意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど。すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
「2009年度予算案と関連法案は27日の衆院本会議で与党などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。<中略>関連法案は消費税率を11年度にも引き上げる方針を付則に盛り込んだ税制改正関連法案など4法案。<以下、略>」(2009年2月28日付 日経新聞朝刊 1面)。
2009年度の予算案が可決され、消費税の増税は当面先送りとなりました。負担増が将来となったことでほっとした方も多いかと思います。
ところでこの消費税、皆さんご存じのとおり、われわれが直接国や都道府県に納めているわけではなく、商品を購入するお店に支払います。われわれが支払った後には、企業が会計処理を行い、国や都道府県に納付します。今回は、消費税に関する企業の会計処理について解説します。なお、消費税率は現在適用されている5%とします。
まずは、企業が消費税を納める仕組みについて、具体例を用いて説明していきましょう。ラーメン屋がめんを製麺業者から200円(税込み210円)で仕入れ、消費者に800円(税込み840円)で売るとします。消費者から預かった消費税は40円分なので、そのまま40円を消費税として納付するかというとそうではありません。製麺業者がラーメン屋から10円消費税を預かり、その分を納付しているからです。そこで、10円分については、ラーメン屋は納付額から控除することができます。つまり40円−10円=30円が、ラーメン屋が納付する消費税額となります。消費者が負担している40円は、製麺業者が10円、ラーメン屋が30円をそれぞれ代行納付してくれることとなります。
続いて会計処理について見ていきましょう。会計処理には大きく分けて、(1)税込み経理と(2)税抜き経理の2種類があります。
(1)税込み経理
税込み経理は、消費税込みで売り上げや仕入れを認識する方法です。先ほどのラーメン屋における仕訳は以下のようになります。
仕入れ時 |
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売上時 |
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税込み経理は仕訳が簡単なため、小規模企業においてよく用いられます。
(2)税抜き経理
税込み経理は、消費者から預かっているだけの消費税額が、仕入れや売り上げに入ってしまっている点に損益計算上問題があるといえます。税抜き経理ではその問題を解決するため、消費税額を分離し、支払額・預かり額を仕入れ・売り上げとは別の勘定科目で計上していきます。税抜き経理を採用した場合の、ラーメン屋における仕訳は以下のようになります。
仕入れ時 |
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売上時 |
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大きな企業では、通常税抜き経理を採用しています。税抜き経理は仕訳が複雑になりますので会計ソフトで自動的に反映させることが多いです。
決算時には、預かり分と支払分を集計し納付すべき金額を確定します。具体的には以下の仕訳を行います。
(1)税込み経理の場合
租税公課 | 30 | / | 未払消費税 | 30 |
(2)税抜き経理の場合
仮受消費税 | 40 | / | 仮払消費税 | 10 |
未払消費税 | 30 |
いずれの場合においても、納付すべき消費税は未払消費税として決算書に現れることとなります。
消費税額を分離し、支払額・預かり額を仕入れ・売り上げとは別の勘定科目で計上する方法。大きな企業ではたいてい税抜き経理が採用されている
システム導入においては、売り上げ入力や、在庫受け入れ処理と会計システムにおける、仕入れ・売り上げの仕訳が連動していることが少なくありません。各処理の作り込みにおいて、企業が税抜き経理を採用していて上述の仕訳を切る必要があるために、消費税の算出は必須であるといえます。
なお、本文では取り扱いませんでしたが、消費税が課税されない取引もあります。例えば、輸出取引は免税取引といわれ、消費税は課税されませんので当然、納付する消費税額も発生しません。上述の仕訳の際、両者を分類しておく必要があります。
企業から見ると、消費税の計算はなかなか複雑です。本質的には、最終消費者から預かっているお金にすぎませんので、損益に影響させるべきではないことに注意するといいでしょう。それではまた。
[お詫びと訂正] 仕訳の表の一部に誤りがありました(2009年4月9日19時25分)。 【2】会計処理の(1)税込み経理 [誤]
[正]
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。
イラスト:Ayumi
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