まず、[2]のオペレーションでは、内部的に承認要求を受けた企業および学校ユーザーが経歴データをデジタル作品として登録(Register Piece)し、そのデジタル作品の所有権を求職者に譲渡(Transfer Edition)します。
実際にこのオペレーション実行後、企業および学校のアカウントで自身の保持しているPieceの一覧や、求職者のアカウントで自身の保持しているEditionの一覧を確認すると、ブロックチェーン上に幾つかのトランザクションが発行されていました。
[2]のオペレーション行われた処理で発行されたトランザクションについて、ビットコインのアドレス情報や、ブロックチェーンのトランザクションの詳細情報を見ることができる「Blocktrail」というサイトを使い、中身を確認しました。
なお、上記3本以外にも幾つかありましたが、今回は割愛しています。
トランザクションの中身を簡単にまとめると(当然、ブロックチェーンであるため今からでも上記リンクは確認可能です)、下記のようになります。
トランザクションNo. | 送金元アドレス | 送金先アドレス | OP_RETURNの値 | 手数料 | 送金額 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 1AScRh…… | 1NCkPZ…… | ASCRIBESPOOL01REGISTER1 | 0.0003BTC | 0.00003BTC |
1AScRh…… | 1EEJRL…… | - | - | 0.00003BTC | |
1AScRh…… | 1Gjyx7…… | - | - | 0.00003BTC | |
2 | 1AScRh…… | 1Gjyx7…… | ASCRIBESPOOL01FUEL | 0.0003BTC | 0.00036BTC |
3 | 1Gjyx7…… | 1NCkPZ…… | ASCRIBESPOOL01TRANSFER1 | 0.0003BTC | 0.00003BTC |
1Gjyx7…… | 1D4j8k…… | - | - | 0.00003BTC | |
これらを実際に行った操作と対応させて読み解いていくと、下記のように読み解けます。
続けて、[3]の経歴情報を公開するオペレーションを実行した際の結果を見ていきます。
ここでは、求職者が承認済みの経歴を就職希望先の企業に対して公開する際ascribeのAPI「Loan an Edition」を実行しています。
ここで見られたトランザクションは以下になります。
トランザクションの中身を簡単にまとめると、下記のようになります。
トランザクションNo. | 送金元アドレス | 送金先アドレス | OP_RETURNの値 | 手数料 | 送金額 |
---|---|---|---|---|---|
4 | 1AScRh…… | 1D4j8k…… | ASCRIBESPOOL01FUEL | 0.0003BTC | 0.00036BTC |
5 | 1D4j8k…… | 1NCkPZ…… | ASCRIBESPOOL01LOAN1/160413160415 | 0.0003BTC | 0.00003BTC |
1D4j8k…… | 1Cisz3…… | - | - | 0.00003BTC | |
この、LOANのオペレーションで出てきたトランザクションの内容は下記のように読み解けます。
このように、ascribeのAPIでは、ビットコインアドレス間の送金とOP_RETURNの内容の組み合わせ、さらにビットコインアドレスとデジタル作品を内部的にひも付けることによって、デジタル作品の所有権の譲渡、および貸与のオペレーション内容をブロックチェーンのトランザクション上で非常にうまく表現できています(なお、このマッピングは同社から「SPOOL」という名前のオープンソースソフトウェア(OSS)のプロトコルとして公開されています。詳細はリンクをご参照ください)。
その他、ブロックチェーンのトランザクションを発行するごとに、ビットコイン(後発のオペレーションを行うときに必要となるもの)をFederation Walletから送金してチャージすることを知りました。
さらに、デジタル作品のハッシュをビットコインのアドレスとして発行し、そこに送金するトランザクションをブロックチェーン上に残すことで「証跡」とする(改ざんの防止)といった、まさに「分散台帳」としてブロックチェーンを利用する際に必要となる設計について、具体的実装を通して知ることができました。
今回の検証では、幾つかの前提を元に、「求職者の学歴や職歴などの履歴データが、改ざんされていない保証がある中、希望先企業へ開示する」という履歴書データベースの基本機能が実現できることを確認しました(幾つかAPIのバグや機能不足がありましたが、都度ascribeと相談しながら解決できました)。
一方システムアーキテクチャの観点でいいますと、証跡情報はブロックチェーンに記録されているものの、その他のシステムパーツ(求職者、および企業のユーザーデータ、卒業証明用の画像データ、および各アプリケーションのロジック)は既存のWebサイトを構成する仕組みとほぼ同じです。ローカルのデータベースやAmazon S3へ記録しているため、ブロックチェーンの特徴たる分散性は、ほぼ実現されていません。
つまり、このままでは「履歴書データベースが稼働しているサーバやascribeのAPIサーバがダウンする」「ascribeがサービスを廃止した段階で履歴書データベースが使えなくなってしまう」という問題があります。
次回は、ビットコインの仕組みにより近づけていく(分散性をさらに高める)方向性で、「APIを提供しているascribeが力を入れてOSSとして開発しているブロックチェーンデータベース、およびBigchainDBを使った仕組みに関する検証」について説明する予定です。
リクルートテクノロジーズ ITソリューション統括部 アドバンスドテクノロジーラボ
シニアリサーチエンジニア。リクルートテクノロジーズの技術開拓&検証機関であるATLで、主に欧州、イスラエルのテクノロジースタートアップとの提携および共同開発を推進中。
これまでに日本では検索エンジン(Apache Solr)やビッグデータ処理(Hadoop)などでの共著、ベルリンでは某スタートアップハブ、イスラエルではテクニオン大学でのメンタリングなど、積極的な対外活動を行う。
現在、技術カテゴリとしてはブロックチェーンにフォーカス。
Curious Vehicle プリンシパルエンジニア
ATLには2016年初頭から参画し、ブロックチェーン技術を中心としたR&Dに従事。
過去にはC、java、PHPなどで大規模Webアプリケーションの開発をする傍ら、ミドルウェアの使いこなしを得意とし検索エンジンSolrの解析や機能開発、コンサルティングなどを行ってきた。
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