最適ネットワーク機器選択術

コラム
イーサネット カードにおけるサーバ用とクライアント用の違い

島田広道
2000/07/07

 ショップ店頭でPCI対応のイーサネット カードを探していると、多数のクライアントPC向け製品に混じって、それよりずっと高価なサーバ向けの製品を目にすることがある。イーサネット カードの大手ベンダなら、このようにクライアントPC向けとは別に、サーバ用途に特化して開発したイーサネット カードもラインアップしている。サーバ用とクライアント用でこれだけの価格差が生じる理由は何なのか、管理者としては気になるだろう(サーバも管理している場合はなおさらだ)。またサーバ用イーサネット カードで確立された技術が、後にクライアント用にも導入されることがある。ここで、クライアント用に比べてサーバ用イーサネット カードが秀でている点をはっきりさせておこう。

サーバ用イーサネット カードの技術

 サーバとクライアントで決定的に異なるのは、要求される性能と信頼性である。サーバは多人数で共有するので負荷も集中しやすいし、障害などで停止すると多くのユーザーの業務に影響を及ぼすからだ。つまりサーバに使われるイーサネット カードでは、クライアント用よりも高い性能と信頼性が要求されるのだ。こうした目的を達成するために、サーバ用イーサネット カード向けに開発された主要な技術について以下にまとめよう。

■複数のイーサネット カードによる障害対策

 イーサネット インターフェイスが1つしかないサーバでは、イーサネット ケーブルの断線やインターフェイス回路の故障などといったハードウェア トラブルが、そのままクライアントPCとサーバ間の通信途絶という深刻なトラブルにつながってしまう。そこで考案されたのが、複数のイーサネット インターフェイスをサーバに搭載しておき、そのうち1つだけを普段は利用し、もし故障したら別のものに切り替えて利用し続ける、という技術である。このようにハードウェアを冗長に装備するというのは、障害対策にはよくある手法だ。

 この技術の実現で鍵となるのはデバイス ドライバであり、個々のイーサネット カードに特殊な工夫は不要である。デバイス ドライバは、OSに対して複数枚のカードを1枚のイーサネット カードに見せかける。そして、使用中のカードに障害が発生して通信が止まったら、自動的にほかのカードへ切り替えることで、OSやアプリケーションの処理が滞るのを防ぐのだ。

 サーバ用イーサネット カードには、1枚のカード上に同じイーサネット インターフェイスを2つ(あるいはそれ以上)搭載しているものもある。これを利用すれば単体で障害対策を実現できるので、イーサネット カードの枚数が減り、限りあるPCIスロットの空きを増やせるというメリットがある。

■複数のイーサネット カードによる負荷の分散

 ハードウェアの冗長装備を利用して性能も高めるという技術も、サーバではよく見かける。この技術は、一般的に負荷分散、あるいはロード バランシング(load balancing)などと呼ばれるものだ。イーサネット カードの場合は、複数のイーサネット カードで障害対策をしながら、通信トラフィックを各カードに分散することで通信速度を高めたり、トラフィックがサーバに集中したときの速度低下を防いだりできる。単純に考えると、イーサネット カードの数を増やしただけ最大転送レートを高めることができそうだが、実際にはPCIバスの転送レートがボトルネックになるし、また分散処理のためのオーバーヘッドもあるので、無限に速度が向上するわけではない。それでも現時点では、まだまだ高価なギガビット イーサネットを導入しなくても、比較的安価な100BASE-TXの機器だけでネットワーク性能を向上できるのが、この技術のメリットといえる。

 しかし、この負荷分散機能を実現するには、まずイーサネット インターフェイスをすべてスイッチ(スイッチング ハブ)と接続しなければならない。さらに、負荷分散技術にはいくつか種類があり、イーサネット インターフェイスとスイッチが同一の負荷分散技術に対応している必要がある。標準規格としてはIEEE 802.3ad(Link Aggregation:リンク アグリゲーション)が策定されているが、現時点ではCisco Systems社のFast EtherChannel(Gigabit Ethernetの場合はGigabit EtherChannel)やSun Microsystems社のSun Trunkingなどといった複数の仕様が並立しており、実装時にはどれかを選ぶ必要がある。このように、前述の障害対策に比べると、負荷分散は敷居の高い技術といえる。

■サーバを止めずに故障カードを交換する

 サーバの稼働率を高めるために開発されたのが、このPCIホットプラグという技術である。これはシステムの電源を入れたままPCIカードを着脱できるようにする技術で、サーバを止めることなく故障したカードを交換できる。PCIホットプラグを実現するには、PCIカードのハードウェアとソフトウェア(デバイス ドライバとユーティリティ)、PCIスロット側のハードウェア、そしてOSがそれぞれPCIホットプラグに対応する必要がある。このように対応すべき範囲が広いのは、カード交換時にスロットの電力をオフにしたり、ソフトウェア側で交換開始/終了を管理したりしなければならないからである。当然だが、PCIイーサネット カードだけPCIホットプラグに対応していても、ほかの部分が対応していなければ、最終的なホットプラグ機能は活用できない。また、サーバでもPCIホットプラグに対応しているのはエンタープライズ クラス以上の高価なシステムがほとんどであり、規模の小さいLANには縁遠い技術といえる。

■イーサネット カードのインテリジェント化

 サーバ用イーサネット カードのうち、特に高価な製品で採用されているのが、ネットワーク処理専門のプロセッサをカード上に搭載するという技術である。通常、イーサネット カードが処理するのはイーサネット レベルのパケット処理だけで、それ以外の処理はメイン プロセッサ(PCならx86プロセッサ)によって行われる。そこでイーサネット カードにプロセッサを載せ、より幅広い処理ができるようにインテリジェント化すれば、メイン プロセッサの負荷を軽減できる。大雑把にいえば、イーサネット カード上にもう1つのコンピュータ システムを設けるような技術である(それ故にコストもかかる)。

 インテリジェントなサーバ用イーサネット カードには、複数のイーサネット インターフェイスを装備したものが多い。これは、メイン プロセッサの負荷を増やすことなく障害対策と負荷分散を実現することができるためだ。

 インテリジェントなイーサネット カードのデメリットは、よくも悪くもカード上のプロセッサによって、ネットワーク性能が決まってしまうことだ。メイン プロセッサも拡張バスも十分高速な場合、イーサネットカード上のプロセッサの能力次第では、総合的にメイン プロセッサにネットワークの処理をさせたほうが高速になる可能性もある。インテリジェントなイーサネットカードの採用にあたっては、サーバとの組み合わせに十分な検討が必要だろう。

クライアント用にも流用される技術

  以上、代表的なサーバ用イーサネット カードの技術を紹介したが、クライアントPCにはもちろん、本稿で対象としている小規模なLANのサーバ マシンにも必要とはいえない技術がほとんどであることが分かる。では、クライアントPCにはまったく縁がないかといえば、そうでもない。キーワードはIPSec(アイ ピー セック)である

 IPSecをごく簡単に説明するなら、IPのパケットを暗号化することで、ネットワークを盗聴していてもパケットの中身を解析できないようにするという、セキュリティを高める技術の一種である。Windows 2000も標準でサポートしていることもあって、IPsecは企業のセキュリティ意識の高まりとともに普及しそうである。しかし、IPSecを実装するとパケットを暗号化するという新たな負担がメイン プロセッサにかかってしまう。この問題を、前述したイーサネットのインテリジェント化で解決するという手法が、すでに大手ベンダのイーサネット カードで実装され始めている。具体的には、IPSecの暗号化/復号化を専門に行うプロセッサをイーサネット カードに搭載するというものだ。

 この技術が、通信トラフィックの集中しやすいサーバにとって有用なのは間違いない。ただ、IPSecはサーバとクライアントの両方で実装する必要があるので、クライアントPCにもIPSecの暗号化/復号化の負担はかかってしまう。そのため、クライアントPC向けにもIPSec用プロセッサを搭載したイーサネット カードが商品化されている。すでに市販されているIntel社と3Com社の製品は、実売価格100ドル前後と未対応製品に比べて高めになっている。

 IPSecを利用する環境が整いつつあるという現状では、IPSecをハードウェアで処理するイーサネット カードがどれほど必要になるかは、まだ分からない。しかし、管理者としては、こうしたカードを導入する可能性も考慮していかなければならないだろう。

関連リンク
PRO/100 S Management Adapterの製品紹介ページ
3Com EtherLinkファミリ 10/100 PCI NIC with 3XP Processorの製品紹介ページ

 
     
 INDEX
  [特集]最適ネットワーク機器選択術
  1. イントロダクション
  2. イーサネットの基礎の基礎
    2-1. イーサネットの基本はCSMA/CD方式にある
      コラム:IEEE802の各種規格
    2-2. イーサネットのフレーム形式とコリジョン ドメイン
    2-3. 現在の主流、100BASE-TXを知る
      コラム:10BASE/100BASE以外のLAN規格
  3.
    3-1. デスクトップPCには100BASE-TX PCIカードが最適
      コラム:できれば避けたいISAイーサネット カード
    3-2. 一般的な100BASE-TX PCIカードの選択ポイント
    3-3. 100BASE-TX PCIカードの付加機能をチェックする
    コラム: イーサネット カードにおけるサーバ用とクライアント用の違い
    3-4. ノートPC用にはPCカードから選ぶ
    3-5. 100BASE-TX CardBusか、10BASE-T 16bit PCカードか?
    3-6. PCカードならケーブルの接続方式がポイント
    3-7. イーサネット ケーブル直結方式は便利か?
      コラム:USBによるイーサネット接続
    3-8. デバイス ドライバは重要な選択ポイント
    3-9. もう1つのソフトウェア サポート − ユーティリティ
      コラム:Linuxのためのイーサネット カード選び
  4.
    4-1. ハブ/スイッチの種類と機能
    4-2. ハブ/スイッチ選択の基礎知識
      コラム:そのほかのネットワーク機器
    4-3. ハブ/スイッチ選択のポイント

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