米国勢がリードしていると言われるAI(人工知能)分野で、画像認識技術などに強みを持つNECが世界市場での躍進を虎視眈々(たんたん)と狙っている。果たして同社のAI技術は世界に通用するか。
近年、さまざまな技術トレンドが注目され、ニュースとして盛んに取り上げられています。それらは社会、企業に対してどのようなインパクトを及ぼすのでしょう。ベンダーを中心としたプレーヤーたちは何を狙いとしているのでしょう。
それらのニュースから一歩踏み込んで、キーワードの“真相”と“裏側”を聞き出す本連載。今回は「NECのAI技術」を取り上げます。
「NECが取り組んでいる人工知能(AI)技術は、社会の基盤となっているシステムの効率的な運用を、とことん突き詰めることを目的としている。この領域において効果的な最先端技術を幾つも提供しており、実は既に皆さんも利用していただいている。こうした社会システム向けに特化した取り組みは当社ならではと自負しており、当社のAI技術は世界に十分通用すると確信している」
表題の疑問にこう答えてくれたのは、NECでAI技術の研究開発を推進しているNEC データサイエンス研究所の所長を務める山田昭雄氏だ。今回は、2016年5月現在、特にホットな話題となっているAI分野において、世界ナンバーワン、あるいはオンリーワンの技術を幾つも保持しているとうたう同社の取り組みに着目した。
NECはAIを「学習、認識・理解、予測・推論、計画・最適化といった、人間の知的活動をコンピュータで実現する技術」と捉え、1980年代から関連技術の研究開発を進めてきたという。同社ではそうした人間の知的活動におけるデータ処理の流れから、「見える化」「分析」「制御・誘導」に分類し、それぞれの段階で最先端技術を生み出してきた。
代表的な技術を挙げると、見える化の領域では、画像や影像から誰かを識別する「顔認証」、解像度の粗い画像を高解像度化する「学習型超解像」、群衆の映像から混雑状況を把握して異変を検知する「群衆行動解析」、物体の表面にある微細な紋様の違いから個体を識別する「物体指紋」、構造物表面を撮った動画から内部の劣化状態を推定する「光学振動解析」などがある。
また、分析の領域では、普段と違う振る舞いからシステムの異常の予兆を検知する「インバリアント分析」、ビッグデータに混在する規則性を自動で発見する「異種混合学習」、2つの文が同じ意味を含むかどうかを判定する「テキスト含意認識」、ディープラーニング(深層学習)により自動的にビッグデータとして得られるデータの傾向を学習していく「RAPID機械学習」、大量の映像データから特定のパターンに合致するデータを高速で抽出する「時空間データ横断プロファイリング」などがある。
同様に、制御・誘導の領域では、事前の想定が困難な環境変化に適応して人や物を最適に配置・配分する「自律適応制御」、分析・予測に基づいた判断や計画を最適化する「予測型意思決定最適化」がある。
図1がそれらを一覧にしたものだが、その大半がナンバーワンあるいはオンリーワンの技術となっている。しかも山田氏によると、「“見える化”もさることながら、分析や制御・誘導も、すなわち、分析して予測を行い、方向性を示す領域までナンバーワンあるいはオンリーワンの技術を取りそろえているのもNECの大きな強みだ」という。
AI分野におけるNECのもう1つの大きな特徴は、山田氏の冒頭のコメントにもあるように、社会システム向けに特化してそれらの技術を生み出していることである。図2に示したのが、同社のAI技術を活用したソリューションの数々である。
4つに分けられたソリューション分野において、「パブリックセーフティ」と「インフラ/プラント・マネジメント」はまさしく社会システムのものであることは分かるだろう。それに加えて、「マーケティング」や「オペレーション変革」も社会システムを構成する企業のインフラを成すというのが、同社の考え方だ。
そして山田氏が強調していたのは、「NECのAI技術は、既に幾つもの導入実績がある」ということだ。例えば、同社の顔認証技術を用いた「犯罪者の入国防止システム」、光学振動解析技術を用いた「橋梁の劣化検査システム」、インバリアント分析技術を用いた「プラント故障予兆検知システム」、異種混合学習技術を用いた「電力需要予測システム」などは、それぞれで導入効果を上げている。直近では、群衆行動解析技術が「G7伊勢志摩サミットの警備システム」に適用されて注目を集めた。
それにしても、NECはなぜ世界ナンバーワンあるいはオンリーワンのAI技術を幾つも生み出すことができたのか。山田氏によると、「それは特徴の裏返しで、社会システム向けに特化した技術開発に注力してきたからだといえる。特化することで独自技術をいち早く生み出せるようになる他に、競合他社が手掛けていない社会システムの案件に携わるケースが増えて実績を積み重ねることができた。その好循環が生まれ、優秀な研究開発の人材も集まるようになった」という。「この戦略は正しいと確信している」と同氏は力を込めて語った。
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