では今後、NECはさらなるAI技術の活用に向けてどのようなことを考えているのか。山田氏は図3を示しながら次のように説明した。
「AI技術の方向性として、青色の矢印がまさしく今取り組んでいるプロセスを描いたものだ。ゴールが定まった問題に対して、AIを活用することで圧倒的な効率化を目指している。それとともに、赤色の矢印が示す、“ゴールが1つに定まらない問題”に対しても、多様な視点から考える能力を高めて知性のレベルにまで高度化を図る。それが、人とAIが協調するということだと考えている」
この図3では、横軸で表されたデータ処理の流れとともに、縦軸にあるデータの変化に注目してもらいたい。この意味とNECの取り組みについては、2015年11月に遠藤信博会長(当時、社長)が自社イベントの基調講演で語った内容が非常に印象深かったので、以下に記しておきたい。
「多種多様な“データ”をたくさん集めて分類すると、“情報”になる。その情報を分析すれば、“知識”になる。知識によって、情報のさまざまな因果関係を見いだすことができる。そして、これまで分からなかったことが分かるようになってくる。この知識を活用することがAIの最初の段階である。機械学習の技術などによって、今、まさにそれが実現できるようになってきている」
さらに同氏はこう続けた。
「知識に対応するところまで発展してきたAIを、最終的には“知性”の領域にまで近づけたい。ただし、知性は人間特有のもの。知識を向上させるだけでなく、倫理観も必要なことから、AIが知性を持つまでにはまだ高いハードルがある。そこで、知識の分析力を磨くことで予測の確度を高め、人間がさまざまな判断を行う際に的確な知識を提示できるようにしていきたい。それがひいては、知性の領域に近づくAIの実現につながると私たちは考えている」
NECのAI技術への取り組みは、この考え方がベースになっている。
では、IT担当者、技術者、そしてトップ層は、AIについてどう考えていくべきか。
山田氏は、「AIは現在、ICTの中でも何か特別な技術のように受け止められがちだ。しかし私は、以前からIT部門に対して言われている“システムの最適化”が、実はAIの本質だと考えている。従って、AIは今後さまざまなシステムに組み込まれていく技術であり、そして、特別に構えることなく向き合えばいいと思う。当社のAI技術が多くの皆さんに注目され、必要とされ、活用していただけるように今後も尽力していきたい」と語った。
山田氏の見解に全く同感である。筆者もAIはICTの進化における必然の方向だと考える。だからこそ、現在のところ米国勢がリードしていると言われるこの分野で、日本勢も世界で活躍する企業や研究機関がどんどん出現してほしい。NECにはぜひその先陣を切ってもらいたいものである。
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。Facebook
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