シスコの認定資格「CCENT/CCNA」のポイントを学ぶシリーズ。今回は、前回に引き続きOSPFを理解するポイントについて解説し、最後にコマンドによる設定方法を紹介します。
ネットワーク初心者がCCENT/CCNAを受験するために必要な知識を学ぶ本連載。前回は、シスコシステムズが発表しているCCENT試験内容の4.7「OSPF(シングル エリア)の設定と確認」の範囲から、リンクステート型のルーティングプロトコル「OSPF」(Open Shortest Path First)のダイクストラのアルゴリズム、エリア、プロセスIDなどについて説明しました。
今回も引き続きOSPFについて、「ルーターID」「プライオリティ値」「代表ルーター(DR:Designated Router)」「バックアップ代表ルーター(BDR:Backup Designated Router)」「ネットワークタイプ」などを説明します。最後に、OSPFに関連する設定コマンドについて解説します。
なお、今回の記事内で「OSPF」と書いている箇所は全て、「OSPFv2」のことを指しています。
OSPFv2はOSPFをより実用的にバージョンアップしたもので、IPv4を使用します。IPv6に対応した「OSPFv3」については、次回解説します。
では、「OSPFを理解するポイント」を前回に引き続き解説します。前回掲載した「OSPFの特徴」を再掲しておきます。
ルーターIDとは、「AS(Autonomous System:自律システム)」の中でOSPFを動作させているルーターの識別子となる番号です。ルーターIDは「ドット付き10進表記」で表現します。「10.10.10.1」や「5.6.7.8」のようなIPv4アドレスと同じ形式です。また、他のルーターと重複させてはいけません。
ルーターIDは、IPv6でもドット付き10進表記です。IPv4でもIPv6でも、OSPFのルーターIDは「10.10.10.10」で表現するということです。
ルーターIDは後述の「DR(代表ルーター)/BDR(バックアップ代表ルーター)の選出」にも使われます。なお、CCENT/CCNAよりも上位レベルの資格であるCCNP(Cisco Certified Network Professional)の試験範囲なので本稿では詳しくは説明しませんが、マルチエリアOSPFの環境で使用するバーチャルリンクという機能でも、ルーターIDを設定に使用します。
ルーターIDの設定方法は、下記の三種類です。ループバックインターフェースについては記事「IPルーティング入門(最終回):OSPFネットワークの確立と運用上の注意点」を参照してください。
1.については、後述「OSPFの設定コマンド」の(5)を、ループバックインターフェースの設定については、後述「OSPFの設定コマンド」の(1)を参照してください。
プライオリティ値はOSPFルーターのランク付けに使用する値で、「0」〜「255」の範囲で任意に設定できます。初期値は「1」です。値が大きいほど「ランクが高い=優先度が高い」と判断します。
プライオリティ値は、ルーター全体で一つの値を設定するのではなく、インターフェースごとに個別の値を設定します。後述のDR/BDRの選定条件として使用します。OSPFプライオリティ値を「0」にするとDR/BDRの選出対象から除外され、DR/BDRになりません。
プライオリティ値の設定コマンドについては、後述「OSPFの設定コマンド」の(2)を参照してください。
OSPFでは、全てのルーター間でルーティングアップデートを交換するとは限らず、特定のOSPFルーターのみがアップデートを受信します。
ルーティングアップデート(経路の更新情報。後述)を受信するルーターを「代表ルーター(DR)」「バックアップ代表ルーター(BDR)」と呼びます。OSPFプライオリティ値が最大のルーターがDR、2番目に大きな値を持つルーターがBDRです。DR/BDRの役割を担っていないその他のOSPFルーターは「DROTHER」と呼ばれます。
シリアルケーブルを使用して1対1で接続している場合は、DR/BDRの選出は行われません。この場合、ルーティングアップデートは相手のOSPFルーターにそのまま送信されます。
DR/BDRの選出基準は二つあります。一つ目の基準は「OSPFプライオリティ値」です。プライオリティ値が大きい方を優先します。プライオリティ値が同じ場合は「ルーターID」を判定基準として使い、ルーターIDの値が大きい方をプライオリティが高いと判断します。
以下は、DR/BDRの選出基準をまとめたものです。
イーサネットのような「1対多」のトポロジ環境では、全てのOSPFルーターは自分以外の全OSPFルーターではなく、DR/BDRとなっているOSPFルーターとだけネイバー関係(近接関係)を結びます。
ルーティングアップデートは、DR/BDRとなっているOSPFルーターにだけマルチキャストアドレス(グループ宛てのアドレス)を宛先としたパケットを送ります。宛先アドレスは「224.0.0.6」、宛先は「DR/BDRであるOSPFルーター」です。
ルーティングアップデートを受信したDRは、自身以外の全てのOSPFルーターへアップデートを転送します。このとき使用する宛先アドレスもマルチキャストアドレスですが、値が異なります。DRがアップデートを送信する際に使用する宛先マルチキャストアドレスは「224.0.0.5」で、全てのOSPFルーターを表します。
DRからルーティングアップデートを受信したそれぞれのOSPFルーターは、「LSDB(リンクステートデータベース)」を更新します。
BDRは、ルーティングアップデートの発信者であるOSPFルーターからと、DRから、二つのルーティングアップデートを受信します。一つしかアップデートを受信しなかった場合は、受信した宛先マルチキャストアドレスの値が「224.0.0.6」だったら、DRが消失したと判断してDRへ昇格します。
ネットワークタイプは、OSPFを動作させるルーターがどのように接続されているか、トポロジの種類を示す語句です。レイヤー2の接続状態で判別します。
ネットワークタイプは、1対1で接続する「ポイントツーポイント」、イーサネットのような1対多の「ブロードキャスト」、フレームリレーというWANサービスの環境下で判別される「NBMA(Non Broadcast Multi Access)」の3種類です。
ネットワークタイプにより、DR/BDRの選出を行うのか/行わないのか、が変わります。また、NBMAネットワークはマルチキャストパケットを相手に送れず、ユニキャストパケットのみで通信します。この制限があるため、NBMAネットワークでは手動でOSPFネイバーを指定します。
最後に、OSPFに関連する設定コマンドを紹介します。トポロジ図とともにR1、R2の設定を見ましょう。
下記は、コマンドの(1)〜(6)の役割です
. | コマンドの役割 |
---|---|
(1) | ループバックインターフェースの宣言。ルーターIDとしても使用する(コマンド(5)参照) |
(2) | OSPFプライオリティ値の設定。インターフェースごとに個別に設定する |
(3) | OSPFの「コスト」(前回記事参照)の手動設定。帯域幅から計算させない |
(4) | OSPFそのものの宣言。末尾の「1」が「プロセスID」(前回記事参照) |
(5) | ルーターIDの手動設定。未設定時はループバックインターフェースのIPアドレスを流用する(コマンド(1)参照) |
(6) | アドバタイズするネットワークの宣言。「area」の後ろの「0」が「エリア」(前回記事参照)の番号。ネットワークアドレスの後に半角スペースを挟んで存在する「0.0.0.255」はワイルドカードマスク(連載第19回参照) |
手動設定用の「router-id」「ip ospf priority」「ip ospf cost」コマンドなどの入力は任意です。管理者として手動設定することができますし、ルーターに計算を任せることもできます。上記のコマンド例では全て設定していますが、三つとも未設定でもOSPFは動きます。
Q1. DRが消失したときにBDRがDRへ昇格するが、空いたBDRのポストはどうなるのか?
A1. DROTHERのOSPFルーターからBDRが選出される。
Q2. OSPFでデフォルトルートを伝搬するには、どうすれば良いか?
A2. デフォルトルートそのものの設定と、それをOSPFで伝搬する設定の、二段階の設定が必要である。
(config)# ip route 0.0.0.0 0.0.0.0 Gi0/0
・・・・デフォルトルートの設定
(config)# router ospf 1
・・・・OSPFの宣言
(config-router)# default-information originate [ always ]
・・・・デフォルトルートを伝搬する設定
自身でデフォルトルートを設定している場合は、default-informationコマンドのalwaysオプションは不要。
Q3. 「192.168.4.0/24」「192.168.5.0/24」の2つのネットワークを、1行のOSPF networkコマンドで処理したい。ワイルドカードマスクをどのように設定すれば良いか。
ア 0.0.0.255 / イ 0.0.1.255 / ウ 255.255.254.0 / エ 255.255.255.0
A3. 「イ」の「0.0.1.255」が正解。
ワイルドカードマスクなので、サブネットマスクを表している「ウ」と「エ」は正解ではない。
「ア」の「0.0.0.255」もワイルドカードマスクではあるが、チェック対象としないビット(値が1のビット)が25〜32ビット目のみである。
「192.168.4.0/24」「192.168.5.0/24」の2つのネットワークを1行で処理するには、ワイルドカードマスクの24ビット目も「チェックしないビット」、つまりワイルドカードマスクの値を「1」とする必要がある。
よって、上記の2つのネットワークをまとめるためのワイルドカードマスクは「イ」しかない。
IPv4に対応したOSPFv2の説明は以上です。次回はIPv6に対応したOSPFv3について、OSPFv2と異なる点を中心に説明します。
ドヴァ ICTソリューション統轄本部 デベロップメント&オペレーショングループ 2部
情報系専門学校の教員を12年勤めた後に同社へ入社、エンジニアへ転向。沖縄県と首都圏を中心にネットワーク構築業務に携わる。また、シスコ・ネットワーキングアカデミー認定インストラクタートレーナーとして、アカデミー参加校のインストラクターを指導している。炭水化物をこよなく愛する男。
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