「現在、ITエンジニアを取り巻く健康上の危機」について衝撃的な話を聞いた。ITエンジニアの間に、新しい種類の心の不調が増えているというのだ。その正体は? 予防法はあるのか。
長時間にわたる勤務や厳しい労働環境、ディスプレイに向かっての長時間作業など、健康上の危機にさらされることの多いITエンジニア。@IT自分戦略研究所が2006年7月に行ったアンケートでも、8割以上のITエンジニアが自分と周囲の不健康を意識しているという結果が出ている。こういった健康上の危機は、いうまでもなくITエンジニアの心と体の両面に影響を及ぼす。
「ITエンジニアにおけるうつの発生率は、一般企業の会社員の2〜3倍に上る。しかもITエンジニアのうつには、普通の抗うつ剤が効きにくい」。そんなショッキングな警告を発するのは、医師・医学博士の酒井和夫氏だ。
酒井氏が院長を務めるストレスケア日比谷クリニックには、心と体の不調を訴える多くのITエンジニアがやってくる。ITエンジニアの受診者は6〜7年前から増え始め、「いまも増え続けている」という。
特に最近は「『仕事ができない、能率が上がらない』というように、頭の働きが悪くなる、治りにくいうつ」が増加の一途だという。「(ITエンジニア以外の人は)『気分が沈む』というように感情から不調を感じるんですよ。ITエンジニアはそうではなくて「何だか最近仕事ができない」という悩みからくる。気付きが違う。そして心の病というのは、そういった初期段階で手を打たないといけない」
この状況が、冒頭でも述べた「ITエンジニアは、うつの発生率が一般企業の人の2〜3倍くらいだと思う」という酒井氏の言葉につながっている。「統計情報はないけれど、例えば従業員300人のIT企業で、1年間に自殺者が3〜4人出るなどというケースは結構ある。それは普通の300〜400人規模の企業ではあり得ない」
「ITエンジニアは『アウェアネス』、自分の状態がどうなのかについての気付きが弱い気がする」と酒井氏は語る。「ディスプレイを見るときに目の焦点が合わない、目が疲れやすい、肩がこる、だるいというだけで危険信号なんです」
このITエンジニア特有の不調の原因は、「脳の特殊な部分の疲れ」だという。
そもそもITエンジニアという仕事は「人類がいままでやっていないようなこと」。人間の脳の使い方という点で考えると、「脳というものは感性、欲求、生命維持機構など、さまざまなものをつかさどる。その中で、(ITエンジニアが多用する)論理的な能力やプログラミング能力というのは極めて狭い範囲のもの。その小さいネットワークを酷使していることによる疲労度はまだ研究されていない」と酒井氏は警告する。
そういう意味で酒井氏は、ITエンジニアの心の不調と一般人の心の不調とはまったく別のものだと思っているという。「人類にとって初めての職業であるだけに病気も起こりやすいし、うつの性質も全然違う。普通の抗うつ剤も効きにくい。特別な頭の疲れを癒すという効能がないからだと思います」
人類がいままで経験したことがない職業だからこそ、そのストレスや疲労度を軽減させることも難しいといえる。「例えば営業職の人なら、同僚と居酒屋に行って上司の悪口をいうことなどで解消できるかもしれない。でもITエンジニアは、最初からそういうことでは解消できないような部分の疲れがくるわけです。いままで人類がやってきたような気分転換の方法ではうまくいかない」
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