Objective-Cは2009年中ごろから強い成長を見せ始めた。
iPhone App Storeのサービス開始が2008年7月であり、登録されるアプリケーション本数の増加、開発者や経営者がiPhone App Storeを重要な市場と認識するまでのタイムラグ、Web上に掲載されるデータが増え始めるタイミングなどを考えると、Objective-CはiPhoneやiPadなどの人気にけん引される形で、Web上の話題を増やし続けていると考えられる。これはそれなりに妥当な推測だろう。
過去10年のTIOBE PCIを見ると、Objective-Cの成長率は群を抜いて強いものがあり、信じがたいほど一気に値を増やしている。
ただし、C++で開発されたプロダクトやサービスはかなり多く、それらがすべてObjective-Cに置き換わるとは考えにくい。また、そうした分野のアプリケーションやシステム開発にC++ではなくObjective-Cが使われるかといえば、現段階ではそれはあまり現実的ではないように思える。
Objective-CはあくまでもiOSまたはMac OS X向けのアプリケーションを開発するプログラミング言語として、高い話題性を持ち続けているものと考えられる。
Javaは10年間に渡って下落傾向にあるが、C言語は逆に、2008年ごろから値を増やし始めている。
さまざまな要因が考えられるが、Javaは成熟したことによってかえって「話題性」が減ったことが、1つの要因としてあるかもしれない。最近Javaへの追加が検討されている機能は、エンタープライズ用途や熟練プログラマにとってありがたいものだが、ビギナーユーザーにとっては関心がない機能が多い。
それでは、そもそもJavaのように明確なリリースバージョンを持たないC言語の話題性が上がっているのはいったいどういうことか、が次の疑問になる。Cの話題性の上昇は、Objective-Cの影響を受けたためという可能性が考えられると思う。C++とObjective-Cを比較した場合、Objective-CはC言語の機能はそのままに、そこにオブジェクト指向の仕組みを追加したようなものになっている。このため、Objective-Cの開発をする場合、C言語の知識も必要になる。
C++はC言語も記述できるが、C++らしいプログラミングのみでも開発できるようになっており、(C言語をすっ飛ばすということでもないのだが)C++の教科書や資料などを読めば事足りることが多い。
この結果、Objective-Cの話題が増えるに従って、前提条件として要求されるC言語の話題が増えているのではないか、そういった推測ができるのではないか。これに関しては確かなデータがあるわけではないが、Objective-Cがここまで強く成長していることを考えると、この推測はあながち間違ったものではないと考えられる。
第2回ではLuaとRが、今後台頭する可能性があると予測したが、いまのところこの2つの言語は低迷しており、大きな躍進を遂げる兆候は見られない。
Luaは20位以内にランクインするというポジションで安定している。それ以前の状況と比較すれば、これは大きな成長だとはいえる。このLuaもC言語と同じように、iOSのアプリケーション開発(いわゆるObjective-C開発)にけん引された結果ではないかと見られる。LuaはiOSアプリ開発での使用が認められているスクリプト言語だ。
Rはパッとしない状況になっている。やはり、そもそも専門性が強く、ユーザーのパイに限りがあることが、Rがあまり台頭してこない原因ではないかと考えられる。
TIOBE PCIの値を見る限りだが、現在Web上に存在するプログラミング関係のドキュメントは、iPhoneやiPad向けアプリケーションの開発に強い影響を受けているのではないか、といえそうだ。
何度も繰り返すが、TIOBE PCIの順位はあくまでも検索エンジンから得られる、そのプログラミング言語がどれだけ話題になっているかといったことを示すものであり、実際に使われている割合や人気を示すものではないし、プログラミング言語の性能を評価するものでもない。しかし、Web上のデータに何らかの傾向があるのは確かで、そこから世界の動きを読み解いていくのは、これはこれで興味深い作業だ。
特にここ2、3年のTIOBE PCIの動きは面白い。1〜2年後にはObjective-CがJavaを抜いて2位に付けるといった可能性がないわけでもなく、今後もしばらくはこの報告に一喜一憂できそうだ。
後藤大地
BSDコンサルティング株式会社取締役、オングス代表取締役。@ITへの寄稿、MYCOMジャーナルにおけるニュース執筆のほか、アプリケーション開発やシステム構築、『改訂第二版 FreeBSDビギナーズバイブル』『D言語パーフェクトガイド』『UNIX本格マスター 基礎編〜Linux&FreeBSDを使いこなすための第一歩〜』など著書多数。
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