普段から持ち歩くiOS/Androidスマートフォン/タブレットにとって、外出中にこそリモートデスクトップ接続をする機会は多いはずだ。そこで社外すなわちインターネット経由で社内PCにリモートデスクトップ接続をする方法について解説する。
第1回と第2回では、社内のイントラネット環境を前提に、Microsoft純正のリモートデスクトップのクライアントアプリ(以下、RDCアプリ)を用いて、Android端末やiOS端末(iPhone/iPad/iPod touch)からWindowsマシンへリモートデスクトップ接続をする方法を説明した。だがこれらの方法だけでは、外出中あるいは帰宅後の自宅などイントラネット以外のところから社内のWindowsマシンに接続することはできない。
最終回となる今回は、同じAndroid OS/iOS端末とRDCアプリを対象に、遠隔地からリモートデスクトップ接続を実現する方法について解説する。
イントラネット環境でのリモートデスクトップ接続と同じ手順で、遠隔地から社内のコンピューターへリモートデスクトップ接続をしようとしても、通常は失敗してしまう。これは社内ネットワークがファイアウォールなどで防御されていて、リモートデスクトップ接続のための通信もブロックされてしまうためだ。
社外から社内ネットワークへの通信は限られたプロトコルだけに許されていて、他のプロトコルはブロック(禁止)されているのが普通だ。Microsoft純正のRDCアプリがリモートデスクトップ接続に用いるRDP(Remote Desktop Protocol)というプロトコルは、ブロック対象とされることが多い。リモートデスクトップで接続できると、その接続先コンピューターを自由に操作できてしまい、セキュリティ上の危険性が高いためである。
そこで社外からリモートデスクトップに接続するためには、「VPN(Virtual Private Network:仮想プライベートネットワーク)」か「リモートデスクトップゲートウェイ」のいずれかの方法を利用するのが一般的である。
VPNとは、本来は別々の異なるネットワークに位置する拠点の間に通信用の仮想的なトンネルを作ることで、直接通信できる仮想的なプライベートネットワークを構築する技術である。このトンネル内を行き交うデータは暗号化されるため、トンネルの外側からは傍受できない。またトンネルはその両端のコンピューター間で認証を経てから作成される。こうした仕組みから、限られたコンピューターだけがVPNで安全に通信できるようになっている。
VPNの実現方法には多くの種類があるが、インターネットを介してトンネルを作る「インターネットVPN」が廉価に構築できるため、中小規模の組織ではよく利用されている(インターネットVPNについては右の関連記事も参照していただきたい)。以下の図は、インターネットVPNを介してリモートデスクトップ接続をするときのネットワーク構成の概略を表している。VPNの通信に必要なプロトコルはファイアウォールを通過できるように設定されており、社外すなわちインターネットから着信して接続を確立できる。
インターネットVPNの場合、接続元であるスマートフォン/タブレットでは、まず携帯電話回線や公衆Wi-Fi、あるいはモバイルルーターなどを利用してインターネット接続を確立してから、VPN接続を確立する。この時点で社内のコンピューターとはRDPを含む各種プロトコルで直接通信できる状態になっているので、あとは第1回や第2回で解説した手順でRDCアプリからリモートデスクトップ接続をすればよい。
小中規模の組織の場合、上図にあるVPNゲートウェイの役割は、社内から社外へのインターネット接続に用いられているブロードバンドルーターが兼ねていることが多いようだ。またWindows Serverのリモートアクセスサービスで実現することも可能だ(詳細は「在宅勤務を実現するリモート・アクセスVPN構築術 Windows OSで作るVPNサーバ」参照)。接続元のスマートフォン/タブレットについては、Android OSもiOSも標準(OSレベル)でVPNクライアント機能を装備しており、複数のVPN用標準プロトコル(PPTPやL2TP、IPsec)に対応している。そのため、アプリなどを追加しなくてもVPNクライアントとして設定することが可能だ*1。その方法については後で説明する。
*1VPN接続にアプリが必要な場合もある。例えばiOS端末でSSL-VPNを利用する際、VPNゲートウェイのベンダーが提供しているアプリのインストールが求められることがある。
Microsoft純正のRDCアプリで遠隔地からのリモートデスクトップ接続を実現するもう1つの方法は、Windows Serverの「リモートデスクトップゲートウェイ」(以下、RDゲートウェイ)という機能を利用することだ。これは社外からリモートデスクトップ接続を社内ネットワークに中継するための機能で、Windows Server 2008以降に標準で装備されている(WindowsクライアントOSには実装されていない)。その仕組みは、クライアントとRDゲートウェイ間にHTTPSで暗号化された仮想的なトンネルを作り、そこにRDPを通すことで安全に社内コンピューターとのリモートデスクトップ接続の通信を確立するというものだ。
上図のネットワーク構成は前述のVPNとよく似ているが、RDゲートウェイはリモートデスクトップ専用なのでVPNのような汎用性(ファイル共有など他の通信も可能)はない。また、RDゲートウェイはWindows Serverで実装する必要がある。その一方で、クライアント側ではRDCアプリだけで社外からの接続を確立できるため、あらかじめVPN接続を済ませておくといった手間は不要だ。
リモートデスクトップゲートウェイを構築する方法については、運用「Windows Server 2008ターミナル・サービス・ゲートウェイ実践構築入門」を参照していただきたい。Windows Server 2008を対象としているため、最新のWindows Serverとは異なる点もあるが、基本的な概念や構築手順については参考になるだろう。
さてここからは、遠隔地から社内コンピューターにリモートデスクトップ接続をする際、クライアントとなるスマートフォン/タブレットで必要な設定について説明しよう。
まずはAndroid OSが標準装備しているVPNクライアント機能を使って、社内のVPNゲートウェイに接続するための設定について説明する。前述のようにVPN接続が確立すれば、あとは通常の手順でRDCアプリからリモートデスクトップ接続が可能だ。
ただ、VPNのプロトコルにはたくさんのバリエーションがあり、クライアントの設定方法も一様ではない。ここでは小中規模の組織で比較的よく使われるPPTPとL2TP/IPsec(事前共有鍵方式、PSK: Pre-shared key)を対象として解説する。例として用いているAndroid端末はNexus 7(2013年版)+Android OS 4.4である。
Android OSのホーム画面から[設定]アイコンをタップし、「無線とネットワーク」欄の[その他]−[VPN]とタップするとVPN接続の一覧画面が現れる(最初は空欄のはずだ)。ここで右上にある[+]をタップしてVPN接続の新規作成を始める。なお、手順の途中で画面ロックの設定を求められたら、指示に従ってPINコードあるいはパスワード、画面ロック解除パターンのいずれかを設定し、その後にVPNの接続設定を再開すること。
VPN接続の新規作成画面では最初にVPNのプロトコルを選ぶ。PPTPの場合は[タイプ]から「PPTP」を選び、[サーバーアドレス]にVPNゲートウェイのホスト名(FQDN)かIPアドレスを記入する。
L2TP/IPsec(事前共有鍵方式)の場合は、[タイプ]から「L2TP/IPSec PSK」を選択してから、[サーバーアドレス]にVPNゲートウェイのホスト名(FQDN)かIPアドレスを記入し、VPNゲートウェイに設定されている事前共有鍵の文字列を[IPSec事前共有鍵]に記入する。VPNゲートウェイの管理者から指定されている場合は、[L2TPセキュリティ保護]や[IPSec ID]も記入すること(指定されていなければ空欄のままでよい)。
必要な項目を記入して[保存]をタップしたら、VPN接続の作成は完了だ。
まずVPN接続を確立してから、RDCアプリでリモートデスクトップ接続を実行する。
ホーム画面の[設定]−「無線とネットワーク」欄の[その他]−[VPN]とタップすると、作成したVPN接続が表示されるので、それをタップしてVPN接続を始める。
[アカウント情報を保存する]にチェックを入れてオンにすると、次回の接続から、いちいちユーザー名とパスワードを入力せずに済むので便利だ。しかし、その端末を入手すれば誰でもVPN接続に成功してしまうので、端末の取り扱いには十分に注意する必要がある。
[接続]をタップするとVPNゲートウェイへの接続が実際に始まり、成功すると画面上端の左端にVPN接続中であることを表す鍵マークのアイコンが表示される。
あとはRDCアプリを起動し、イントラネット環境の場合と同じくリモートデスクトップ接続を実行する(詳細な手順は第1回を参照)。
VPN接続には成功するのにリモートデスクトップ接続が失敗する場合は、リモートデスクトップの接続先コンピューターのホスト名(FQDN)をIPアドレスに変えてみよう。VPN接続環境によっては、リモートから社内コンピューターの名前解決ができないことがあるからだ。
VPN接続を切断するには、VPN接続の一覧画面で接続中のVPN接続をタップし、表示されたダイアログで[切断]をタップする。
続いてAndroid端末からRDゲートウェイを利用してリモートデスクトップに接続する方法を説明する。
RDゲートウェイを利用するには次の設定が必要だ。
まずはRDCアプリでRDゲートウェイに関する設定を追加する。それにはRDCアプリを起動してメニューから[Gateways]を選択し、右上の[+]をタップする。
RDゲートウェイを登録するための「Edit Gateway」画面が表示されるので、各項目をタップして適宜記入していく。[Server]にはRDゲートウェイのホスト名(FQDN)かIPアドレスを入力する。また[CREDENTIALS]には、RDゲートウェイに対する認証のためのアカウント情報を指定する。空欄のままにしておくと、接続先コンピューター(リモートデスクトップサーバー)に対して設定した認証アカウントの資格情報が、RDゲートウェイの認証にも流用される。
必要な項目を記入して右上の[DONE]をタップすれば、RDゲートウェイの登録は完了だ。
次に、登録したRDゲートウェイ経由でリモートデスクトップに接続するように設定する。まず既存のリモートデスクトップ接続の一覧から、対象の接続設定の右端にあるペンを模したアイコンをタップして設定画面を開く。ここで[Gateway]の[No gateway configured]をタップし、表示されたダイアログで先ほど登録したRDゲートウェイをタップする。
RDゲートウェイを選んだあとは、右上の[DONE]をタップすれば設定は完了だ。
ここまでの設定が完了したら、RDCアプリの接続一覧から対象のものをタップして実際に接続してみよう。RDゲートウェイの証明書に関するエラーが表示されたら、[Trust Once]あるいは[Trust Always]をタップする。
続いて接続先コンピューターの証明書に関するエラーが表示された場合は、同様に[Trust Once]あるいは[Trust Always]をタップすると、リモートデスクトップが表示されるはずだ。
RDゲートウェイやその周辺のシステムの設計にも依存するが、社外だけではなく社内ネットワークからでもRDゲートウェイ経由でのリモートデスクトップ接続は可能だ。そのため、社内/社外に関係なく同一の接続設定のままリモートデスクトップ接続ができる。
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