ディスタンスベクター型のルーティングプロトコル「IGRP」と「EIGRP」CCENT/CCNA 試験対策 2015年版(19)

シスコの認定資格「CCENT/CCNA」のポイントを学ぶシリーズ。今回はディスタンスベクター型のルーティングプロトコルの一つ「EIGRP」を学習します。

» 2015年07月23日 05時00分 公開
CCENT/CCNA 試験対策 2015年版

連載目次

 ネットワーク初心者がCCENT/CCNAを受験するために必要な知識を学ぶ本連載。前回は、シスコシステムズが発表しているCCENT試験内容の4.6「複数のルーティング手法とルーティング プロトコルの比較」の範囲から、動的ルーティング、特にディスタンスベクター型のルーティングプロトコルについて説明しました。

 今回は前回に引き続き、「複数のルーティング手法とルーティング プロトコルの比較」の範囲から、ディスタンスベクター型のルーティングプロトコルの一つ「EIGRP」について説明します。

IGRP(Interior Gateway Routing Protocol)

 EIGRPの説明をする前に、「IGRP」について説明をします。それは、EIGRPがIGRPを改良したルーティングプロトコルであるためです。

 IGRPは、シスコシステムズが開発したルーティングプロトコルです。シスコシステムズの機器だけがIGRPを動作させることができます。

 IGRPは第18回で説明した「RIP」をベースとして開発されたルーティングプロトコルです。RIPのホップ数(経由できるルーターの台数)は最大で15でしたが、IGRPでは初期状態で100、最大で255です。

 ホップ数の他にも、RIPとIGRPでは異なる点があります。以下は、そのまとめです。

RIPとIGRPの違い

EIGRP(Enhanced−Interior Gateway Routing Protocol)

 IGRPを改良して、ディスタンスベクター型の特徴である「仕組みが簡単である点」「リンクステート型のコンバージェンス(収束:ネットワークトポロジが把握できた状態)までの時間が短い点」という長所ばかりを寄せ集めたルーティングプロトコルが、EIGRPです。

 ディスタンスベクター型とリンクステート型を融合したので、「ハイブリッド型のルーティングプロトコル」と以前は呼ばれていました。現在では「高度なディスタンスベクター型のルーティングプロトコル」と呼び方が変わっています。

EIGRPの特徴

 EIGRPのルーティングプロトコルには下記の特徴があります。

EIGRPの特徴

 EIGRPはIGRP同様に、次の5つの要素をメトリック計算に使用します。

帯域幅 宛先ネットワークまでに複数種類の帯域幅が存在するときは、最小値を計算に使用する。単位:kbit/s
信頼性 1〜255の範囲の値。大きいほど信頼性が高いと判断される
遅延 宛先ネットワークまでの遅延の合計値。単位:10マイクロ秒
負荷 1〜255の範囲の値。小さいほど負荷がないと判断される
MTU 一度に送れるデータ量。イーサネットでは最大1500バイト。単位:バイト

 デフォルト(初期状態)の状態では、帯域幅と遅延のみ使います。

 5つの要素をどのようにメトリック計算に使用するかは管理者の自由ですが、EIGRPで通信をさせようとする全てのルーターで計算式を統一する必要があります。計算結果の値が小さいものから最適経路として使用します。

 メトリック計算だけでなく、「AS(Autonomous System:自律システム)番号」も合わせる必要があります。ASとは一つの管理ポリシーでネットワークが管理される範囲、ネットワークそのものを指します。「一つの企業」「一つの学校」などの範囲です。EIGRPではAS番号も同じ値を設定します。

EIGRPを理解するポイント

EIGRPが使うテーブル

 EIGRPを使用するルーターでは、「ネイバーテーブル」「トポロジーテーブル」「ルーティングテーブル」の3種類のテーブルを使用します。

 ネイバーテーブルには「自身のルーターと隣接関係にあるルーターの情報」が保存されます。

 トポロジーテーブルには、ネイバールーターが通知してきた「ネイバールーターから宛先ネットワークへのメトリック(RD)」が保存されます。

 「RD」はReported Distanceの略です。かつては「AD(Advertised Distance)」とも呼ばれていました。「RDの値と自身のルーターからネイバールーターへのメトリックを足したもの」が、「自身のルーターから宛先ネットワークへのメトリック」です。これを「FD(Feasible Distance)」と呼びます。

 ちなみにメトリックとは、ルーターが最低経路を選択する基準となる値です。EIGRPでは「複合メトリックの計算結果」、RIPでは「ホップ数」、OSPFでは「コスト」をそれぞれメトリックとしています(OSPFについては次回説明します)。

 ルーティングテーブルには「最適経路(EIGRPではサクセサーと呼びます)」が保存されています。今までに説明したルーティングテーブルのことです。

サクセサーとフィージブルサクセサー

 サクセサーが最適経路なのに対し、「フィージブルサクセサー」は代替経路を指します。

 サクセサーがルーティングテーブルから消失し、かつフィージブルサクセサーが存在するときには、フィージブルサクセサーがサクセサーへすぐに昇格します。フィージブルサクセサーが存在せずにサクセサーが消失したときは、ネイバールーターに「宛先ネットワークへの経路が存在しないか」問い合わせを行います(クエリの送信)。

 数珠つなぎ状態のネットワークトポロジーだと、「SIA(Stack In Active)」という、クエリの応答待ち状態のままで、その宛先ネットワークへの通信が行えない状態になる場合があります。

 サクセサーは必ず存在しますが、フィージブルサクセサーは下記の条件を満たした場合のみ存在します。

フィージブルサクセサーが存在するための条件

DUAL(Diffusing Update Algorithm)

 EIGRPは、「DUAL」と呼ばれるアルゴリズムを使用して、ネットワークトポロジーを把握します。

 DUALは宛先ネットワークに対してループとならない経路を生成し、トポロジテーブルに保存します。トポロジに変化があったら、変更があった差分のみ更新します(差分アップデート)。

不等コストロードバランシング

 宛先ネットワークへのメトリックが同じ場合(「等コスト」の場合)、ルーティングプロトコルは複数の経路を使用します。一般的に4経路まで使用できます。

 EIGRPではメトリックの異なる経路でも、等コストの経路と見なして同時に使用できます。この機能のことを「不等コストロードバランシング」と呼びます。デフォルトでは不等コストロードバランシングは無効なので、使用したい場合に明示的に設定します。「サクセサーのFDのn倍」(nは整数)までを許容範囲として設定します。

自動集約

 EIGRPに限った話ではありませんが、ルーティングプロトコルは、サブネット化されたネットワークを、「クラスフルアドレス(サブネット化する前の8ビット区切りであるアドレス)にまとめた経路」としてアドバタイズしようとします。これを「自動集約」と呼びます。

 下の図のようにサブネットが分断されたネットワークで、自動集約が有効になっていると、サブネット化された両端のネットワーク間は経路情報が交換できません。このような場合には、自動集約を無効とする設定を行う必要があります。EIGRPでは必ずと言ってよいほど、この設定が必要です。

不連続サブネットワークの例(クリックすると拡大画像を表示します)

設定コマンド

 ルーターでEIGRPを動作させるには、次のコマンドを設定します。

EIGRPの設定コマンド

 「ワイルドカードマスク(図中の青字の「0.0.0.255」など。ネットワークアドレスの抽出に使用する)」は、ネットワークアドレスなどとセットで使用します。サブネットマスクと同じようにネットワークアドレスとAND演算するために使用します。

 ワイルドカードマスクでの「0」と「1」の数字の意味は、以下の通りです。

ワイルドカードマスクの「0」と「1」の意味

 「サブネットマスクの1と0が反転したものが、ワイルドカードマスクだ」という説明をよく見ますが、「サブネットマスクのように1と0が整然と並ばない場合もある」のがワイルドカードマスクです。「サブネットマスクの1と0の反転したもの、とは異なるもの」と覚えた方がいいでしょう。

演習問題

Q1. ディスタンスベクター型ルーティングプロトコルを2つ選べ。

ア RIP/イ BGP/ウ IGRP/エ OSPF/オ IS-IS


A1. 「ア」と「ウ」


フキダシ内をクリックすると答えを表示します(表示後ページをリロードすると、再び非表示になります)

Q2. メトリックとして用いられるものを3つ選べ。

ア 遅延/イ 信頼性/ウ アルゴリズム/エ 帯域幅/オ 優先度


A2. 「ア」と「イ」と「エ」


フキダシ内をクリックすると答えを表示します(表示後ページをリロードすると、再び非表示になります)

Q3.  アドミニストレーティブディスタンス値が小さい順番に並べ替えよ。

ア RIP/イ 直接接続/ウ EIGRP/エ OSPF/オ 静的ルート


A3. イ => オ => ウ => エ => ア


フキダシ内をクリックすると答えを表示します(表示後ページをリロードすると、再び非表示になります)



 次回は、4.7「OSPF(シングルエリア)の設定と確認」の範囲を説明します。

編集部注:表記について 過去記事では「サクセサ」表記しておりましたが、2013年12月の@ITサイトの表記ルール変更に伴い、本記事は「サクセサー」と表記します

「CCENT/CCNA 試験対策 2014年版」バックナンバー

筆者プロフィール 齋藤貴幸

齋藤貴幸(さいとうたかゆき)

ドヴァ ICTソリューション統轄本部 デベロップメント&オペレーショングループ 2部

情報系専門学校の教員を12年勤めた後に同社へ入社、エンジニアへ転向。沖縄県と首都圏を中心にネットワーク構築業務に携わる。また、シスコ・ネットワーキングアカデミー認定インストラクタートレーナーとして、アカデミー参加校のインストラクターを指導している。炭水化物をこよなく愛する男。


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