日常生活の中で「現金」がやりとりされる場面として代表的な「冠婚葬祭」。ウィルウェイが開発した「Our Wedding」は、特に「結婚式」における「ご祝儀」の受け渡しや管理を一括して行えるようにするサービスだ。
バックエンドには振込APIを利用しており、ご祝儀を贈る人は、金額の振り込みと合わせて動画によるお祝いのメッセージを添付できる。一方、お祝いを受ける側は、「誰からいくらもらったのか」を管理画面で一覧でき、同時に「引き出物」を誰に発送したかも管理できるようになっている。結婚式前後の忙しい時期に発生する面倒な現金の受け渡しをなくすとともに、その後のお付き合いに必要な情報管理までを効率化できる点で実用性が高いサービスといえる。
ウィルウェイによれば、このシステムは結婚式以外にも、出産などのお祝い、葬儀における香典の管理などにも応用が可能という。審査員からも「今回のプロトタイプでは、お金のやりとりに対してメッセージを付けられるようになっているが、逆にメッセージに対してお金を付けて送るという仕組みになると、応用できる範囲がさらに広がりそうだ」とのアイデアが出た。
前出の「Our Wedding」は、現金文化が根強く残っている「冠婚葬祭」のキャッシュレス化を目指したものだった。続いてプレゼンテーションを行ったチームTK-HACKの「出前Cash」は、そうした場での「現金」の必要性を認めつつ「手元に現金がなく、すぐに自分で銀行やATMに出向くこともできないけれど、急きょ現金が必要な場合、どうやって調達するか」に着目したサービスだ。
出前Cashでは、APIパートナーであるUber Japanの「Uber API」を銀行APIと組み合わせて活用。必要な現金の額を入力すると、提携しているタクシーが、その人がいるところまで現金を届けてくれる。急に現金が必要になる代表的なケースとしては、「通夜」「葬儀」への出席が考えられるが、依頼時にオプションを指定することで、現金だけではなく「香典袋」「葬儀用ネクタイ」などを同時に配達してもらうこともできる。もちろん、そのまま会場までタクシーを使って移動することも可能だ。支払に当たっては、「受取人」「配達人」の双方が承認することで、銀行口座間の振り込みが即時完了する仕組みとなっている。
開発者は「キャッシュレス化が進んでいるものの、どうしても現金でなければいけない場面は残る。完全なキャッシュレスに移行するまでの間は、このような現金文化との橋渡しのようなサービスにも需要があると考えた」とする。「出前Cash」利用者に対するタクシー利用料金の割引や、高齢者向けの買い物サービス、外貨対応による外国人向けサービスなど、ビジネス面でのさまざまな応用が考えられる作品となっていた。
ソーシャルゲームにおける「課金ガチャ」によるコレクションやキャラ育成といった要素を「貯蓄」「資産運用」につなげるという発想で作られたのが「銀コレ! 〜銀行コレクション〜」だ。
内容は、いわゆる「ソーシャルゲーム」的なものとなっており、プレーヤーは画面上に登場する銀行を擬人化したキャラクターを「育成」していく。「育成」のためには、キャラに対して「プレゼント」を貢がなければいけないのだが、その購入のための資金は「自分の銀行口座」へ振り込まれる。
開発者はこのシステムについて、「ソーシャルゲームでは、強いアイテムが手に入る課金ガチャのために貯金を切り崩すような人も多い。「銀コレ!」では、アイテムの購入金額がそのまま自分の銀行口座に送金される。プレーヤーは経済的な負担を軽減しつつゲームを楽しめ、銀行としては口座間の取引を活発化できる」と説明する。
ゲーム内の要素としては、育てた複数のキャラクターを組み合わせて進化させる「M&A」や、他のプレーヤーに対して送金することでアイテムが手に入るといったものが紹介されたが、正直なところネタ的なイメージが強く、実用性については未知数だ。とはいえ、銀行口座への預金や、他者への送金といったネット上の金融サービスに「ゲーミフィケーション」の要素を加えることで、何らかの変化を起こせるのではないかと考えさせられる点で、示唆のある作品となっていたように思う。
コンビニのレジなどに置かれている「募金箱」に、買い物の釣り銭として受け取った十数円の端額を入れた経験がある人もいるのではないだろうか。キャッシュレス化が進むことで、こうした「募金」の機会が減っていることに着目したサービスが橋本製作所による「Chocobo」だ。
「Chocobo」では、三菱東京UFJ銀行が用意している募金先の中から、自分が寄付を行いたいところを登録しておけば、給与振込日などの毎月決まった日に預金口座の「下3桁」の金額を、自動的に寄付してくれる。これにより「寄付によって社会に貢献したい思いがある人が、三日坊主にならず、継続的に寄付を行えるようサポートできる」という。
預金額の「端数」を自動的に寄付に回すことで、振り込み作業の面倒くささや心理的な抵抗感を低減するアイデアが秀逸だ。
都ドローンズによる「API MAP for Personalize」は、今回のハッカソンのために東京三菱UFJ銀行が用意したAPIの中から「支店情報API」「来店状況API」などを利用し、ユーザーがより容易に窓口やATMを見つけ、利用できるようにすることを目指したもの。
画面としては非常にシンプルで、地図上にユーザーの現在地、あるいは指定した地点周辺にある東京三菱UFJ銀行の支店、キャッシュカードが使えるATMの場所がプロットされる。支店については、その時点での「混雑状況」も同時に表示される。「ぐるなびAPI」を使って、周囲にある飲食店舗やホテルなどの情報もプロットできるようになっている。
このサービスを開発した動機としては、銀行の窓口が混雑することによる利便性の低下や、銀行のサイトにATM検索サービスが存在するにもかかわらず、結果が住所の羅列になってしまっており、非常に見づらいといった感想を持ったことがあるという。
今回用意された来店状況APIでは、特定の支店における混雑状況のみしか取得できなかったが、今後より多くの支店やATMの混雑状況を時系列で可視化できるようになれば、ユーザーの利便性は大きく向上する可能性が高い。開発者は「情報が見やすく提示されることで、結果的にCS(顧客満足)やES(従業員満足)の向上につながるのではないか」と指摘した。
個人間でのお金の「貸し借り」や「投資」を、インターネット上のソーシャルグラフを活用することで、より手軽に行えるようにならないだろうかという発想によるサービス。
お金の貸し借りにおいて、最も難しいのは、貸す相手の経済的な「信用」をどう判断するかという点になる。このプロトタイプでは、銀行が持っている与信情報に加えて、Facebookのソーシャルグラフにおけるつながりを信用情報の一部として活用。お金を貸したい人は、借りたい人にソーシャルグラフ上での知人がどれだけいるか、知人の信用度はどの程度かといったことを判断基準に、融資額などを決定できるという。
もちろん「ソーシャルグラフ」上のどのような情報を根拠に「信用」を計るかについては、さまざまな課題がある。加えて、こうしたスキームで融資を行う場合、貸し倒れのリスクを下げるための適切な利率がどの程度かについての議論も必要となるだろう。海外では先行している事例もあるといい、今後、こうした個人を対象としたソーシャルレンディングに対するニーズが日本でも拡大することを予感させる発表となった。
全12チームによるプレゼンテーションの後、審査結果が発表された。
最優秀賞を獲得したのは「Petty Pay」で、事業報奨金100万円が進呈された。プレゼンテーションを通じて「これは使ってみたい」と思える利便性を強くアピールできた点が評価されたという。
優秀賞(事業報奨金各10万円)は、「CHECK」のフタクセと、「Chocobo」の橋本製作所の2チームに贈られた。「CHECK」はサービスの開発に当たってきちんとユーザーヒアリングが行われていた点、「Chocobo」はデジタルペイメントが進む中で「募金」の機会が減っているのではないかという着眼点と、その問題を技術で解決しようという発想が評価されての受賞となった。
開発に当たって「銀行API」に対するフィードバックが質量ともに充実していたチームに贈られる「フィードバック賞」は、ウィルウェイが受賞。各APIパートナーによって選出された「パートナー賞」の受賞チームは以下の通りとなった。
審査員からは、「銀行APIから想像以上に多様なサービスのアイデアが生まれ、全体的なクオリティーは高かった」との評価が述べられた。
「これまで、この分野でのサービスには、FinTechというよりはSaaSのようなものが多いような印象があったが、今回のコンテストでは新たなアイデアが数多く出てきた。こうしたものをより多く世に出すことで、法律の整備なども含めて状況が変わっていくことを期待している」(池田氏)
日本の銀行によるアプリケーション開発者向けのAPI提供は、まだ一部でスタートしたばかりという状況にある。今回のハッカソンで使われた「銀行API」も、参加者向けの限定公開となっている。審査員の増井氏は「今回、結構面白いものが多く出てきたが、残念なのは、これらをまだ世に出せないこと。ぜひ、参加者も含めて引き続き東京三菱UFJ銀行に(API公開の)プレッシャーをかけ続けていこう」と述べて会場を沸かせた。
「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を足した造語である「FinTech」。その旗印の下、IT技術によって金融に関わるさまざまな業務や処理を利便化し、ビジネスの拡大を図る動きが国内金融業界から大きな注目を浴びている。大手銀行からスタートアップまで「FinTech」という言葉を用い、新しいビジネスを展開するニュースが相次いでいる。言葉が氾濫する一方で、必要な技術について理解し、どのように生かすべきか戦略を立てられている企業は、まだ多くないのではないだろうか。本特集では金融業界がFinTechでビジネスを拡大するために必要な技術要件を浮き彫りにし、一つ一つ解説していく。
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