複数のルーティング手法とルーティングプロトコルの比較:CCENT/CCNA 試験対策 2015年版(15)
シスコシステムズの認定資格「CCENT/CCNA」のポイントを学ぶシリーズ。今回は「ルーティング」と「ルーティングプロトコル」について学習します。
ネットワーク初心者がCCENT/CCNAを受験するために必要な知識を学ぶ本連載。今回の学習テーマは、シスコシステムズが発表しているCCENT試験内容の4.6「複数のルーティング手法とルーティングプロトコルの比較」です。
ルーティングとルーティングプロトコル
「ルーティング」とは、ユーザーデータを宛先ネットワークへ届けるためにルールに従って最適な経路(ルート)を選ぶことです。東京の日本橋から京都までの移動に、東海道を使うか、中山道を使うか決めることと同じです。
経路選択をするための仕組みのことを「ルーティングプロトコル」と呼びます。
次に、ルーティングプロトコルの各項目を説明します。
静的ルーティング
「静的ルーティング」は、ネットワーク管理者が手動で経路情報を設定することです。ルーターが経路情報を計算する必要がないため、ルーターのリソース(CPUやメモリなどの資源)を動的ルーティングに比べて消費しません。しかし、設定された経路が途中で切断された場合には、ユーザーデータを宛先に届けられなくなります。
静的ルート
「静的ルート」は、静的ルーティングにより設定された経路情報のことです。「スタティックルート」とも呼びます。
- デフォルトルート
静的ルートは宛先ネットワークを個別に設定します。「デフォルトルート」は、全てのネットワークに対する経路情報を一括で設定するときに使用します。
動的ルーティング
「動的ルーティング」は、ルーターが一定のルールに基づいて、最適な経路を算出する仕組みです。最適な経路を計算するため、ルーターのリソースを絶えず使用します。静的ルーティングとは異なり、最適経路が途中で切断されても、自動で代替経路を算出できます。
ディスタンスベクター
「ディスタンスベクター」は、ディスタンス(距離)とベクトル(方向)に基づいて、最適経路を算出する方式です。ルーティングプロトコルにおけるディスタンスの代表は、「ホップ数(ルーターを通過した回数)」です。ホップ数が多いほど遠いネットワークであると判断します。
- RIP:Routing Information Protocol
「RIP」はホップ数の大小により最適経路を算出するプロトコルです。同じ宛先ネットワークに対してホップ数が3と10の経路があったら、ホップ数3の経路を最適経路と判断します。RIPには、次のような特徴もあります。
- 大規模ネットワークにはRIPは適さない(ホップ数は最大15のため)
- 30秒間隔での定期的なアップデートを行う
- 帯域幅の小さい経路(遅い経路)でもホップ数が小さいと最適経路として選んでしまう欠点がある
- EIGRP:Enhanced IGRP(Interior Gateway Routing Protocol)
「EIGRP」は、シスコシステムズ独自の「IGRP」の拡張版です。次のような特徴があります。
- 帯域幅、信頼性、遅延、負荷、MTUをメトリック計算に使用する
- デフォルトでは帯域幅、遅延のみを計算に使用する
- 拡張ディスタンスベクター型 ホップ数100(最大255)
- 最適経路を「サクセサー」、二番目の最適経路を「フィジブルサクセサー」と呼ぶ
リンクステート
「リンクステート」は、リンク(回線)のステート(状態)に基づいて最適経路を算出するルーティングプロトコルです。ホップ数が多い経路でも、帯域幅が広い回線を最適経路として算出します。
- OSPF:Open Shortest Path First
「OSPF」は、リンクステート型のルーティングプロトコルです。帯域幅を基にコストを算出し、最低コストを最適経路とします。
- 100Mbps(Mビット/秒)÷帯域幅=コスト
- 高速回線ほど低コスト
- ネットワーク構成(トポロジ)を把握する
- トポロジを把握するアルゴリズムのためにCPUやメモリへの負荷が高い
下の図は、ディスタンスベクターとリンクステートの最適経路の算出方法です。
AD値
最後に「AD値」(アドミニストレーティブディスタンス値)についても説明しておきましょう。AD値は経路情報の信頼度を表す数値で、値が小さいものほど信頼度が高くなります。同じ宛先への経路情報について、例えば静的ルートとRIPで得られた場合、静的ルートを優先して使用します。直接接続が最優先、静的ルートがその次、EIGRP、OSPF、RIPの順に、AD値の小さいものから選択されます。表中の赤字のものが特に重要です。
演習問題
Q1. アドミニストレーティブディスタンス値の項目のうち、シスコシステムズが策定したルーティングプロトコルはどれか(2つ選択せよ)。
A1. 「EIGRP」および「IGRP」です。
Q2. アドミニストレーティブディスタンス値の項目の、「外部BGP」「内部BGP」は「BGP」というルーティングプロトコルが算出した経路情報である。BGPとその他のルーティングプロトコルの違いを「IGP」「EGP」の語句を使って説明せよ。
A2. IGP(Interior Gateway Protocol)はEIGRP、IGRP、IS-IS、OSPFおよびRIPです。EGP(Exterior Gateway Protocol)はBGPのみ。AS内部で動作するIGPs(複数形のs)に対し、EGPはAS間で動作するルーティングプロトコルです。
Q3. 「ルーティングループ」とはどのような状態を指すのか。
A3. 経路情報の算出が終了していないときに、誤った経路情報によりユーザーデータをルーターが転送しても、送信したルーターに戻ってきてしまう状態です。
次回は、4.4「ping、traceroute、telnet、SSH、show cdp neighborsの各コマンドを使用したルーターの設定とネットワーク接続の確認の範囲」を説明します。
- ネットワークのトラブルシューティング――レイヤー3演習問題編
- ネットワークのトラブルシューティング――レイヤー3編
- ネットワークのトラブルシューティング――レイヤー2編
- ネットワークのトラブルシューティング――レイヤー1編
- スイッチのポートセキュリティ設定
- ネットワークデバイスのセキュリティ設定
- 時刻情報を同期する「NTP」の仕組みと、ルーターへの設定方法
- 「NAT」の仕組みとルーターへの設定方法
- 4種類のACLのルーターへの設定方法
- ACLごとの通過条件設定方法と適用場所、設定コマンド
- 標準ACL、拡張ACL、番号付きACL、名前付きACL――ACLの基礎知識と分類方法
- DHCPとは何か――ルーターでDHCPサーバーを稼働させるための設定方法や仕組み、シーケンス、メッセージの種類、リレー、リース期間
- VLAN間ルーティングの設定と確認
- OSPFv3とOSPFv2の違い、そして設定コマンド
- OSPFを理解する基本的なポイントと設定コマンドの使い方
- リンクステート型ルーティングプロトコル「OSPF」
- ディスタンスベクター型のルーティングプロトコル「IGRP」と「EIGRP」
- ディスタンスベクター型のルーティングプロトコル
- 所定のルーティング要件に対応するスタティックルート(静的ルート)またはデフォルトルートの、ルーティング設定と確認
- コマンドを使用したルーターの設定とネットワーク接続の確認
- 複数のルーティング手法とルーティングプロトコルの比較
- ルーター設定を行うためのCLIの設定と活用方法
- アクセスポートとトランクポート
- VLANで論理的に独立したネットワークを作成する
- ストア&フォワード方式、カットスルー方式、CAMテーブル
- コリジョンドメインとブロードキャストドメイン
- トポロジとメディアアクセス制御を理解する
- デュアルスタック、トンネリング、NAT――IPv6とIPv4の共存方法
- ぶいろく? ぶいしっくす?――初心者でも分かる「IPv6」の基礎
- 至高のネットワークアドレッシング方式学習法
- 究極の入門 プライベートIPアドレスとパブリックIPアドレス
- 超入門 ネットワークケーブルの種類と配線方式の違い
- ネットワークデバイス(ルーター、スイッチ、ブリッジ、ハブなど)の目的と機能 基礎の基礎
- 新人ネットワークエンジニアがまとめたTCP/IPプロトコルスタックとOSI参照モデルの基礎知識
- CCENT/CCNA取得を目指す皆さんへ
筆者プロフィール 齋藤貴幸
ドヴァ ICTソリューション統轄本部 デベロップメント&オペレーショングループ 2部
情報系専門学校の教員を12年勤めた後に同社へ入社、エンジニアへ転向。沖縄県と首都圏を中心にネットワーク構築業務に携わる。また、シスコ・ネットワーキングアカデミー認定インストラクタートレーナーとして、アカデミー参加校のインストラクターを指導している。炭水化物をこよなく愛する男。
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