「提案書」や「要件定義書」は書くのが難しい。読む人がITの専門家ではないからだ。専門用語を使わず、高度な内容を的確に伝えるにはどうすればいいか。「提案書」「要件定義書」の書き方を通じて、「誰にでも伝わる」文章術を伝授する。
第5回「ドキュメントの質を確実に上げる6つの文章作法」に続き、顧客に伝わる文章を記述するためのポイントを紹介します。今回は、修辞句や用語など、「より具体的な表現方法」について説明します。なお、前回同様に、まず「分かりにくい例文」を取り上げてどこが分かりにくいのかを解説し、その後に分かりやすい文章へと修正していきます。
分かりやすい文章を書きたいなら、「修飾語」に着目しましょう。修飾語を使うときは、以下のような点に注意します。
文章を書く際は、句や文節を使った長い修飾語を前に、語だけの短い修飾語を後に置きます。なお、長さに関わらず、「動詞を含む修飾語」は「動詞を含まない修飾語」より前に置きます。
赤いケースに入っているケーブルをコネクタに接続する。
上記の例文には、「赤い」という短い修飾語、「ケースに入っている」という動詞を含む長い修飾語の2つがあります。このままでは、
(1)ケースが赤い色
(2)ケーブルが赤い色
という、2つの意味にとれてしまいます。
(1)の意味に解釈させたいのであれば、表現に工夫が必要です。
ケーブルが赤いケースに入っている。このケーブルをコネクタに接続する。
(2)の意味に解釈させたいのであれば、以下のように語順を変えましょう。
ケースに入っている赤いケーブルをコネクタに接続する。
同一の修飾語で複数の語を修飾する場合、修飾したい語すべてに修飾語を付けます。先頭の語にだけ修飾語を付け、2つ目以降の語に修飾語を付けないことがよくありますが、それでは意味が曖昧(あいまい)になってしまいます。
3台のパソコンとプリンタを追加購入する。
上記の例文は、2つの意味に解釈できます。
(1)パソコンもプリンタも3台?
(2)パソコンだけが3台?
もし(1)の意味に解釈させたいのであれば、下記のようにきちんと台数を表現しましょう。
3台のパソコンと3台のプリンタを追加購入する。
ただし、修飾したい語が多い場合、すべてに修飾語を付けると冗長で読みにくくなります。そこで、被修飾語を並べない表現にします。
顧客提供のパソコン、プリンタ、コピー機、ファクシミリを検証に使用する。
顧客が提供する以下の機器を検証に使用する。
また、修飾語が長い場合も、すべてに修飾語を付けると冗長で読みにくくなります。そこで、修飾・被修飾の関係にしない文章に組み替えます。
電話とファクシミリを使った現在の注文システムに代わるオンライン受注システムと顧客管理システムを早急に構築する。
オンライン受注システムと顧客管理システムを早急に構築し、電話とファクシミリを使った現在の注文システムに代える。
修飾語を付ける語と修飾語を付けない語を「と」や「および」を使って並べて記述するときは、修飾語をつけない語を前に、修飾語を付ける語を後に記述します。
高性能のパソコンとプリンタを追加する。
(1)パソコンだけが高性能?
(2)パソコンもプリンタも高性能?
上記の例文は、2つの意味に解釈できてしまうため、表現に工夫が必要です。
プリンタと高性能のパソコンを追加する。
「係り係られる」とは、係る側の言葉が係られる側の言葉に作用を及ぼすことです(修飾語と被修飾語の関係もその1つ)。文章の意味を明確にするには、係る側の言葉を係られる側の言葉のできるだけ近くに記述します。
3日前に顧客から受け取った重要な文書を紛失した。
(1)3日前に文書を受け取った?
(2)3日前に文書を紛失した?
顧客から3日前に受け取った重要な文書を紛失した。
顧客から受け取った重要な文書を3日前に紛失した。
「および」「または」の両方を同時に使用する場合、書き方によっては意味が曖昧な文章になります。「および」「または」の対象が明確になるように工夫して記述します。
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(1)機能Aと機能Bを実行するか、機能Cを実行する?
(2)機能Aと機能Bを実行するか、機能Aと機能Cを実行する?
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