保険大国日本で保険のシステムを作るコツ味わい深いシステムを開発するための業界知識(1)(2/3 ページ)

» 2008年09月30日 00時00分 公開
[池田淳アクセンチュア]

保険業界の分類

 保険とは、保険に加入する多数の人が保険料として金銭を出し合い、保険事故(自動車保険であれば交通事故、生命保険であれば死亡・入院など)が発生した人に対し、保険金として金銭を支払い、損失をカバーする仕組みです。

 保険にあまりなじみのない人にとっては、保険料と保険金、どちらが払うお金で、どちらがもらえるお金なのか、とっさには混乱してしまうかもしれません。

 ちなみに、保険のシステム上では、保険料はP(=Premium)、生保の保険金はS(=Sum Insured)、損保の保険金はA(=Amount)と表現されることが多いようです。

 保険は、一般的に以下のように分類されます。

第1分野 人の生死に関して決められた保険金を支払う保険(終身保険、定期保険、養老保険など)
第2分野 偶発的な事故によって生じる損害を補てんする保険(自動車保険、火災保険、海上保険など)
第3分野 第1、第2分野の特性を併せ持ったものや、どちらにも含まれないもの(がん保険、医療保険、介護保険など)

 第1分野は生命保険会社、第2分野は損害保険会社で扱われています。第3分野は、かつては規制により外資系保険会社の独占状態でしたが、現在は国内の生保、損保両方の保険会社で扱えるようになりました。

 こうした経緯に加え、バブル崩壊後経営状況の悪化した生保会社が、外資系保険会社の下で経営再建しているケースが多いため、外資系生保会社が多く存在します。外資系保険会社では、マネジメント層が外国人であることも多いので、ITエンジニアにも英語のスキルが問われるケースがあるといえます。

 日本は保険大国といわれており、「保険(生命保険)は人生2番目に高い買い物だ」という言葉もあるくらい、日本人は心配性な国民性なのか、保険に多くのお金をかけています。つまり、日本の保険マーケットは、諸外国と比べると大きいわけです。皆さんの中にも、自分は貯蓄が苦手なので貯蓄性の生命保険に入っているという人が多いのではないでしょうか?

 心配性な日本人向けに、心配事をカバーする保険や特約(保障内容を充実させるために主契約に付けるオプション契約)もどんどん開発されてきました。例えば「自動車に乗ってゴルフに行こうかな! ゴルフの腕はイマイチだけど、もしかして超ラッキーでホールインワンが出るかもしれない。でも、そうなると周りの人からは祝賀会を開けとせがまれるだろうし、キャディさんにはギフトを贈らなければならないかもしれない……。そんなお金は貯金からはとても払えない。どうしよう」と真剣に心配している人向けに、自動車保険には「ホールインワン特約」なるものまであります。

 昨今では、生保、損保の保険金不払い問題がニュースでも取り上げられていて、多くの保険会社が行政処分を受けています。1つにはこの特約が複雑化していて、いざ保険金を支払うというときに、事務処理で漏れが生じてしまうという理由があります。

 各社とも保険商品を見直し、特約を簡素化する取り組みを始めています。保険商品の見直しは当然システム変更も伴うため、ここにもITの活躍の場があるといえます。

保険の業務を理解しよう

 さて、実際に保険会社はどのような業務を行っているのでしょうか? まずは、基本的な業務を理解して、それぞれの主な特徴を見てみましょう。

 保険会社で行われる業務の中で、特徴的なものとしては大きく分けて以下のものがあります。実際の業務の呼び方は、生保・損保の違いや、企業によっても違いがあります。

見積もり さまざまな条件(契約条件)に応じた保険料の見積もりを行う
申し込み 契約条件を記入した申込書を作成する
引受け審査
(アンダーライティング)
保険会社が受けた申し込みを引き受けることが可能か(事故のリスクが高くないか)を審査する
証券発行 引き受け可能な場合は、保険証書を契約者に送付する
契約管理 既存の契約に対して、各種契約条件の変更・継続などを行う。保全、異動ともいう
事故受付・支払査定 契約者に万が一のこと(保険事故)が発生した場合に、支払条件を満たしているかどうか(不正な申請でないか)をチェックする。損保であればその損害の程度を査定し、支払金額を決定する

 上記の業務それぞれにおいて、保険会社の求めていること、実現したいことが異なっています。

新契約 大きく、見積もり⇒申し込み⇒審査⇒証券発行までを、新契約という(損保では契約計上ともいう)。この手続きをいかに短期間で終わらせ契約者にいち早く保険証書を渡せるかが保険会社の狙い。ITとの関連としては、見積もり、申し込みをコンピュータ端末で行うことで、事務センターでの作業を軽減したり、複雑な引受審査をいかに素早く行うかがポイントになる。

また、新しい保険商品をどれほど素早く市場に投入できるかも、他社との差別化という意味で非常に重要。新商品投入にはシステムの追加開発が必須となるため、短い期間で新商品対応ができるような柔軟なシステム構造となっているかがカギとなる
契約管理 特に生保の契約は、契約期間が人の一生(数十年)に及ぶことがあり、損保の保険契約に比べ長いという特徴がある。ITの世界では、数年から十数年の間に技術が一新されてしまうが、技術は変わっても生保の契約は長期にわたって確実に保持し続けなければならないというジレンマがあり、生保の基幹系では旧来のメインフレームが長く使われているケースが多い
事故受付・支払査定 保険契約者に万が一のことがあった場合、その内容を査定して保険金を支払う必要がある。いままでは人の手で行っていた査定を、いかにITを活用して効率的、かつ正確に行うかがポイントになってくる

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