「チームをなるべく変えないで維持する方が良い」といっても、組織の状況は変化します。人間は年を取るし、チームの構成員も変わっていきます。そうした時、スクラムではどのように対応するのでしょうか。
答えは「いつもどおり、他のメンバーと学び合う」です。
誰かがチームを離れる場合、残りの人でチームの生み出す価値を維持しなければなりません。まったく同じとはいきませんが、必要なスキルや活動は、他の人で分担ししてこなすようにします。
長い間、スクラムでチーム運営していれば、チームを離れるメンバーのやっていた仕事については、他のメンバーも十分に知っているはずです。実際にペアを組んでこなした仕事も多いでしょう。そのメンバーの創造性まではカバーできないかもしれませんが、業務の継続には支障がないはずです。必要ならば、「障害リスト」に具体的な項目を書き加え、1つずつ課題を解決しましょう。
人が増える場合、必要なのは「教育」です。
これも、いつも通りのミーティングやペア作業を行っていくのが基本です。もしひととおり説明をした方がいい場合は「プロダクトバックログ」に記述して対応するとよいでしょう。新しい人が、スクラムのミーティングやバックログの意味を知らない場合は、学んでもらう必要があるでしょう。その人が知識を得ることは、チームとしての成果物の価値に寄与するでしょうから、優先度をつけて対応します。チーム内で教えるセッションをしてもいいでしょうし、外部の研修を活用してもいいかもしれません。もちろん、プロダクトオーナーにも、状況を知ってもらうべきです。
小さなチームに属する時、よく不安になるのが、「チーム内に自分より詳しい人がいない」スキルがたくさん存在することです。自分はそんなに詳しくないけど、チームの中では一番詳しいことになってしまった……そんなスキルがたくさん出てきます。
その場合は、チームとは別に、専門コミュニティにも属し、自分より詳しい人の意見を聞いたり、他の人と問題を共有し、一緒に学んでいきましょう。まだコミュニティがなければ、自分で作ってもいいでしょう。
小さなチームがたくさんあるだけでは、すぐタコツボにはまってしまいます。企業にとっては、小さなチームを業務の単位にする場合、技術的な優位性を維持するために、実践者コミュニティの力が不可欠になるのです。企業が大きければ、社内のコミュニティでも人が集まるかもしれませんが、一般的には、社外のコミュニティの方が、より優れた実務者が集まる確率が高くなります。ぜひコミュニティを活用しましょう。
2011年、スクラムのルールブックといわれる「スクラムガイド」が改訂されました。そのなかで、チームの最低人数が4人から3人に修正されました。前述のとおり、この項目は経験則に基づいていますので、3人でもうまくいく例が出てきたということでしょう。
アジャイルの概念を創業期のベンチャー企業(スタートアップ企業)に応用する考え方であるリーン・スタートアップの分野でも、3人のチームが注目されています。ティム・マッコイ氏が提案した「プロダクト・スチュワードシップ」によると、3つの役割(ビジネスオーナー・デザイナー・開発者にあたる)を定義しています。限られた資金でチャンスをつかむには、人が少ない方がリスクが少ないため、最低3人で始めることもあるようです。
かわぐちやすのぶ
スクラムのトレーニングや、認定トレーニングのオーガナイザーを務める。2011年7月より現職。
金融向けプロダクト企業にて、14年間勤務。社内向けの新規ツールや、新企画のパイロットプロジェクトを中心に、少人数でユーザー調査から製品開発、運用まで行うプロセスを探求。企業向けの新規プロジェクトのコンサルティングも手掛けた。
イノベーションスプリント2011 実行委員長、スクラムギャザリンング東京2011 実行委員、デベロッパーズサミット2011アドバイザー、AgileUCD研究会 共同発起人。
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