キャリア理論は役に立つ?エンジニアも知っておきたいキャリア理論入門(1)(2/2 ページ)

» 2008年02月04日 00時00分 公開
[松尾順@IT]
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仕事人生のスタートは社会人になったとき

 さて、キャリア、すなわち「仕事人生」のスタートは、学校を卒業して社会人になったときです。社会人1年生といいますが、まさに社会人として誕生した瞬間です。ちなみに、社会人になる前までの人生は、キャリアを始めるための準備期間だといえます。ですから、仕事人生をきちんと全うできるように基礎的な知識やスキルを、家庭や学校で学ぶわけですね。

 あなたはいま社会人何年目ですか。例えば3年目にしろ、あるいは10年目にしろ、社会人になってキャリアをスタートしてから現在に至るまでの過去のキャリアが、「これまでのキャリア」です。一方、現在を起点として、将来はどのような仕事人生を歩むのかというのが「これからのキャリア」です。

これまでのキャリアとこれからのキャリア

 「これまでのキャリア」は、転職をしようと思ったとき、あなたが作成する「履歴書」や「職務経歴書」に記述される内容とまずは考えてください。要するに、どんな職場やチームに所属し、どんな立場でどのような仕事に取り組んだか、またその結果、どのような知識やスキルを身に付けることができたのかということです。

 そして、「これからのキャリア」は、端的には「キャリアの設計図」と呼ぶことにしますが、詳しくいえば、キャリアの要件定義、設計図、実行計画、スケジュールが含まれます。将来の自分のありたい姿(TO BE:キャリアゴール)を達成するために必要なこと=要件を明らかにし、現状(AS IS)とのギャップを把握したうえで、要件を満たす設計図を書き、実現まで実行計画の作成とスケジュールを引く。こう書いてみると、「これからのキャリア」を設計するというのは結構大変な作業ですね。

キャリア理論は、キャリア設計のガイドライン、フレームワーク

 キャリア理論は、冒頭に述べたように、これまでのキャリアを振り返り、これからのキャリアを設計するために役立つ「ツール」。キャリア設計のためのガイドライン、フレームワークとして使えます。

 「これまでのキャリア」は、「履歴書」や「職務経歴書」に書かれています。しかし、ここに書かれているのは事実・結果を中心とした情報だけ。あなたがどんな夢や目標を持ち、どんな気持ちで仕事に取り組んできたのかといった、あなたの内面のことに触れることはまずありません。ですから、これらをいくらじっくり眺めても、将来、自分は何をやりたいのか、どんな知識やスキルを獲得すべきなのか、といったことは、そうそう見えてきませんよね。

キャリア理論は、あなたの内面を把握することも重視する

 しかし、キャリア理論の中には、経験や知識、スキルといった外面的なことだけでなく、あなたの内面、すなわち、欲求や動機といった心理特性を理解することを重視し、それを把握できる方法を教えてくれるものがあります。ですから、こうした理論を使って「自己分析」を行うことで、自分が本当に望んでいる仕事、充実感を得られる仕事が何かを発見することができるのです。

キャリア理論は、仕事以外の人生のほかの要素も考慮に入れる

 履歴書や職務経歴書には、基本的に「仕事」にかかわることしか書きません。履歴書には、家族構成程度は書く欄がありますけど。転職のためだけなら、「仕事」についての情報だけで十分ですが、これからのキャリアを設計するためには、「仕事」と併せて考慮すべき、人生を構成するほかの要素があります。それは、親、配偶者(パートナー)、子どもなど家族との関係で生じる「家庭」であり、一個人として趣味、娯楽などにいそしむ「余暇」などの要素です。

 毎日、私たちは、仕事、家庭や余暇といったさまざまな要素に、それぞれ適宜時間や気持ちを配分することに苦労してますよね。もっと、シンプルに生きられたらいいのにと思います。でも、現実は複雑な要素の組み合わせパズル。それが人生というものです。皆1つの体しか持っていないけれど、仕事、家庭、余暇といった異なる場面で異なる役割を演じ分け、全体としてうまく取りまとめていかなければなりません。

 従って、これからのキャリアを設計するに当たっては、仕事を中心課題として置きつつも、家庭や余暇など、自分の人生において大切にしたいほかの要素それぞれにおける夢や目標、実行計画なども考えたうえで、無理のないキャリアプランを作成する必要があります。実はキャリア理論では、こうした仕事を含むあなたの人生全体という俯瞰(ふかん)的な視点をも提供してくれます。

キャリア理論の活用で「輝くキャリア」のための設計図を作成しよう

 私たちが理想とする人生、それには個人差があるとはいえ、おそらく仕事の充実だけでなく、家庭や余暇の充実をも感じられるものではないかと思います。ところが私たちは、毎日の仕事に追われる中で、ついつい「仕事」一筋の毎日を送ってしまいがちです。振り返ってみると、自分の人生には「仕事」しかなかったな……と、がくぜんとする方が結構多いのです。

 自分の人生は仕事一筋でいこうとするのが事前に設計したとおりの結果であればオーケーですが、設計図も持たず、行き当たりばったりのキャリアを歩んでしまうと、後で後悔することになりかねません。

 ですから、これからご紹介していくさまざまなキャリア理論を活用して、仕事を含めたあなたの人生全体を充実したものにし、「輝くキャリア」を手に入れることができるような、キャリアの設計図を作成してもらえたらいいなと願っています。

紹介するキャリア理論

 最後に、今後取り上げるキャリア理論の名称とキーワードのみ掲げておきます。理論の中には、全体を包括するような名称がないものがありますので、それぞれの理論を提唱した研究者や実務家の名前を取った名称でそろえています。なお、取り上げる順番や内容は変更する可能性があります。あらかじめご了承ください。

(1)スーパー理論 ライフステージ、ライフロール、キャリアレインボー
(2)ホランド理論 ホランドの六角形(現実的、研究的、芸術的、社会的、企業的、慣習的)、ワーク・タスク・ディメンション
(3)シュロスバーグ理論 転機のキャリア、イベント、ノンイベント
(4)ハンセン理論 統合的人生計画
(5)シャイン理論 キャリア・アンカー
(6)デール理論 キャリアの羅針盤(上昇、安全、自由、成長、バランス)
(7)クランボルツ理論 計画された偶然性理論
(8)イバーラ理論 ハーバード流キャリアチェンジ術
(9)ニコルソン理論 キャリア・トランジション
(10)高橋俊介理論 キャリアコンピテンシー
(11)金井壽宏理論 キャリアデザイン&キャリアドリフト
(12)平本相武理論 ビジョン型と価値観型
主なキャリア理論の名称とキーワード

筆者紹介

松尾 順(まつお じゅん)

 1964年福岡県生まれ。早稲田大学商学部出身。市場調査会社、IT系シンクタンク、広告会社、ネットサービスベンチャー、ネット関連ソフト開発・販売会社を経て、2001年より有限会社シャープマインド代表。マーケティングリサーチ、広告プロモーション企画&プロデュース、Webサイト開発企画&プロデュースを多数手掛ける一方、キャリア理論や心理カウンセリング、コーチングを学び、主に個人を対象とするキャリアアドバイザーとしての仕事を増やしてきている。顧客心理の理解向上を目指す「マインドリーディング・ブログ」主宰。「シナプスマーケティングカレッジ」講師。



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