ポシュル氏は、OpenStack環境の構築を機に、従来型のITプロセスを徹底的に見直そうとしているという。これまでは、組織や技術、ワークロードが時とともに変わっても、いったん決めた運用プロセスに従うことを必須としてきた。「だが、新しい環境、新しいワークロード、新しい組織で、従来のプロセスが本当に全て必要なのか」。
例えば、これまでBMWでは社内の全サーバーに関して、「どこにいつから何があり、誰が管理しているか」など、そのライフサイクルを詳細に管理してきた。だが、ユーザー部門に仮想インスタンス単位で貸し出すOpenStackの場合は、仮想インスタンスのライフサイクル管理をしようとしても不可能だ。
また、ユーザー部門に対する課金のプロセスも見直しが必要だ。これまでは1カ月に一度、各部門の利用サーバー数などを確認すればよかった。だが、OpenStack環境で月に一度利用量をチェックし、これに基づいて課金しようとすれば、「いつチェックが実施されるかをユーザー部門が知ったなら、そのときだけ全ての仮想インスタンスを止めるかもしれない」。
とはいえ、OpenStack環境におけるユーザー部門への課金については、いまだに模索中の段階だという。「多くの人々が、『従量課金はいいことだ』というが、例えば開発・テスト環境で、テストをより多く実行したからといって支払い額が増えるというのは間違いだ」。
BMWでは、Amazon Web Services(AWS)と同様に、「オンデマンド」「リザーブド」「デディケーテッド」の3種類からなる課金体系を構築している。だが、ワークロードによってニーズは異なるため、ユーザー部門から学びながら改善しているという。
OpenStack環境でも、資産管理やインシデント管理は従来型のITと同様に必要だ。一方、これまでは手動で実行してきたプロセスを、自動化しなければならない部分もある。「7年に1回だけならよかったかもしれないが、(OpenStack環境で)5分に1回実行しなければならなくなれば、(手動では)機能しない。例えば証明書の発行や無効化がこれに当たる」。
ポシュル氏は、OpenStackが従来型のITの置き換えとなるものではないことを強調する。OpenStackという新しい環境から積極的なメリットを得られるワークロード、つまり、スケールアウト型で、障害に耐えられるアプリケーション、CI/CD的なアプリケーション、インストールや構成の自動化が重要なアプリケーションといった、クラウド的なものだけを動かすべきだと話す。
「従来型のIT環境で、効率的に動いているデータベースがあれば、そのままにしておくべきだ。データベースで重要なのは安定性であり、俊敏性が問われることはない」
一部のユーザーは、面倒なプロセスを経ることなく、手っ取り早く簡単に調達できるという期待から、例えば物理サーバーの申請を忘れたなどの理由で、多様なワークロードをOpenStackに持ち込もうとする。ポシュル氏は、OpenStack利用に関心を持つユーザーと、まず話し合いの場を持ち、その人がOpenStack利用に適していると判断した場合にのみ、使わせるようにしているという。
「私たちは『自社のワークロードの(例えば)6割がOpenStackクラウドに載っている』という自慢をしたいわけではないからだ。ビジネスをうまく回していけるようにしたいだけだ」
BMWでは、この社内OpenStack環境を利用するユーザーが集まってコミュニティを形成、情報交換を始めているという。「(OpenStack環境では、)以前のように、情報システム部門が一つのソリューションを作り、これを誰もが使わなくてはならないということではない」。ユーザー側はやりたいことを自ら実現する。一方で、複数のユーザーが同じようなことをやっている場合もあり、それぞれの経験について話し合ったり、協力し合ったりする場が存在することが重要なのだという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.