QuickSightは、AWSにとっては、もう一つの重要な側面を持っている。同社はソフトウエア開発者や企業の情報システム部門を対象にしたサービスを急速に増やし続けているが、一方で、これまで約3年にわたり、企業内のエンドユーザーを対象にしたサービスにも力を入れてきた。
具体的には、AWSが「エンタープライズアプリケーションサービス」と呼ぶ、(1)仮想デスクトップサービス「Amazon WorkSpaces」、(2)電子メール/カレンダーの「Amazon WorkMail」、(3)ファイル共有の「Amazon WorkDocs」だ。AWSはActive Directoryあるいは同社のディレクトリサービスと連携する形でこれらのサービスを展開。企業内のあらゆるユーザーが同社のサービス上で業務を完結できる世界を目指し、活動を進めている。
新サービスは、一般企業において、開発者や情報システム部門の担当者に加え、エンドユーザーがAWSの直接利用者となってもらえるように、上記の三サービスに加わるものだと表現することができる(ただしAWS自身は、少なくとも今のところ、QuickSightを「エンタープライズアプリケーションサービス」には含めておらず、「分析サービス」に分類している)。
ユーザー企業のあらゆる社員が、AWSクラウド上で業務を完結できるように持っていくのは、いくら同社でも容易ではない。だが、自社のデータがAWS上に蓄積されつつあるユーザー企業なら、同じクラウドが提供するセルフサービスBIツールを一般社員に使わせようと考えるのは自然な成り行きだ。こうして、顧客組織内でのAWSユーザー層の広がりを促す役割を果たすのが、QuickSightだといえる。
前述のように、QuickSightの料金体系は、基本的にはユーザー/月単位であり、この点でAWSの他のエンドユーザー向けサービスと同様だ。同社のデベロッパー向けサービスのように、従量課金ではない。
今回発表されたセルフサービスBIツールは、前述の通り、マイクロソフトの「Power BI」、IBMの「Watson Analytics」に近い。Power BIにはデスクトップ版とクラウド版があるが、同社はクラウド版を推進している。二社はフリーミアムモデルで、分析対象となるデータやデータサイズには限界があるものの、無料で利用することができる。一方、AWSの新サービスにはこれがない。
その理由を、アマゾンデータサービスジャパンの技術本部ストラテジックソリューション部部長である大谷晋平氏は、「無料のフロントエンドツールでユーザーを誘導し、クラウド上の高価なデータサービスを使ってもらうといったビジネス戦略を採る必要が、AWSにはない」と話す。恐らくAWSの戦略は逆だ。既に、同社クラウドにデータが集まり始めている状況を前提として、関連サービスを充実させていくことを考えているのだと推測できる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.