世界で広がるLTEサービス次世代の無線技術、LTEの仕組みが分かる(7)(2/2 ページ)

» 2011年03月29日 00時00分 公開
[小島浩, 小久保卓ノキア シーメンス ネットワークス]
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周波数利用効率などで優位なLTE

 次に、LTEと他の無線技術(W-CDMA、HSPA、HSPA+、WiMAX)を比較してみます(表4)。

WCDMA HSPA HSPA+ WiMAX LTE
ピーク伝送速度 384/384kbps 14/5.7Mbps 43/11.5Mbps 40/10Mbps 173/58Mbps
伝送遅延 100-200ms 40-60ms 25-35ms 30-50ms 10-20ms
使用帯域幅 5MHz 5MHz 5MHz 5-10MHz
unpaired(TDD)
1.4-20MHz
周波数効率
(MHz/cell DL/UL)
0.2/0.2Mbps 0.5/0.3Mbps 1.3/0.4Mbps 1.4/0.6Mbps 1.8/0.9Mbps
音声呼容量
(ユーザー/MHz/Cell)
18 27/17
(DL/UL)
36/25
(DL/UL)
20 73/47
(DL/UL)
アーキテクチャ RNC+BTS RNC+BTS RNC+BTS フラット(BTSのみ) フラット(BTSのみ)
サービス CSおよび高速伝送PS ブロードバンド/PS ブロードバンド/HSPA上のPSおよびCS PSのみ/VoIP PSのみ/VoIP
表4 無線方式比較

 

 LTEはほかの無線技術に比べ、速度、遅延時間、周波数利用効率などで優れていることが分かります。

 例えば、周波数利用効率(1MHz/セル)を同時アクセスの音声ユーザー数で比較すると、W-CDMAの18人に対して、LTEは73人(下り)となります。20MHzでは上記の20倍の音声ユーザーに対応できることになり、LTEの周波数利用効率の高さが理解できると思います。LTEは高速なデータ通信サービスが注目されがちですが、音声通信においても優れた特徴を発揮するといえます。

 こうした優位性から今後、世界で90%を超えるオペレータがLTEに移行すると推定されています。

 その移行パスはオペレータの事情によって異なりますが、例えばFDD陣営ではW-CDMA(3G)からHSPAを経てLTEへ移行する、あるいはGMS(2G)から3GをスキップしてLTEへ移行するといったシナリオが考えられます。また、TDD技術を利用するTD-SCDMAやWiMAXといったTDD陣営のオペレータの多くもLTEに移行すると見られています(図1)。

図1 無線技術方式の移行パス 図1 無線技術方式の移行パス

 前述のようにLTE商用サービスを開始するオペレータの増大とともに、ユーザー数も急増し、2011年には約1億人を突破すると予測するデータもあります(図2)。また、LTEのユーザー数の40%はTD-LTEを利用すると見込まれ、同技術を採用する中国、インドなど新興国の通信市場の発展が期待されています。

図2 各無線方式別の加入者数増加予想 図2 各無線方式別の加入者数増加予想

 ちなみに、米国のWiMAXオペレータであるクリヤワイヤ(Clearwire)はLTEネットワークを検証すると表明、ロシアのヨタ(Yota)も昨年、LTEの導入を表明するなど活発な動きを見せています。これらWiMAXのオペレータは、TD-LTE技術をベースにLTEサービスを提供する可能性が高いと考えられます。

 こうしたLTEへ移行する動きが加速する一方、WiMAX技術の高度化も進展しています。下り最大330Mbps、上り最大112Mbps(いずれも理論値)の高速通信が可能なWiMAX2(IEEE802.16m)の商用サービスに取り組むオペレータもあります。また、HSPAを拡張したHSPA+においても、下り42Mbpsといった高速通信が可能になってきました。

 既存のHSPA技術を用いてソフトウェアでHSPA+技術へアップグレードできる基地局設備も提供されるなど、オペレータが設備投資を抑えつつ、より高速なモバイル通信サービスを提供できる環境が整えられつつあります。多種多様な無線通信技術により、ユーザーのサービス選択の幅が広がることは間違いありません。

1Gbpsの超高速無線通信を目指すLTE-Advanced

 無線技術の標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)では、すでに次世代のLTE規格である「LTE-Advanced」の検討を開始しています(ITU:国際電気通信連合では、IMT(International Mobile Telecommunication)-Advancedと呼んでいます)。

 LTE-Advancedでは、下り最大1Gbpsの超高速無線通信を目標に規格の検討が進められています。この1Gbpsを達成するため、例えば使用周波数帯域幅はLTEの5倍にあたる100MHzまで拡張。また、複数のアンテナを用いて高速通信を行う無線通信方式MIMO(Multi Input Multi Output)では、LTEが送信用と受信用にそれぞれ最大4本のアンテナを用いる4×4MIMOを採用するのに対し、LTE-Advancedでは8本のアンテナを利用する8×8MIMOを検討しています。

 このほか、複数基地局が協調動作してスループット低下の原因となる電波干渉を低減するCooperative Systemsや、端末の移動時に複数セルを効率的にリレーするRelaying、マクロセルやマイクロセル、ピコセルといった複数レイヤを組み合わせるHeterogeneous Networksなど、高速化のためのさまざまな技術が検討されています(図3)。これらLTE-Advancedの技術的要素は3GPPリリース10として2011年6月ごろに公表される予定です。

図3 LTE Advancedの主な技術・機能(クリックすると拡大します) 図3 LTE Advancedの主な技術・機能(クリックすると拡大します)

LTEネットワークを共用するオペレータも登場

 ここまでLTEについてさまざまな角度から説明してきましたが、このブロードバンド化の流れとも関連した最近の世界の通信業界の動向を示すキーワードとして、「マネージドサービス」と「ネットワークシェアリング」が挙げられます。LTE導入によるブロードバンド化という新たな投資に対して、これらはそれぞれ、オペレータの運用コスト(OPEX)および設備投資(CAPEX)を削減するための方法となります。

 マネージドサービスは、オペレータが自社で行っていたネットワークの運用業務を社外にアウトソーシングするものです。例えば、ノキア シーメンス ネットワークスのマネージドサービスは世界中で200以上の契約実績を持ち、2億人を超える加入者が利用しています。運用管理をアウトソースすることにより、オペレータは顧客サービスの向上や新規サービスの開発など、競争力アップのための業務に注力しています。

 ネットワークシェアリングは、複数のオペレータがネットワーク設備を共用しながら、それぞれサービスを提供するものです。スウェーデンのオペレータであるTele2とTelenorの両社はLTEサービスの提供に当たり、合弁会社のNet4Mobilityを設立。合弁会社が構築したLTEネットワークを共用し、それぞれ独自のLTEサービスを開始していることがその一例です。またイギリスでは、3 UKとeverything everywhereがジョイントベンチャーのMBNL(Mobile Broadband Network Limited)を設立し、3Gネットワークを構築するなど、今後、ネットワークシェアリングの動きが活発化すると見込まれます。

 さまざまな端末の登場やオペレータの業務改革などとともに、LTEに代表されるモバイルサービスの高度化が期待されます。そのためには、高速・低遅延というLTEの特徴を生かした魅力あるアプリケーションの開発が、今後の普及のカギを握ることは間違いありません。

著者紹介

ノキア シーメンス ネットワークス株式会社 ソリューションビジネス事業本部 ネットワーク技術部長

小島浩

1987年 総合電機メーカ入社。以降、移動体通信ネットワーク機器、移動体通信システムの開発に従事。2007年 ノキア シーメンス ネットワークス株式会社に入社。以降、移動体通信機器、システムの業務に従事。

現在、同社ネットワーク技術部長。

ノキア シーメンス ネットワークス株式会社 事業戦略 統括

小久保卓

2001年から株式会社NTTドコモでネットワーク装置開発を担当。その後、経営企画部にてサービス導入戦略やLTE導入戦略策定に従事し、2009年にノキア シーメンス ネットワークス入社。現在は日本における事業戦略、事業計画全般を担当。

2001年京都大学情報学研究科修了


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