたことはありますか。

小竹 「すぐ決める」ですね。状況はいろいろ変わりますから、いいお話をいただいても1カ月、2カ月とウジウジしていたら他の人に取って代わられます。私には、何か天才的な才能があるわけではないので、「お話をいただいたときが、決める瞬間なのだろう」といつも思ってきました。意志決定は、「最終的に間違っていても仕方がない」と割り切り、とにかく早く、直感に従って行うことが多いです。

 それから、これは佐野さんの言葉ですが、「遠慮は悪」だと心から思います。何もいいことはありません。私がクックパッドの執行役のときに周囲に遠慮して苦しくなった話をしましたが、辞めた後に他の役員たちと話したら「成果で返してくれればいい」と皆思ってくれていたのです。

 「堂々と5時に帰り、その分しっかり面白いことをやって、結果を出してくれれば良かったのに、1人で悩んでいたよね」と言われました。ただ、悩みを1人で解消するのは難しいと感じます。私のように辞めるという決断もありますが、部署を変わるなど、環境を自分で変えるというのも悩みを解消するための一つのやり方だと思います。周囲は環境を変えてくれませんから、自分から環境を変えていく努力が大切です。

松尾 小竹さんは「こっちの方が楽しそうだ」という方向に動いていく方、という印象を受けました。

小竹 私は「まだ誰もできていないこと」「人がやりたがらないこと」にチャンスがあると思っています。クックパッドへの転職でいえば、当時はレシピサイトで儲かるなんて誰も思っていなかったし、コミュニティサイトの運営は面倒で難しいと思われていました。ましてネットは男性の世界でした。

 でも、そんな時代から「キッチンで主婦がネットを使ってレシピを探すような文化を創る!」と佐野さんは言っていました。そういうことに私はワクワクしてしまうんです。確かに自分は、直感に素直に従った生き方をしていると思います。そうして幸せを自分で引き寄せているのかもしれません。「面白くなさそうなことは何もしないよね」と言われちゃうこともありますけれどね(笑)。

構成:宮内健 撮影:上飯坂真

聞き手 松尾匡起

松尾匡起

クライス&カンパニー シニアコンサルタント

ITベンダーにて人事(採用)を担当。チームマネジメント、人材育成などの経験を経て、転職支援エージェントに転進。コンサルタント、企画系の職種を中心に採用支援サポートを行い、2006年にクライス&カンパニー入社。1975年生まれ。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。


「転機をチャンスに変えた瞬間」バックナンバー

※この連載はWebサイト「TURNING POINT 転機をチャンスに変えた瞬間 ビジネスの現場から」を、サイト運営会社の許可の下、一部修正して転載するものです。データなどは取材時のものです。

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