アドビがInVisionを買収せずに、競合となるUXプロトタイピングツールを作った狙いとはAdobe XD開発担当者に聞く(1/2 ページ)

UXプロトタイピングでは、既に複数のツールが市場に存在し、現場で利用しているユーザーも多い。そうした中、Adobe XDを提供する目的は何か。また、正式リリースに向けて、どのような機能強化が予定されているのか。

» 2016年04月28日 05時00分 公開
[柴田克己@IT]

 アドビ システムズ(以下、アドビ)は2016年3月14日(米国時間)、プロトタイピングツール「Adobe Experience Design CC」(以下、XD)のプレビュー版をリリースした。同ツールは、2015年の「Adobe MAX」(以下、MAX)において「Project Comet」の名称で発表されていたもの。現在は、Mac(OS X)のみに対応しているが、今後Windows 10版もリリース予定という。

 ユーザーエクスペリエンス(UX)のプロトタイピングツールとしては、既に複数のツールが市場に存在し、現場で利用しているユーザーも多い。そうした状況の中、同社が「Adobe XD」を提供する目的は何か。また、正式リリースに向けて、どのような機能強化が予定されているのか。

 来日したアドビのUXデザイン製品管理担当ディレクターであるAndrew Shorten氏と、Adobe XDリードデザイナーのTalin Wadsworth氏に話を聞いた。聞き手は、Webコンテンツやスマートデバイス向けアプリの制作を手掛け、@ITにもMAXのイベントレポートや、製品や技術に関する数多くの寄稿を行っているhatteの岡本伸吾氏と@IT編集部だ。

UXデザイナーの負荷が急激に高まっている

――まずは、今回プレビュー版がリリースされたXDについて、開発の狙いや、どのような課題を解決するためのツールなのかを教えてください。

アドビ システムズ UXデザイン製品管理担当ディレクター Andrew Shorten氏

Shorten氏 XDの開発がスタートしたのは、1年半ほど前、2014年のことになります。問題意識としては、コンテンツの制作において、現在はターゲットとなるデバイスやプラットフォームが複数存在し、デザイナーの負荷が急激に高まっている状況があります。

 現在、UX構築を行うデザイナーは、狭義のデザインだけではなく、ワイヤフレームの作成から、インタラクティブ要素やアニメーションまで、非常に多くの作業を受け持っています。そうした状況の中で、デザイナーが開発者やディレクターとコミュニケーションを行うための「プロトタイプ」の作成には、多くの時間と手間が掛かっています。作業を効率化するためのツールは幾つかあるものの、現実的には複数のツールを組み合わせて、使い分けているような状況です。

 XDは、「プロトタイピング」「デザイン」「シェア」の機能を統合することで、デザイナーがイメージしたものを迅速にプロトタイプ化し、共有するためのツールとして開発を進めています。社内でのテストやユーザースタディーを通じてツール化したものを「Project Comet」として発表した後に、約5000人のUXデザイナーに向けたクローズドなプレリリースを行い、そのフィードバックを受けてプライオリティの高い機能から実装する作業を続けてきました。

――プレビュー版を公開してからのユーザーの反応はどのようなものでしたか。

Shorten氏 MAXで発表してから今までの間に、約60万近くダウンロードされました。特に3月14日にパブリックプレビュー版を公開した直後には、14万のダウンロードがあり、直後にTwitterでトレンド入りするなど、非常に大きな反応がありました。

 パブリックプレビュー版は、より多くのユーザーからのフィードバックを得るため、「デザイン」「プロトタイピング」「シェア」の基本的な機能が実装できた段階で公開したのですが、2週間ほどで500個ほどの機能追加のリクエストがありました。現在、そのリクエストに優先順位を付けて、どのように対応していくかを検討している段階です。

 既にCreative Cloudのユーザーコミュニティーである「Behance」にも、XDによる作品が見られるようになりました。また、今回の来日では、日本語のコンテンツをXD上でハンドリングしている企業にも出会えました。XDについては、ユーザーインタフェース部分の日本語化がまだなのですが、既にかなり使いこなしてくれているようで、うれしく思います。

Behanceで「AdobeXD」で検索した結果

Adobe XDは、デバイスへ展開するデザインワークの中心になる

――XDで、実際のプロダクト制作を行う場合、どのようなプロセスを想定しているのでしょうか。

Shorten氏 UXデザイナーにとって、XDは全ての作業の「中心」に位置する製品になると考えています。例えば、プロトタイプの作成にビットマップやベクターのグラフィックを使うのであれば、PhotoshopやIllustratorでそれを作り、XD上で組み上げることになるでしょう。また、iOSデバイス向けに提供している「Adobe Comp CC」(以下、Comp)でワイヤフレームを作って、それをXDに持ってきて作業したり、シェアしたりといった使い方も考えられます。

 現在のプレビュー版では、他の製品との直接の連携機能が実装されていないのですが、近々、他のツールのアセットを、ライブラリを通じてXD上に持ってこられるようにする予定です。

――今「Comp」の名前が出てきましたが、XDはCompとは競合しないのでしょうか?

Shorten氏 Compは、デザイナーが印刷メディアのデザインカンプを迅速に作るためのツールです。Compで作ったカンプは、IllustratorやInDesignなどに持っていって作業することを想定していましたが、もしデバイスへの展開を行うための素材であれば、今後はXDを使う形が中心になると思っています。使い分けとしては、印刷メディア向けのデザインカンプはCompで、デバイス向けのプロトタイピングはXDで行うといったイメージです。

――先ほど、「他のCCツールで作った素材をXDで読み込む」という制作フローを伺いましたが、逆に、XDで作ったものをPhotoshopやDreamweaverに持っていってHTMLに仕上げる制作フローは想定していないのでしょうか。

Shorten氏 現状では考えていません。XDは、基本的に他のツールで作ったアセットを読み込んでオーサリングするためのツールです。もっとも将来的には、スニペットのような形で書き出せるようにすることもあり得ますが、開発者からの意見を聞く限り、XDからコードを書き出せるようにすることには、あまりニーズがないようです。

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