上で見てきたような百貨店とメーカーの取り組み、SPAの強みの中心にあるのは、マーチャンダイジングと呼ばれる活動です。ここではアパレル小売業を中心に、マーチャンダイジング業務とそれをサポートするシステムを見ていきたいと思います。
マーチャンダイジングの目的は、“5適(five rights)の実現”といわれています。
これらの計画を立て、実行し、その結果を検証し、また計画につなげるといったPDCAサイクルを回すこと、これがマーチャンダイジング業務のサイクルであり、これをサポートするのが「マーチャンダイジング・システム」(MDシステム)と呼ばれるシステム群です。
MDシステムの中心に位置するのが「商品管理システム」と呼ばれるシステムです。狭義には、MDシステムとは、この商品管理システムを指します。
商品管理システムは、MDサイクルにおける実行を主にサポートします。商品マスタや店舗マスタなどのマスタ管理をはじめ、取引先への発注、原価・売価の登録・変更、拠点間の商品の移動指示など、小売業の本部サイドにおけるあらゆる業務実行を支援します。また、倉庫システムや店舗のPOSシステムなど、各拠点から上がってくる大量のデータを処理し、各種集計処理や、在庫計算・原価計算を行い、後続のデータウェアハウスや会計システムにつなげる役割を担っています。
データウェアハウスも、商品管理システムから受け渡された大量の情報を蓄え、実績の検証・分析を行うための重要なMDシステムの一部です。特に小売業において特徴的なのは、POSシステムから収集されるレシートデータです。レシートデータは、個々の顧客が購買時点においてどのような商品を買ったのか、明細情報を保持しています。ポイントカードなどの顧客情報と組み合わせることで、自社でどの顧客がどのような購買行動を取っているのかを分析することが可能になります。
計画段階における計画の立案・合意と、実行段階における計画予実のモニター・計画の見直しをサポートするのが、「MD計画システム」です。
アパレルの場合、シーズンが始まる半年も前に商品を決め、メーカー・卸と商談を行います。このとき初期のMD計画が作成されますが、半年後実際にシーズンが始まってみると、計画よりも売れないという事態が発生することがあり得ます。アパレル商品は、流行に左右されるため次の年に持ち越すのが困難であり、シーズン中に売れないと大量の不良在庫を抱えることになってしまいます。そこで、シーズン中の実績を週次でモニターし、売価の見直しや、売れている店・売れていない店の間の在庫配分の見直しなど、売り切るためのコントロールを行います。
従来これらの計画業務は、Excelを使用して実行している企業が多かったのですが、個人のスキルに依存した計画業務から脱却し、全社での計画の連動・整合を実現するために、専用のMD計画システムの導入が増えてきています。さらに膨大なデータから最適な計画値を求める「最適化システム」や、小売りとメーカー・卸間のWebを使った計画コラボレーションのシステムも導入が進んでいます。
上記のような(小売業の)システムに共通しているのは、大量のデータを効率的に扱えるということです。数十万から数百万までに及ぶ商品SKU数、数百に及ぶ店舗数に対して、日々刻々と実績データが計上されるので、そのデータボリュームは膨大なものになります。システムの処理性能の考慮だけでなく、大量のデータから問題点を見つけるアラート機能、商品や店舗を同じ特性で束ねて一括で指示を出す機能など、効率よく業務を行うが全般的に要求されます。
昨今のMDシステムは、大量データの扱いや変化への迅速な対応など、システムに求められる機能がますます高度化してきているため、従来のようにカスタムメイドで一から設計するのは難しくなってきています。そこで、パッケージソフトウェアの導入という選択肢があるわけですが、ERPの導入と同様に、大胆に業務を見直す覚悟と経営トップのコミットメントが必須です。
そのうえで、本当に実際の業務運用に堪え得るものなのか、現場の業務を検証することが必要になります(小売りの場合、ただでさえ商品・店舗の数が多いため、あまりにも作業効率が悪いと、業務が回らなくなるというリスクがあります。場合によっては、無理にパッケージですべてをカバーしようとしないという割り切りも必要だと思います)。
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