今回の検証で、導入の敷居が高いと感じた要因を下記に挙げてみます。
2009年6月上旬にFedora 11がリリースされましたが、リリース段階ではまだoVirtは含まれていませんでした。また、開発元のドキュメントには「10以降サポート」と書いてはあるものの、Fedora 11リリース時の段階ではFedora 10にしか対応していませんでした。なお、ほかのディストリビューションでは仮想アプライアンスを使えば導入は可能なようですが、ドキュメントが更新に追い付いていない状態です。
oVirt自体の開発速度が速いので、前者はある意味、仕方のないことかもしれません。後者は、ドキュメントに沿って行うと、一見、自分が何か失敗したのだと勘違いする処理結果があります。ところがドキュメントをよく読むと、http://ovirt.org/install-instructions.htmlに、
Even if it succeeds, it always exits with an error code of ``1''. Yes, this is a bug.
(訳:成功したとしてもいつもエラーコード1が出力される。これはバグだ)
と記述されています。「this is a bug.」のところは、もっと目立つようにしてほしいものですね。
検証中に悩まされたのはこの点です。oVirtを構成するサブシステムが多いので、1つ解決してはまた別の問題、1つ解決してはまた別の問題、という具合に、対応してもなかなかうまくいかず、どつぼにハマってしまったような気になります。
今後、インストーラがさらに簡単になり、自動的にほぼ問題なくインストールできるようになれば、導入自体の難易度は下がると思います。ただ一方、ユーザーにとってのブラックボックスとなる部分は増加します。これはトレードオフなので仕方ないことではありますが、運用するうえでは、やはりサブシステム間の関係を理解し、全体を把握していないと、障害が発生した際の対応が非常に困難になると推測できます。
なお、トラブル原因の当たりは付けているのですが、確認して検証の続きをやる時間が取れないので、検証の続きは次回に。
またoVirtの開発目標は、oVirt projectのWebサイトのホームページ(http://ovirt.org/)に「oVirt goals」として記載されています。ここには以下のように記載されています。
これを見ても分かるとおり、oVirtはビジネス向けの機能強化を図っていくものと期待できます。特に、最近のRed Hatのリリースなどでは、いわゆるクラウドコンピューティングに言及した発表がなされるのを報道記事で目にしますが、ここでの内容はそれを意識しているものと思われます。ここでは深く言及しませんが、サービスレベルの向上につながる機能が実装され、それがシンプルに、簡単に扱えるようになるのであれば、運用管理の観点からはとても好ましいことでしょう。
注8:原文では「SLA maintenance」となっていますが、意味を考えると「SLAの維持」を自動化するのではなく、「サービスレベルの維持を自動化すること」と考えるのが妥当でしょう。
さて、ここまでの説明を踏まえて、あらためてほかの仮想化技術に比べたKVMの優位性について考えてみましょう。
明確な優位性としては、1回目でも触れましたが、Linux Kernelのメインラインにマージされていることが挙げられます。KVMはそのアーキテクチャ上、VMwareやXenに比べるとパフォーマンスが劣るのではないかと思われています。とはいえ、カーネルを再構築しなくても、コマンドラインだけでノートPCでも気軽に使える点はメリットです。
そうした意味合いからKVMは、サーバ仮想化の手段としてではなくとも、ニッチな領域で生き残っていく(注9)のではないかと思います。ちなみに筆者個人としては、わざわざ同じ土俵で勝負をしなくてもいいのではと思っています。
注9:ニッチとはいっても、将来的にスケールしない領域であれば、ビジネス的には意味がありませんが。
今回、KVMを実際に運用していくうえでの課題として2つの管理ツールを挙げました。そしてその中で、主にRed Hatによって開発されているoVirtについて紹介しました。
ただ残念ながら、今回の検証では実際にoVirtを動かし、仮想マシンを制御するところまではできていません。そこで次回は、実際に正常に稼働するところまで検証・確認し、紹介できるようにしたいと思います。
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