Active Directory(AD)のテストのために、AD環境を試験的に構築したいことがある。通常は事前の入念な導入計画が必要だが、閉じた構成にすれば、ADは簡単に構築できる。ただし既存のネットワーク環境に悪影響を与えないように、同時にDNSサーバもローカルにインストールした方がよい。
対象OS:Windows 2000 Server/Windows Server 2003
Active Directoryドメイン環境を導入/構築する場合、通常は事前に入念な導入計画を立て、実際のインストール作業に取り掛かる。Active Directoryは一度導入すると、簡単に作り直したり、再構築したりすることは困難なため(例えばドメイン名やその階層構造の変更など)、慎重な作業が求められるのは当然である(関連記事参照)。
だがActive Directoryの機能を調査したり、Active Directoryが必要なサーバ・システム(Exchange Server 2007など)をテストしたりするといった、一時的/試験的な用途でActive Directory環境を構築するだけなら、もっと手軽に構築して利用できる。特に、閉じたローカルなネットワーク環境や(Virtual Server 2005などで作成した仮想PC環境も含む)、NATなどで分離されたネットワーク環境でActive Directoryを構築するだけならば、既存のネットワーク環境にほとんど影響を与えることなく利用できるので、ぜひ活用していただきたい。本TIPSでは、簡単なActive Directoryの導入方法について解説する。1台のWindows Server 2003をActive Directoryのドメイン・コントローラとしてセットアップする、最低限の基本手順についてまとめておく。
テスト用途なら導入が簡単だとはいえ、あらかじめ決めておかなければならない最低限の項目としては、次のようなものがある。もし同時に複数のActive Directory環境を起動する可能性があるなら(例えばActive DirectoryのテストとExchange Serverのテストを同時に行うなど)、「コンピュータ名」「IPアドレス」はそれぞれユニークなものを用意すること(可能なら「ワークグループ名」も)。もし名前やIPアドレスが衝突すると、ネットワーク・インターフェイスが無効になり、Active Directoryが利用できなくなる。
項目 | 内容 | 設定例 |
---|---|---|
コンピュータ名 | Active Directoryのドメインコントローラ名。同時に複数のActive Directoryテスト環境を構築した場合に衝突しないようにするため、末尾に「1」「2」「3」……などいった番号を付加して区別するとよい | adserver1 |
DNSドメイン名 | example.jpやexample.comなど、自由に使ってよいドメイン名を使用すること(独立したDNSサーバを使うなら、これはほかのActive Directoryドメインと重複していてもよい) | example.jp |
ドメイン名 | ドメイン名(ワークグループ名)もコンピュータ名と同様、「EXMPALE2」「EXAMPLE3」……のように、ユニークにしておくのが望ましい。さもないと、別のActive Directoryドメインのコンピュータが同一グループに列挙され、わずらわしくなる | EXAMPLE1 |
IPアドレス | できる限り固定的なIPアドレスを割り当てること。Virtual PCの仮想環境などの場合はDHCPによる自動取得も利用可能だが、ほかのクライアントがサーバを参照する場合には注意すること | 「DHCPによる自動取得」もしくは「192.168.0.41」 |
サブネット・マスク | 「IPアドレス」を手動で設定した場合は、これも適切な値に設定しておくこと | 255.255.255.0 |
デフォルト・ゲートウェイ | 「IPアドレス」を手動で設定した場合は、これも適切な値に設定しておくこと | 192.168.0.1 |
DNSサーバ・アドレス | これは自動取得してはいけない。必ず上記の「IPアドレス」と同じものか、「127.0.0.1」を手動で設定すること(これによりDHCPの設定を上書きできる) | 「127.0.0.1」もしくはIPアドレスと同じもの「192.168.0.41」 |
Active Directoryを導入する前に決めておくべき項目 Active Directoryを導入する場合、最低でも、これらについては決めておかなければならない。Active Directoryの実験用イメージやマシンを複数用意しておく場合、これらの項目が衝突しないように決め、それぞれのイメージに割り当てておくこと。以下の例では、この「設定例」に基づいて手順を解説する。 |
なおActive Directoryを利用する場合、IPアドレスは静的に割り当てることが望ましいが(さもないとActive Directoryのクライアントからドメイン・コントローラを指定する際に、トラブルになる可能性がある)、DHCPでも利用できないことはない。例えばVirtual PCの「共有ネットワーク(NAT)」環境などではDHCP以外ではネットワークが利用できない(DHCPで割り当てられたIPアドレス以外では外部へアクセスできないが、割り当てられるアドレスを事前に知ることはできないから)。DHCPしか利用できない場合は、IPアドレスとデフォルト・ゲートウェイ、サブネット・マスクの欄を自動取得にし、DNSサーバ・アドレスの欄には「127.0.0.1(ローカル・ループバック・アドレス)」を手動で設定しておく(TIPS「ローカル・ループバック・アドレス(127.0.0.1)とは?」参照)。これによりDNSサーバの値が上書きされ、ドメイン・コントローラ上で動作しているDNSサーバを指すことになる。
本TIPSではWindows Server 2003を使って作業を進める(Windows 2000 Serverでも違いはない)。Windows Server 2003のインストール後(Service Packやセキュリティ修正プログラムの適用は、Active Directory導入後でよい)、(1)名前の設定、(2)IPアドレスの設定、(3)Active Directoryの導入、という手順で作業を進める。なおActive Directoryの導入後はもうコンピュータ名やドメイン名などの変更は行えないので、複数の試験用Active Directoryを導入する予定があるなら、Windows Server 2003のインストール直後のディスク・イメージを(市販のディスク・クローニング・ツールなどで)保存しておくと(仮想PCの場合は、仮想ディスク・イメージをコピーする)、後のActive Directory導入作業が楽になる。しかしActive Directory導入のたびにWindows Server 2003のインストールから始めるつもりなら、(1)と(2)はインストール作業中に行えばよい。
ところでActive Directoryを利用する場合はDNSサーバも必要になるが、外部の(実際に今現在利用している)DNSサーバを使うと、実験用のActive Directoryゾーン情報が作成されてしまうため、それは避けるべきである(DNSサーバによってはActive Directory用のゾーン情報を作成できないものがある)。本TIPSでは、Active Directoryと同時にDNSサーバもインストールし、それを利用する方法を紹介する。といってもActive Directoryのウィザードで自動的にインストールされるため、あらかじめインストールしておく必要はない。
Windows Server 2003をインストールしたら(もしくはディスク・イメージを展開したら)、最初にコンピュータ名/ワークグループ名/DNSサフィックスなどを設定する(インストール中に入力した場合は、この手順はスキップできる)。
まず[スタート]メニューの[マイ コンピュータ]を右クリックし、ポップアップ・メニューから[プロパティ]を選択して[システムのプロパティ]ダイアログを表示させる。そして[コンピュータ名]タブにある[変更]ボタンをクリックして、「コンピュータ名」と「ワークグループ名」を設定する。さらに[詳細]ボタンをクリックして「プライマリ DNS サフィックス」を「example.jp」などに設定する。
設定終了後、[OK]ボタンをクリックすると[変更を有効にするには、コンピュータを再起動してください。]と表示されるが、再起動せずに、次にIPアドレスなどの設定を行う。
次はIPアドレス関連の設定を行う(これもインストール時に行っておけば、不要である)。[スタート]メニューの[コントロール パネル]−[ネットワーク接続]−[ローカル エリア接続]をクリックしてネットワーク・インターフェイスのプロパティ・ダイアログを表示させ、[プロパティ]ボタンをクリックして、[ローカル エリア接続のプロパティ]ダイアログを開く。そして[インターネット プロトコル (TCP/IP)]項目を選択してから[プロパティ]ボタンをクリックして、IPアドレスなどの情報を入力する。DNSサーバをインストールしておく必要はないが、[優先DNSサーバ]が自分自身を指すようにしておくことを忘れないでいただきたい。
IPアドレスを設定したら、一度再起動して、次に進む。
次はActive Directoryのインストール・ウィザードを使ってインストール作業を始める。といってもほとんど何もする必要はなく、すべてデフォルトのままウィザードを進めていけばよい。
ウィザードを起動するには、Administratorでログオン後に表示されている[サーバーの役割管理]ツールで(このツールは[スタート]メニューの[プログラム]−[管理ツール]−[サーバーの役割管理]でも起動できる)、[役割を追加または削除する]ボタンをクリックし、[サーバーの構成ウィザード]で[ドメイン コントローラActive Directory)]を選ぶ。
なおこの操作は、[ファイル名を指定して実行]やコマンド・プロンプト上で「dcpromo」コマンドを実行してもよい(Windows 2000 Serverの場合はこの方法でdcpromoを起動する)。
以上の操作で[Active Directoryのインストール ウィザード]が起動するので、順に[次へ]ボタンをクリックしていけばよい。何も変更・指定する必要はないが、確認のために、以下にウィザードの画面を挙げておく。
最初に指定するのは、ドメイン・コントローラの種類である。テスト用のActive Directoryは通常は1ドメイン、1フォレスト構成なので、特に何も指定する必要がないはずである(フォレスト=ドメインのツリー)。
この後、「データベースとログのフォルダ」と「共有システム・ボリューム」を指定する画面が表示されるが、いずれもデフォルトのまま(C:\WINDOWS\NTDSとC:\WINDOWS\SYSVOL)でよい。
次にDNSサーバの診断が行われるが、まだDNSサーバはインストールしていないので「診断の失敗」と表示されるはずである。そこでデフォルトのまま[次へ]をクリックすると、自動的にDNSサーバがインストールされ、さらにActive Directory用の正引きゾーン(example.jp)が作成される。
次はアクセス権の設定が行われるが、特別な理由がない限り、デフォルトのままでよい。
次はディレクトリ・サービスの復元モードを起動するためのパスワードを指定する。適当なパスワードを指定しておけばよい。
以上でウィザードによる作業は終わりである。設定のまとめページで[次へ]ボタンをクリックすると実際にActive Directoryとその関連サービス、ツールなどがインストールされ、さらにDNSサーバもインストールされる。数分から十数分程度で作業は終了するはずである。なおDHCPによる動的IPを使っていると、DNSサービスのインストール作業の途中で、静的IPの使用を勧めるダイアログが表示されるが、そのダイアログは[OK]ボタンを押してクローズし、さらに次に表示される[ローカル エリア接続のプロパティ]画面や警告ダイアログもそのままクローズしておけばよい(DNSサービスのインストールそのものはスキップしないこと)。
[完了]ボタンをクリックすると、再起動するかどうかを問い合わせるダイアログが表示されるので、指示に従ってシステムを再起動する。再起動後は、ログオン・ダイアログが次のように変わり、ドメイン・コントローラになっていることが確認できるだろう。
ユーザー・アカウントは、ドメイン・コントローラが導入される前のものがそのまま有効になっている。管理者権限のあるユーザーでログオンすると、[サーバーの役割管理]ツールにActive Directoryの管理ツールやDNSサーバの管理ツールが追加されていることが確認できるだろう。Active Directory環境における基本的な作業やこれらの管理ツールの使い方については、「Active Directoryの導入後の作業(管理者のためのActive Directory入門)」などを参照していただきたい。
なお、上記のインストール手順によってDNSサーバには正引きゾーン(DNS名からIPアドレスを求めるためのレコード)が定義されるが、逆引きゾーン(IPアドレスからDNS名を求めるためのレコード)は定義されない。必要ならばTIPS「DNSの逆引きゾーンを定義する(イントラネット編)」などを参考にして、逆引きゾーンも定義していただきたい。またインターネット上のFQDN名を解決する際には、DNSサーバのリゾルバ/キャッシュ機能が利用されるので、ルート・ヒント情報を削除してはいけない(TIPS「DNSサーバのキャッシュの内容を調査する」「DNSサービスのルート・ヒントを変更する」参照)。そのほか、社内のほかのドメインのサーバ名などを解決させたければ、例えばTIPS「DNSサーバでゾーンごとに異なるフォワーダを使う」の方法を使ってDNS要求をフォワードするか、必要なレコードを手動で定義するとよい。
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