最適ネットワーク機器選択術

3.イーサネット カード選びの方程式

 

島田広道
2000/07/07

 イーサネットの動作原理が分かったところで、次は実際のイーサネット カード選びに入ろう。LANを構築するためには、PCをLANに接続するイーサネット カードが必要不可欠だ。イーサネット カードは、ユーザーから見ると、社内LANの入り口であると同時に、インターネットへの最も近い接続ポイントでもある。もし、何らかの不具合でイーサネット カードが動かなくなれば、LANやインターネットがまったく使えなくなることを意味する。イントロダクションで述べたように、LANやインターネットに依存する最近の仕事形態からすれば、これは仕事ができなくなることと同義となる。

 そういった事態を招かないために、高くてもせいぜい数千円となったイーサネット カードでもいい加減には選択できない。またひと口にイーサネット カードといっても、10BASE-Tか100BASE-TXか、あるいはデスクトップPC用かノートPC用かなど条件によって選択のポイントは異なってくる。

 ノーブランドのものからインテルやスリーコムといった有名ブランドまで、価格も数百円から数万円といったものまで多種多様な製品が販売されているので、その選択は簡単ではない。こんなときの定番の解決策は「やや高価でも有名ブランドの製品を買う」ことなのだが、イーサネット カードの場合、必ずしもこれが当てはまらない。用途やニーズによっては、安価な製品でまったく十分なことも多いのだ。

 数百円のカードなら失敗しても買い換えればいい、という考え方もあるだろう。しかし、セッティングやメンテナンスにかかる時間、カードが動かないことで生じる仕事のロスといったことを考慮すると、数千円を節約したために、むしろ多くの時間とお金が失われるという見方もできる。そこで、ここではカード選びの指針を示し、最適なイーサネット カード選びを伝授したい。

イーサネット カードの基本的な構成

  まず最初に、以下の写真を参考にしてイーサネット カードの基本構成を理解しておこう。

100BASE-TX PCIイーサネット カードの例
  イーサネット コントローラ
  PCIバス コネクタ
  イーサネット インターフェイス コネクタ
  ブートROM
  Wake on LAN用コネクタ
  LEDインジケータ
  シリアルEEPROM

 イーサネット カードが果たす役割のほとんどを担っているのは、のイーサネット コントローラである。PCとの接続インターフェイス(ここではPCIバス)とのやり取りや、イーサネットのパケット処理、イーサネット コネクタとの信号の送受信など、ほとんどの機能はすべてこのコントローラで実現されている(*1)。つまり、イーサネット コントローラの機能や性能などが、イーサネット カードという製品の特性を大きく左右するわけだ。もっとも、コントローラの性能や機能を引き出すには、デバイス ドライバなどのソフトウェア サポートが必須である。したがって、イーサネット コントローラはソフトウェア サポートとセットで考える必要がある。

*1 カードによっては、イーサネット コネクタとの信号の送受信を行うPHYチップ(PHY:PHYsical layerの略で、ネットワークの物理層を意味する)が、イーサネット コントローラと分離していることもある。

 はPCとのインターフェイスであり、PCIのほかISAやPCカード、USBといった選択肢がある(実際のインターフェイス回路は、イーサネット コントローラに内蔵されている)。PCとのインターフェイスの種類によって、イーサネット カードの形態は大きく異なるが、基本構成はそれほど変わるものではない。重要なのはインターフェイス部分の性能で、これがイーサネット側の速度に間に合わないと、イーサネットの本来の性能が発揮できない。PC側の仕様などと併せて、このインターフェイスを適切に選ばなければならない。

 はイーサネット カードとネットワークとのインターフェイスであり、10BASE-Tか100BASE-TXのどちらかのケーブルが接続される。どちらもコネクタの形状はRJ-45と呼ばれる8極モジュラー ジャックで共通だ。10BASE-Tでのみ通信できるか、それとも10BASE-T/100BASE-TX両用かは、やはりイーサネット コントローラで決まる。

 は、どちらかといえばイーサネット カードの機能としては「付加価値」に位置付けられるものだ。用途によっては、選択のポイントになり得る。ただし、ソフトウェア サポートとセットで考えなければならない場合があるので注意したい。

 のLEDインジケータは、イーサネット側のステータスを表示するもので、非常に安価な製品でなければ、どのイーサネット カードが装備している。ただしステータスの種類や表示方法は、製品によって微妙に異なる。または、すべてのイーサネット カードが装備しているパーツで、イーサネット カードのMACアドレスを保存しているメモリの一種だ。ユーザーがその存在を意識する必要は特にない。

 以上、イーサネットの基本構成とともに、選択のポイントを挙げてみた。このほかにも、価格やベンダのブランド力などといったポイントはまだある。次ページからは、まずイーサネット カードのハードウェアに注目し、デスクトップPC用とノートPC用それぞれの選択ポイントを探る。その後は、ソフトウェア サポートにおける選択ポイントをチェックしてみる。

 
     
 INDEX
  [特集]最適ネットワーク機器選択術
  1. イントロダクション
  2. イーサネットの基礎の基礎
    2-1. イーサネットの基本はCSMA/CD方式にある
      コラム:IEEE802の各種規格
    2-2. イーサネットのフレーム形式とコリジョン ドメイン
    2-3. 現在の主流、100BASE-TXを知る
      コラム:10BASE/100BASE以外のLAN規格
3.
イーサネット カード選びの方程式
    3-1. デスクトップPCには100BASE-TX PCIカードが最適
      コラム:できれば避けたいISAイーサネット カード
    3-2. 一般的な100BASE-TX PCIカードの選択ポイント
    3-3. 100BASE-TX PCIカードの付加機能をチェックする
      コラム: イーサネット カードにおけるサーバ用とクライアント用の違い
    3-4. ノートPC用にはPCカードから選ぶ
    3-5. 100BASE-TX CardBusか、10BASE-T 16bit PCカードか?
    3-6. PCカードならケーブルの接続方式がポイント
    3-7. イーサネット ケーブル直結方式は便利か?
       コラム:USBによるイーサネット接続
    3-8. デバイス ドライバは重要な選択ポイント
    3-9. もう1つのソフトウェア サポート − ユーティリティ
      コラム:Linuxのためのイーサネット カード選び
  4.
    4-1. ハブ/スイッチの種類と機能
    4-2. ハブ/スイッチ選択の基礎知識
      コラム:そのほかのネットワーク機器
    4-3. ハブ/スイッチ選択のポイント

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