人材育成歴30年の田中淳子さんが、職業人生の節目節目で先輩たちから頂いてきた言葉たちを紹介する本連載。今回は、両親から掛けてもらった言葉によって自己理解が深まったエンジニアの話を紹介する。
この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。
人材育成歴30年の田中淳子さんが、人生の先輩たちから頂いた言葉の数々。時に励まし、時に慰め、時に彼女を勇気付けてきた言葉をエンジニアの皆さんにもお裾分けする本連載。
前回は、新人や若手に仕事を教える際に、上司や先輩が心掛けるべきポイントを解説した。今回は、他者の目に映る自分の姿を通して自己理解が深まったエンジニアの話を紹介する。
IT企業でエンジニア向けに「プレゼンテーション研修」を担当したときのことだ。私は受講生たちに「研修で撮影した自分のプレゼン動画を、翌日までに自宅で見てくること」という宿題を課した。
受講生の一人、20代の女性SEは親元から通勤していたので、家族が寝静まってからリビングのテレビで音量を小さくして動画を見たそうだ。夢中になって見ていると、突然、お母さんから声を掛けられた。
「あなたも頑張っているのね」
母は娘の帰宅が毎晩遅いので、心配していたようだ。「何をして、こんなに遅くなるのだろう」「仕事、うまくいってないのかしら」と。
「私がシステムの提案をしている動画を見て、ちゃんと仕事しているんだな、と思ってくれたみたいです。動画を見られたのは恥ずかしかったけれど、母と仕事について話せたのは良かったな、と思いました」
彼女からの報告を聞いて、私も他の参加者も「いい話だなあ」としみじみとした。
自分の仕事を家族に理解してもらうのは非常に難しい。妻が何を苦労しているのか夫が理解するのも、夫が何を頑張っているのか妻が理解するのも、子どもの仕事内容を親が理解するのも、親が外でどれほど大変なプロジェクトをこなしているかを子どもが理解するのも、全て等しく困難だ。
「説明しても分からないから、家族には説明しない」という人も多いだろう。彼女の例のように、動画を見ている場面に親がたまたま出くわして娘の苦労や努力を理解してくれる、なんていうのはめったにない話かもしれない。
しかし彼女の話を聞いて、「何かを見せる」「話してみる」ことは、家族や近しい人に理解してもらうきっかけになるのかもしれないと思った。
「どうせ分からない」と決めつけるのではなく、「分からないかもしれないが、苦労や頑張ったことを話してみる」「分からなくてもいいから、作ったものを見せてみる」といったアクションを起こせば、相手も何かを理解し、協力してくれたり、客観的にアドバイスしてくれたりすることもあるのではないだろうか。
他者の目を通して見る「自分の姿」は、ときに自分の理解を深めることもある。これは、システム開発会社で働く中堅エンジニアから聞いた話だ。
「仕事は嫌いではないけれど、『すごく好きか?』と聞かれれば、そうでもないと思っていました。長年担当している技術分野なのでそこそこうまくやっているけれど、嫌なことはそれなりにあるし、人間関係も結構面倒くさい。何となく自分に折り合いを付けて日々を過ごしていました」
彼は久しぶりに帰省した際、そのモヤモヤした気持ちを両親に話してみたそうだ。「仕事も職場も、好きなんだか嫌いなんだか、続けた方がいいのか他の道を探った方がいいのか、よく分からなくなった」と。
すると、お父さんはこう言ったそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.