最適ネットワーク機器選択術 4.ハブ/スイッチ選択の極意4-3. ハブ/スイッチ選択のポイントハラパン・メディアテック |
さて、いよいよネットワークの構成を考えて、機器選びを行うときのポイントについて解説しよう。ここは、筆者の経験による主観的な意見も入る、いわゆる本音の部分もあるので、よくある教科書的な解説とは違っているかもしれない。その点、了解いただきながら読んでいただければ幸いだ。
用途と予算で選ぶ
小規模ネットワークを組む場合、予算は懐具合を見ながらというのが実際だろう。だが、目的とする用途や将来の拡張性を犠牲にしないというのも重要だ。もし、最低限の予算で、とりあえず4台以下のPCを接続するのなら、4ポートハブを1台選ぶというのがこれまでの常識である。だが、実験用ネットワークやよほど予算が限られている場合を除き、8ポートハブをおすすめしたい。しかも、後述するようにAC電源内蔵タイプがよい。4ポートではすぐにポート数が足りなくなるのが目に見えているからだ。そのうえ、カスケード接続しようと思うと、3ポートしか使えなくなる。1ポートをアップリンクに使うからだ。4ポートハブはコンパクト型で安価というメリットはあるものの、ACアダプタ形式の製品がほとんどだ。ハブのように24時間365日稼働で、しかも電源スイッチさえも不要な機器ではACアダプタの必然性はない。
なお、カスケード接続ができるポートを備えていることを忘れずに確認したい。クロス ケーブルをわざわざ用意しなくても、切り替えスイッチまたは専用のポートがあれば便利だ。クロス ケーブルは、しっかりマーキングして区別したつもりでも、外見からストレート ケーブルと見分けるのは難しい。よく間違えて使ってしまい、気が付くまで時間がかかるという失敗は多い。運が悪いとハブやスイッチ、ネットワーク カードが故障したり発煙したりといったトラブルもある(以前、筆者が使っていたハブの1番ポートは、それが原因で壊れてしまった)。できればクロス ケーブルは使いたくない。
ネットワーク カードは、すでに「3.イーサネット カード選びの方程式」で選んでいるので、後はケーブルだ。とりあえずは、カテゴリ5のUTPケーブルを使う。必要な長さ+αのものを選ぼう。かといって、あまりに長すぎるのは見た目にもよくないし、引っかけたりホコリが積もったりと問題も多い。部屋の広さやPCの設置環境にもよるが、たとえば最低必要な長さが2mであれば5mのケーブルにしておく。5m必要なら少し長すぎる感じはあるが10mにしておこう。もし、7mという特殊な長さのケーブルが手にはいるのであれば7mでもよい。
■今なら10/100BASEのスイッチがおすすめ
プラネックスの10/100BASEスイッチ「FX-08NP」 |
プラネックスの10/100BASEの8ポート スイッチ。AC電源を内蔵していながら、冷却ファンを省いた設計を実現している。ストア&フォワード転送やフロー コントロール機能など、スイッチに必要な機能はすべて揃えている。実売価格は、8500円前後と安価なのも魅力だ。 |
可能なら、1万円の予算追加で最初から100BASE-TXにするのも一考だ。いまさら、基本だからといって10BASE-Tから導入する必要はない。その場合、最初の一品は100BASE-TXのハブではなく、8ポートのスイッチにしておこう。正直なところ、100BASE-TXのハブは扱いにくい。前述のようにコリジョン ドメインのことを考慮してケーブル長を決めるのは面倒である。ハブのカスケード接続も制限がある。もちろん、とことん安上がりに仕上げたい場合は、10BASETのハブから始めていただいても結構だ。だが、これからネットワークを組むのなら10/100BASEのスイッチで決まりだろう。面倒はないし、とりあえず何でもつなげる。10/100BASEの混在環境でも問題ない。唯一の悩みは、実売価格が10BASE-Tよりも、少々高めということぐらいだ。
■ダイヤルアップ ルータで手軽にLANを構築
本当に、安上がりなシステムを真剣に考えなければならないのは、SOHOや小規模ネットワークではなく、数千台以上の機器を接続する大規模ネットワークである。小規模ネットワークは、何よりも余計な手間をかけず、簡単で快適な環境を手早く手に入れることのほうが大事だろう。
富士通のISDNルータ「NetVehicle-GX5」 |
10BASE-Tのポートを4つ装備しており、これだけでLANの構築が可能だ。SOHOなどではOCN常時接続にも対応しているので、ダイヤル アップ接続から専用線接続に移行しても投資が無駄にならない。 |
インターネットをISDNによるダイアルアップ接続で利用する場合、ダイアルアップ ルータが1台あれば、3〜4ポート程度のハブにもなるのでネットワークができあがる。OCNなど常時接続や専用線でもこれで使えるので、SOHOなどでは便利だ。ダイアルアップ ルータを使えば、1つのISDN接続を複数台のPCで共有でき、ダイアルアップ接続なのに、あたかもLAN接続や常時接続のような使い勝手が得られる。確かに、同じISDNを使うターミナル アダプタに比べれば少し高価だが、ハブの機能も併せて考えればお買い得だ。また、将来的にダイアルアップ接続から常時接続に移行する場合でも買い換えなど無駄にならない。ターミナル アダプタだと常時接続には使えないため無駄になってしまう。
ただし、ダイアルアップ ルータの備えるハブ機能は、10BASE-Tなので、もし100BASE-TXでの運用を考えるのであれば、前述のように10/100のスイッチが1台必要になる。
ハブ/スイッチ選択で重視したい機能
ハブやスイッチの機能で重視したいのは、先程も述べたカスケード接続用のポートの有無だ。また、スイッチでは、ストア&フォワード、フロー制御(バックプレッシャーとIEEE802.3x)がサポートされていること。オートネゴシエーションで10BASE/100BASEのメディアの違いや、半二重/全二重を自動判別してくれるのはうれしいが、時にうまく認識できない場合がある。このようなときに備え、マニュアル設定用の切り替えスイッチがハブやスイッチにあれば、この種の相性問題は緩和できる。本来は、完全な認識ができるはずなのにちょっと情けないが、現実問題なのでこの切り替えは重宝する。
そのほかのチェックポイント
ハブやスイッチを買うとき、筆者がいつもチェックしている項目を挙げておこう。まず、ポート数だ。これは多いほうがお買い得感がある。だが、PCを2〜3台しか持っていないユーザーが16ポートのハブを買うのは、無駄だろう。将来、PCの台数を増やすつもりでも、一体何台ぐらいまでつなぐようになるのか、置き場所なども考慮しよう。2〜3台のPCを保有するユーザーなら、8ポートのハブで十分だ。4ポートでよいという判断は、PCの使い方次第だし、あまりにも教科書的で余裕がない。どうせ1ポートあたり1000円程度なのだから、最初から8ポートにしておいたほうがよい。
■LEDが搭載されているものを選ぶ
また、一度動いてしまえば後はめったにトラブルは起きないが、通信状態や接続状態を示すLED(発光ダイオード)が付いているハブがおすすめだ。トラブル シューティング時にはこれが頼りになる。個人的には、できるだけ多くの情報が分かるよう、いっぱいLEDがついているものを買うことにしている。動作中も、どこからどこに通信が行われているのかがすぐに分かるので、トラフィックのだいたいの傾向を知ることができる。高級なハブやスイッチなどでは、SNMP(Simple Network Management Protocol)による管理情報でパケットや通信状態の統計を読み出すことができるが、そんな高級な仕組みがなくても、LEDがいっぱい光っていれば十分だ。SNMPは、大規模ネットワークで物理的に管理者が動き回るのが大変な場合に威力を発揮する管理用のプロトコルなので、小規模ネットワークにはあまり縁がない。だいたい、SNMPの機能が付いているだけで非常に高価になってしまうし、管理用のソフトウェアも必要だ。最近ではセキュリティ問題もあるので、使わないことも多い。
■AC電源内蔵型は譲れない点
あと、実際の機材選びで絶対に譲れないのが、AC電源内蔵型の機器であることだ。小型のハブやスイッチの多くはACアダプタを使うものが多い。だが、この種の機器は冷蔵庫や洗濯機と同じで、一度、置き場所を決めてしまえば、後で移動することは少ない。ACアダプタ型だと、束になったカテゴリ5ケーブルの張力や、誤って何かを引っかけたときに、電源プラグが抜けやすい。さらに、アダプタがほんのり発熱するのも嫌なものだ。ハブやスイッチなど信頼性を要求する機材にしては、ちぐはぐ感は否めない。もちろん、この点は個人の趣味と、価格の問題(AC電源内蔵型の方が少し高い)である。ただ、4ポート ハブは大半がACアダプタ型で、電源内蔵型を探すのは結構苦労するので、ACアダプタ型でがまんするしかない。これは、ACアダプタのほうが製品を安く作れるという事情からなのだが、ぜひとも電源内蔵型もラインアップしてもらいたいところだ。
■冷却ファンはないに越したことはない
冷却用のファンについては、高級機種やポート数が多いスイッチになるとやむを得ない。だが、静かなオフィスや自宅の居室で、それでなくてもPCの冷却ファンの音など耳障りなのに加えて、ハブやスイッチのファンまであってはたまらない。また、電子回路の寿命より、機械的なファンの寿命はずっと短いのが気になるところだ。かといって、ファンが必要なほど熱くなる機材では、風通しのよいところに置かなければ、意味がない。
コンパクト型の機器のほうが置き場所に困らずスマートだが、こと、冷却のことを考えると、同じ冷却用ファンがないタイプであれば、少し大きめのケースの機器のほうが「涼しい」はずなのでよい。一度設置すると、電源スイッチもなく、24時間365日稼働し続けるものなので、冷却用ファンのない静かで、少し大きめの機器を選びたい。そのため、設置場所も、ファンの有無にかかわらず、よくありがちな机の下の足元などではなく、ホコリの少ない風通しのよさそうな場所を選ぼう。ファンの音がやかましいからといって、変なところに置くと故障の元だ。
■コンセントはアース付きを選びたい
意外と忘れがちなのが、コンセントだ。できれば、アース付きの3穴タイプのものを使い、きちんとアースを取ろう。落雷などで壊れることもあるからだ。さらに、冷蔵庫と同じラインから電源を取るのは避けたい。冷蔵庫は、頻繁にコンプレッサーがオン/オフし、これが電源ラインに結構大きなノイズを出すからだ。オフィスの場合、コーヒー メーカーの電源ラインからも離すことはいうまでもない。
以上のような点に気をつけてハブ/スイッチを選ぶとよいだろう。最適な機器が選べたら、あとはネットワークの利用方法などを考慮して機器を接続していけばよい。最適なネットワークの構築方法についてはあらたて紹介することにする。
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関連リンク | |
「FX-08NP」の製品情報ページ | |
「NetVehicle-GX5」の製品情報ページ |
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[特集]最適ネットワーク機器選択術 | |||
1. | イントロダクション | ||
2. | イーサネットの基礎の基礎 | ||
2-1. | イーサネットの基本はCSMA/CD方式にある | ||
コラム:IEEE802の各種規格 | |||
2-2. | イーサネットのフレーム形式とコリジョン ドメイン | ||
2-3. | 現在の主流、100BASE-TXを知る | ||
コラム:10BASE/100BASE以外のLAN規格 | |||
3. | |||
3-1. | デスクトップPCには100BASE-TX PCIカードが最適 | ||
コラム:できれば避けたいISAイーサネット カード | |||
3-2. | 一般的な100BASE-TX PCIカードの選択ポイント | ||
3-3. | 100BASE-TX PCIカードの付加機能をチェックする | ||
コラム: イーサネット カードにおけるサーバ用とクライアント用の違い | |||
3-4. | ノートPC用にはPCカードから選ぶ | ||
3-5. | 100BASE-TX CardBusか、10BASE-T 16bit PCカードか? | ||
3-6. | PCカードならケーブルの接続方式がポイント | ||
3-7. | イーサネット ケーブル直結方式は便利か? | ||
コラム:USBによるイーサネット接続 | |||
3-8. | デバイス ドライバは重要な選択ポイント | ||
3-9. | もう1つのソフトウェア サポート − ユーティリティ | ||
コラム:Linuxのためのイーサネット カード選び | |||
4. | |||
4-1. | ハブ/スイッチの種類と機能 | ||
4-2. | ハブ/スイッチ選択の基礎知識 | ||
コラム:そのほかのネットワーク機器 | |||
4-3. | ハブ/スイッチ選択のポイント | ||
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