転職成功の鍵は、その「理由」にあるキャリアビジョンづくりから始めよう(5)(2/2 ページ)

» 2007年01月27日 00時00分 公開
[関口みゆき特定非営利活動法人 キャリアカウンセリング協会]
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自己理解・自己分析

 自己理解は、キャリアビジョンをよりどころとしています。実はこれまでの連載でも、何度も自己理解の方法の一端を紹介しているのです。第1回で紹介した「印象的な出来事」や「自分自身が大切にしているもの」を考える「キャリアビジョン策定シート」、第2回の「経験の棚卸しシート」や「自分情報を整理する」「自分の価値観は何だったのか」の章、第4回の「信頼ネットワーク」の個所などをご覧ください。

 自己理解は「自分情報整理」ととらえると分かりやすいと思います。つまり自分はどんな人で、いままで何をしてきて、これからどうしていきたい人なのかということです。自分のさまざまな特徴・強みを掘り起こすには、転職関連の書籍を利用するのもよいですし、自分の近しい人たちにインタビューを試みるのもよいでしょう。ここにも棚卸しシートを挙げておきます(表1)。自分の強みが明らかになったら、次の仕事に生かせるものを見つけておくことが重要です。

現在
評価する項目
(できている・頑張っていることなどをどんどん挙げてみましょう)
自己評価
高 5・4・3・2・1 低
1.自らの業務を計画的に期日を守って仕上げることができる
5・4・3・2・1
2.業務に対して常に前向きに取り組んでいる
5・4・3・2・1
3.自らの考えを相手が納得できるように伝えることができる
5・4・3・2・1
4.相手の考えを理解しようとして聞くことができる
5・4・3・2・1
5.協働するメンバーと信頼関係をつくることができる
5・4・3・2・1
6.部下との信頼関係をさらに深めていくことができる
5・4・3・2・1
7.上司との信頼関係をさらに深めていくことができる
5・4・3・2・1
8.メンバー内に発生した問題を調整することができる
5・4・3・2・1
9.メンバーの特性を考慮した協働を発想できる
5・4・3・2・1
10.メンバーの特性を考慮した協働を進めていくことができる
5・4・3・2・1
11.さまざまな状況に対して、問題を発見することができる
5・4・3・2・1
12.問題の解決に必要な情報を集めることができる
5・4・3・2・1
13.手元の情報の妥当性を判断できる
5・4・3・2・1
14.業務について自ら工夫をして取り組むことができる
5・4・3・2・1
15.恒常的に行われている業務について新しい発想を工夫できる
5・4・3・2・1
16.うまくいかない事柄にもあきらめずに挑戦できる
5・4・3・2・1
(職場に業務評定表などがあればそれを使いましょう)
(自らの特性を追加しましょう)
表1 自分の強みの棚卸し

 

 現在の職場環境、仕事の満足度も整理しておきましょう。自分にとってどんなことが問題なのか、どう改善したいのか、それはなぜなのかをじっくり考えておき、そのうえで次の職場の条件の整理をしておくことも大切です(表2表3)。

現在
 
転職時
評価する項目(例)
評価
 
重要度または順位
目標値など
◎○△×
 
全般 規模        
安定性        
将来性        
社会的認知度        
社会的貢献度        
風土        
働く環境 勤務する地域        
通勤にかかる時間        
通勤方法        
建物        
環境(空調・粉塵・温度・音など)        
労働契約 雇用形態(正社員・契約社員・パートタイマーなど)        
雇用期間        
労働条件 基準内労働時間        
残業など超過勤務        
休日数        
休日の取得状況        
福利厚生 報酬(年収・額)        
残業など超過分の支払い        
労働対価としての満足度        
退職金(有無・額)        
そのほか 職場の雰囲気        
人間関係        
(項目は自由に追加しましょう)
     
表2 職場環境の評価と条件の整理

現在
転職時に大切にしたいものにチェック
評価する項目(例)
評価・満足度
高 5・4・3・2・1 低
1.いまの職務に取り組むことに価値を感じるか
5・4・3・2・1
 
2.与えられた職務について納得できるか
5・4・3・2・1
 
3.職務を納得できるレベルに仕上げる時間が与えられているか
5・4・3・2・1
 
4.自らの属する組織とその方向性に対して一体感が持てるか
5・4・3・2・1
 
5.自らの属する組織・メンバーと一体感が持てるか
5・4・3・2・1
 
6.メンバーと協働することに喜びを感じるか
5・4・3・2・1
 
7.職務について与えられた権限・責任は適当か
5・4・3・2・1
 
8.自らが成長する機会が与えられているか
5・4・3・2・1
 
9.自らが学習する機会が与えられているか
5・4・3・2・1
 
10.職務を通して挑戦する機会が与えられているか
5・4・3・2・1
 
11.過度の期待・負荷について調整されているか
5・4・3・2・1
 
12.組織内に自らの職務を常に見てくれる人がいるか
5・4・3・2・1
 
13.適切な評価を与えられているか
5・4・3・2・1
 
14.適切なポジションを与えられているか
5・4・3・2・1
 
15.ほかの人を指導・育成することがあるか
5・4・3・2・1
 
(自ら発想して項目を追加しましょう)
 
表3 現在の仕事の満足度


 次に自己分析です。自己分析に関するツールには無料で提供されているものも多く、転職サイトや人材紹介会社のWebサイトに登録することで利用できます。それぞれの理論やデータによって結果は違ってきますので、いくつかを組み合わせるのがいいでしょう。

 特にIT業界における具体的経験やスキルについては、年収査定など市場評価のできるものも用意されています。希望する内容を登録しておくことでスカウトなどを受けられるものもあります。実際に転職するかどうかにかかわらず利用できるものが多いので、情報収集の1つとして活用してみましょう。

就職環境の理解

 昨今のIT業界は、特に変動著しい状況にあります。数年前の常識が現在や将来に通用するとは限りません。業界動向については幅広く情報を集め、方向性の決定に当たっては自分の考えが思い込みでないかどうかを確認しましょう。

 例えば、「これから自分はJavaでやっていかなくては。COBOLやPL/I言語の時代は終わりつつある」。これは本当でしょうか? 普遍的な基本が廃れることはないはずですし、COBOLのエキスパートが重用されている現実もあります。

 「いま求人案件の多い職種は、今後はどうなるのか」「自分の望む賃金はスキルに見合っているか」など、一般的な情報を仕入れるだけでなく自分の経験や特性をかんがみて、これからの選択を考えましょう。

 特にフリーランスを目指している人は人脈を十分に活用し、支援体制を持つ団体ともコンタクトを取ったうえで、ここで時間をかけて情報収集することをお勧めします。何事も1人で賄うのは難しいので、弱いところや苦手なところを補う仕組みづくりや、良きパートナーの獲得も重要になってきます。

目標設定・活動計画策定

 この段階になって、ようやく具体的な目標が設定できるようになります。目標設定の基本は、

  • いつごろまでに
  • どんな仕事に就くために
  • いつ
  • 何を
  • どうする

を決めることです。表などに落とし込んで作成してみましょう。

 転職に際して、いま勤めている会社にかける迷惑は最小限にとどめたいものです。円満に退職するには残務整理や業務引き継ぎの期間も必要ですし、退職時期の延期を避けるために会社の繁忙期についても考慮したいところです。退職日の確定に当たっては、退職金規定や雇用保険・健康保険・厚生年金といった社会保険の資格喪失日を考慮し、不都合がないようにしましょう。

 このようにクリアしなければならない課題に対しては、解決するための行動を具体的なものにしてスケジュールに組み込むことも忘れないようにしてください。

 年間の求人数の変動も把握しておきましょう。中途採用の募集のピークは1〜3月と7〜9月です。いわゆるボーナス転職はいまだ特徴的ですし、組織の新規拡充や人事担当者の採用業務の繁忙時期などとも絡め、求人数が増える時期です。

 退職後すぐ新しい会社に勤めたとしても、賃金締切日の違いなどで給与が支給されない月が生じることがあります。ボーナスも入社後半年は寸志と考えた方がよいでしょう。

 失業期間が想定される場合、そのための資金は準備しておきたいものです。資金が乏しくなることによって生じる不安や焦りが、選択の幅を狭めることもあります。転職活動中であっても生活はこれまでどおりに続き、光熱費や就職活動のために用意するものへの資金も必要になります。資金計画は若干のゆとりを持って綿密に立てることが必要です。

求人情報収集

 求人情報は、自治体・企業ともに多くの求人媒体から提供されています。どんな求人がどういう媒体に多く集まるか、どう探せば希望する企業や仕事にたどり着くのか。この項目については次回で詳しく紹介したいと思います。

 今回意識していただきたいのは、まずは幅広く求人情報を見ておくことの大切さです。身近な媒体でかまいませんので、同じものを定期的に見ておく癖をつけておいてほしいと思います。結果として市場の相場感が得られますし、どんな求人がどのくらいの量で提供されるのか、求人広告として安心できるものはどんなものかも分かってきます。まずは目を肥やしておいてください。

企業選択

 求人サイトのさまざまな募集情報を見ていると、興味ある求人も目に付くでしょう。しかし、決定はなかなかしにくいものです。多くの求職者から「結局よく分からなくて応募を躊躇(ちゅうちょ)してしまった」「相手のことが分からないので志望動機を具体的に書けない」という話を聞きます。大手上場企業なら目にする情報も多いのですが、ベンチャー企業や小規模な企業ではなかなか企業情報が集められないと感じる人もいるでしょう。できる限り相手のことは知っておきたいところです。

 では、応募先の企業を知るには、どんな方法が考えられるでしょうか。

上場企業・非上場大手企業

  • 『会社四季報』(東洋経済新報社)
  • 証券会社の各種情報
  • 有価証券報告書
  • 企業発ニュースリリース
  • 新聞検索
    など

中小企業・ベンチャー企業

  • iタウンページ(業種別電話帳のインターネット版)
  • 関連業界サイトから検索
  • 業界書籍のバックナンバー・新聞記事
  • 商品名で検索
  • 旧企業名で検索
  • 『東商信用録』(東京商工リサーチ)
  • 『帝国データバンク会社年鑑』(帝国データバンク)
  • 法人登記簿謄本(本社所在地の法務局で購入)

 小さい会社でもいくつか調べる方法はあります。一番いいのは、興味があればその企業に行って話を聞いてくることです。自分で足を運んで、自分の目で確認するのが一番確かな方法です。

 会社の出入り口を定点観察するのもいいでしょう。どんな人が社員なのか、何時ごろ帰っているのかなど、少しの時間でも分かることはいろいろあります。

 IT業界では、「知っていそうな人に聞く」ことも有効です。社長の経歴から分かる知人や取引先を当たって聞いてみましょう。人脈は活用したいものです。意外と、外部での研修や派遣関連で知っている人がいることもあります。

 最近はカタカナの長い会社名が多いですが、業界の基幹的な会社の中には、正式な社名でなくアルファベット3文字などの通称で呼び習わされているところも多いです。そんな企業は安定度が高いともいえるのでしょう。

 自分の知らない優良企業というものは、世の中にたくさんあります。優先順位と照らしながら評価表を付け、イメージだけでなく分析的に評価することも大切です。

応募

 企業選択ができたら応募ということになります。昨今はエントリーシート方式や応募書類のみでの一次評価が多く、書類の精度を高めることが要求されます。

 これまでの経歴の延長線上で転職を考える場合と、経験のない職種に転向する場合ではアピールするポイントも提供する情報ももちろん違ってきます。

 自分を伝える応募書類、書類と面接の関連、面接での評価のポイントなど具体的なことについては、次回でじっくりと紹介したいと思います。

 今回は転職への流れをつかみ、十分な準備をして作戦的に臨むのが効果的であることを実感していただければと思っています。

キャリアコンサルタントを活用しよう

 最後に、転職ではキャリアコンサルタントというサポートを活用することもお勧めしたいと思います。

 自治体の窓口にも増えてきていますし、人材紹介会社ではカウンセラーとして対応もしてくれます。全般にわたりサポートを受けることも、困ったときにワンポイントアドバイスをもらうこともできます。多くのサービスは無料で受けられます。

 自分だけで活動を進めるのではなく、キャリアコンサルタントと一緒に振り返ることで、「自己受容」ができ、冷静に自己を分析することができます。また情報を得たり、転職先の企業の視点でアドバイスを受けたりすることで転職活動は効果的なものとなります。自らの意思決定をサポートしてくれる強い味方となるはずです。

筆者紹介

特定非営利活動法人 キャリアカウンセリング協会

関口みゆき

ホテル業の人事・労務・能力開発・退職転進援助制度事務局に勤務。その後リクルートにて就職支援プログラム・カウンセリング・企業開拓などを行いながらGCDF-JAPANキャリアカウンセラー資格を取得。現在特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会にてカウンセラーの育成にかかわるともに大学・自治体・団体などで活動中。



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