NTTコム、GMO、楽天が語る「僕らがOpenStackを使う理由」特集:OpenStack超入門(5)(3/3 ページ)

» 2015年03月02日 10時00分 公開
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仮想化からクラウド、そしてOpenStack――楽天の場合

 最後に登壇した楽天では、現在、自社システム基盤のサーバー仮想化環境への移行を推進している。OpenStackに関する技術検証やノウハウも蓄積しているところだという。登壇したのは、佐々木健太郎氏、吉越功一氏の二人だ。

写真右から佐々木健太郎氏、吉越功一氏

三木 楽天ではサーバー仮想化を踏まえ、システム基盤のクラウド環境への移行を進めているそうですが、この方針決定に至った経緯はどういったものでしたか?

佐々木健太郎氏

佐々木 楽天が提供するサービスには、現在約9500万人の会員がいます。さらに事業のグローバル展開にも注力しており、こうした事業方針を支えるためには、ITインフラの運用管理の効率化を進める必要があります。このような目的からサーバー仮想化基盤へのシステム統合を進めているところです。2014年の時点で既に1万6000程度の仮想マシンインスタンスがこのサーバー仮想化基盤上で稼働しています。OpenStackについては現在、社内のITエンジニア向けに「サンドボックス」(他のシステムに影響しない“お試し”環境)として提供しており、アプリケーション開発エンジニアが自分でサーバーインスタンスやネットワークなどの環境を作れるようにしています。まずはITエンジニアおのおのがこの環境に慣れてノウハウを蓄積し、将来的には本番環境に展開していきたいと考えています。

楽天ではOpenStackで構築した環境を「サンドボックス」として、社内のアプリケーション開発エンジニアが自分でITインフラ構築を試せるようにしている

三木 サーバー仮想化で得られた効果はどのようなものでしょうか? また、サーバー仮想化の次はどのようなものが必要になると考えていますか?

佐々木 まず、仮想化基盤に載せたことで得られたのはコスト削減効果です。この次に必要になるものは「プラットフォーム化したITインフラ環境」であると私たちは考えています。事業展開に求められるスピードは非常に速くなっており、アプリケーション開発スピードもそれに対応できるようにならなくてはなりません。その最初の段階として、APIを含むプログラミング可能なセルフサービスでのITインフラ調達環境を、アプリケーション開発エンジニアに提供しています。

三木 サーバー仮想化だけでは不十分でしょうか?

佐々木 内製でAPIを作る、GUIを作るという方法は既に多くの企業で経験済みのことだと思います。この作業には非常に工数が掛かります。そうしたコストを掛けるよりも、あらかじめクラウドサービス提供基盤として設計・開発されているものを利用するのも、迅速にITインフラ基盤を構築する際の一つの選択だと考えています。

三木 その目的であるならば、CloudStackや有償のIaaS基盤ソフトウエアなど、OpenStack以外にも選択肢があります。なぜOpenStackを利用することにしたのでしょう?

佐々木 OpenStackを選択した理由は三つあります。「OSSであること」「エコシステムが出来上がっていること」そして「成熟したソリューションであること」です。

三木 「OSSであること」はさまざまな解釈ができますね? 楽天にとってOSSのメリットとは何ですか?

佐々木 まず、無償配布のOSSである点はコスト面で大きなメリットです。ベンダー依存がない点もOSSの利点でしょう。ですが、何よりも私たちにとってOSSであることの最大の利点は、先進的な機能を随時、自分たちの考えで取り入れられることと、世界中の技術者が参加してスピーディに開発を進めるOSSプロジェクト内部に入り込める点にあります。

吉越功一氏

吉越 世界中の開発者の知識がOSSには詰まっている。その点は大きな魅力ですね。

三木 では、OpenStackコミュニティが作り上げているエコシステムはどう評価しているのでしょうか?

佐々木 OpenStackコミュニティが構築しているエコシステムでは、オープンなAPIを介して、パブリッククラウドサービスと連携したり、ハイブリッドクラウド環境の構築を推進したりすることができます。

吉越 三つ目に挙げた「成熟したソリューションであること」とも関係しますが、多様なベンダーが多様なアプローチからコミュニティに参加することで、OpenStackのエコシステムが出来上がっています。企業が抱える課題に対して、開発コミュニティ参加者全体で解決の選択肢を提供できる状況にあること、つまり成熟したソリューションに至っている点もOpenStackの魅力だと思います。

三木 一般的には、「IaaSサービスを自前で構築するくらいならば外部のクラウドサービスを使えば良いではないか」という意見も少なくないようです。楽天では自社内でIaaS共通基盤を構築しようとしていますが、社内でITインフラを構築することの意味をどう考えているのでしょうか?

佐々木 私たちが運営するシステムでは多数の会員情報を保持しているため、パブリックな環境に出すつもりはありません。その点で社内構築の意味があります。一般的には、各社の基準を持ってパブリック/プライベートを使い分けるべきでしょう。アプリケーションサービスごとに、適材適所であればいいと思っています。

吉越 私が聴講したヤフーのプライベートクラウド事例(「OpenStack Days Tokyo 2015」における講演)で、「パブリッククラウドと比較して約97%もコストダウンできた」という話題がありました。柔軟なシステムを自分たちの責任で利用できることも、プライベートクラウドの強みだと考えています。

三木 クラウドの利用で、ITエンジニアの仕事は変わると考えますか?

吉越 クラウド環境では、ITインフラの設計/構築/運用を担当するITエンジニアと、アプリケーションの設計/開発/運用を担当するITエンジニアの境界があいまいになってきます。というのも、ITインフラをAPI経由で操作することになるので、開発系のITエンジニアであってもITインフラの知識が必要になるからです。このような状況において、ITエンジニアが持つべきマインドとしては、「状況変化に柔軟に対応する」「OSSを活用するだけでなくOSSコミュニティに貢献する」ことが挙げられると思います。楽天としても、積極的にOpenStackのコミュニティに貢献したいと思っています。

佐々木 最近では、今後必要になるITエンジニア像として、ITインフラからアプリケーション、サービスデザインなど、IT系サービス開発に必要なスキル全般に精通した「フルスタックエンジニア」を求める声をよく聞きます。「フルスタックエンジニア」と、ひと言で表現することは簡単ですが、その言葉が意味するスキルを持つITエンジニアはまだほとんどいないでしょう。何でも一人でこなす必要があるベンチャー企業はともかく、ある程度の規模以上の企業になると、クラウド時代といえども分業体制を採っていることが少なくありません。そうした環境であっても、業務分担を越えて技術コミュニティへの貢献に目を向けることができるような、内発的な動機を持っているITエンジニアが求められるようになるのではないでしょうか。

 本稿では、2015年2月4日に開催されたOpenStackのユーザーイベント「OpenStack Days Tokyo 2015」も二日目のキーノートセッションをリポートした。

 登壇した三社は、「通信キャリア」「サービスプロバイダー」「オンラインサービス提供企業」とそれぞれ視点は異なるものの、IaaS基盤ソフトウエアとして一定の地位を獲得しつつあるOpenStackの、技術的な利点やエコシステム、技術コミュニティを積極的に活用し、自社の強みとすべく活動していることがうかがえた。

アイティメディア エグゼクティブエディター 三木泉はセッションの最後に「IaaS基盤を含め、現在クラウド環境に注目が集まっている理由は、ITエンジニアらが、目まぐるしく変化するビジネススキームに迅速に追従して事業を支えられるIT環境を提供する必要に迫られている点にある」と解説した。その上で、従来のような重厚長大な「構築するIT」から、エコシステムやコミュニティの成果を活用しながら「消費するIT」が望まれていると指摘、今後「OpenStackのようなデファクトスタンダードを軸に、それぞれの企業がITシステムの付加価値を作っていくことが一層重視されていくだろう」とまとめた

特集:OpenStack超入門

スピーディなビジネス展開が収益向上の鍵となっている今、ITシステム整備にも一層のスピードと柔軟性が求められている。こうした中、オープンソースで自社内にクラウド環境を構築できるOpenStackが注目を集めている。「迅速・柔軟なリソース調達・廃棄」「アプリケーションのポータビリティ」「ベンダー・既存資産にとらわれないオープン性」といった「ビジネスにリニアに連動するシステム整備」を実現し得る技術であるためだ。 ただユーザー企業が増えつつある一方で、さまざまな疑問も噴出している。本特集では日本OpenStackユーザ会の協力も得て、コンセプトから機能セット、使い方、最新情報まで、その全貌を明らかにし、今必要なITインフラの在り方を占う。



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