ITエンジニアに“意外と知らない”会計知識をお伝えする連載、「お茶でも飲みながら会計入門」の筆者インタビュー。そもそもこの連載は何のためにあるのか?
@IT自分戦略研究所に、「お茶でも飲みながら会計入門」という連載がある。会計システムに携わるITエンジニアに、業務知識として会計の入門知識をお伝えする連載だ。忙しいITエンジニアは、会計知識の習得にテクニカルスキル習得ほどの時間を割くことはできないだろう。ならば仕事で一息付くとき、例えばコーヒーやタバコで一服するすき間時間に読み切れる量、負担にならない軽さで、会計の知識を提供できたら、と始まった企画だ。
連載を開始して10回が過ぎた。筆者の吉田延史さんは会計士の業務の合間を縫って一生懸命企画を考えてくれている。@IT自分戦略研究所も吉田さんと協力し、新聞や経済誌に頻出する会計用語を分かりやすく伝えるということに注力してきたつもりだ。ところがこの連載、編集担当自ら告白するが、思いのほか読者からの反応が薄い……。第11回の「任天堂の減益から読む、円高が会計に与える影響」を除けば、PV数(ページビュー:ページの閲覧回数)はあまり芳しくない。このまま続けていていいのか、悩むところだ。
実際、危機感を抱いたのは吉田さんの方が早かった。吉田さんから@IT自分戦略研究所に対し、連載について再度打ち合わせをしたいと申し出があった。吉田さんとの度重なる反省会をとおして、見えたことがあった。内容に日商簿記検定1級レベルのワード(繰延税金資産、・パーチェス法や持分プーリング法)が出てきたりと、入門にしては少し難しすぎたこと。そもそも読者の皆さんが会計を必要と感じていないのかもしれないということだ。前者については、記事中で簿記1級の知識がなくても理解できるよう配慮し解説したつもりである。一方、後者については、連載をとおしてなぜITエンジニアに会計が必要なのかを読者の皆さんにきちんとお伝えしていなかった。これを重く受け止め、今回は「ITエンジニアになぜ会計が必要なのか」、連載の意義を伝えられればと思う。
吉田さんは京都大学 理学部 数学科を卒業後、2000年オービックに入社。ネットワークエンジニアとして、TCP/IPやVPNといったテクニカル用語に囲まれ勤務していた。会計システムに直接かかわる機会はなく、はじめのうちは業務で会計を必要に思うことはなかった。
だがITエンジニアとして働いていると、業務に会計が影響していると感じることが多々あったのだという。「例えば、3月にITエンジニアが忙しいのは会計が影響しているからです。3月決算の会社であれば、営業が売り上げを3月に計上するために顧客から検収書を取ることに奮闘します。するとITエンジニアは3月中に納品することを迫られ、忙しくなりますよね」(吉田さん)
業務に会計が影響すると感じていたのは吉田さんだけではなかった。当時の上司からも「システム構築に携わるなら、ある程度会計の知識を持っていた方がいい」といわれたことがあったという。
「どんなシステムでもシステム停止になる恐れはあります。例えば、サーバのバックアップに失敗し、サーバが停止したとします。その影響範囲はシステムによって違いますよね。人事のシステムだったら本業に影響するほど出ません。人事の人は困りますが、顧客に対しての影響はほぼないでしょう。でもこれが販売管理のシステムだったら話は違います。顧客の商売に直接的な影響を及ぼしてしまいますから。上司がいいたかったのはそういうことだと思います」(吉田さん)。
「今日出荷しないといけない製品」のデータがなくなると、どれを出荷していいかも、どの納品書を運送会社に渡すべきかも分からない。運送会社はどこに何を運べばいいかが特定できず、出荷がストップする。顧客の商売が止まってしまう。
元ネットワークエンジニアの吉田さんは、「ネットワークのエンジニアであっても、顧客がシステムを業務で使う温度感を知っておかないといけないと思いました。業務の裏には会計があり、会計上にどう数字が転記されていくのかという仕組みを知ることは重要です」と力説する。
出荷管理システムのみならず、販売管理や受注管理、債権管理のシステムでも同様のことがいえる。売り上げや売り掛けの管理、代金の回収にはすべて会計が絡む。
当然ながら、実際にサーバのバックアップに失敗するトラブルに直面したとき、必要なのはテクニカルスキルである。停止したサーバを会計の知識で直せるわけではない。会計の知識は目先のことを考えればいらないもの。だが、顧客が考えていることや業務上どこがクリティカルなのかを把握するには、会計や業務の知識(例えば、受注→売り上げる→代金回収といった仕組みなど)は勉強しておかないといけないのだ。
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