アップルの黎明期をスティーブ・ジョブズと共に作り、今なお、若いエンジニアたちを支援するIT業界の巨人、ジョン・スカリーが考える「世界の変え方」とは――。
アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広が、グローバルを股に掛けたキャリアを築いてきたIT業界の先輩にお話を伺うインタビューシリーズ。第12回はPepsiCo(ペプシ・コーラ)のCEO在任中にスティーブ・ジョブズに引き抜かれ、米Apple(アップル)のCEOを務めたJohn Sculley氏にご登場いただく。実は2人は、25年前にアップルで上司・部下の関係だったのだ。
今回はSculley氏に、米国でベストセラーになった新著「Moonshot! - 世界を変えるビジネスはこうつくる!」(パブラボ刊)に書かれた、自身のシリコンバレーでの経験、テクノロジーの進化やこれからの「起業」に対する考えなどをうかがった。
阿部川“Go”久広(以降、阿部川) お会いしたら1番にお聞きしようと思っていたことがあって。ズバリ、アップルの10年間で学ばれたことは何ですか?
John Sculley(ジョン・スカリー:以降、スカリー氏) 「起業においては、その会社の基盤ともいうべき『ビジョン』がどれほど力を発揮するか」ということでしょうか。
スティーブ・ジョブズからアップルへ入るよう請われたとき、彼は「僕は、テクノロジーを知らない多くの人々に向けて、コンピュータを作りたいと思っている。そしてそれができれば、テクノロジー業界全体が今までとは全く違う方向へ進むことになると思う」と語りました。初代のMacintoshを発表する前の話です。
そのころから既に、彼はコンピュータに対して確固としたビジョンを持っていて、それは、それまで誰も想像したことのない未来への方向性を持ったものでした。そして私に向かって「でもどうやったらそれができるかは、あなたから学ばないと分からない」と言ったのです。「私はコンピュータのことは何も知らないよ」と答えると、「あなたはマーケティングを知っている」と。
当時の私はシリコンバレーでも数少ない消費者マーケティングの専門家でした。私がマーケティングで学んだことは、人々が思ったこと、あるいはしっかり認識したことが、現実を作り出すということ。そこでスティーブにこう伝えたのです。「君が作ろうとしているコンピュータが本当に現実のものだとすれば、私はそれを人々が認識するように手伝うことはできるよ」と。
阿部川 なるほど。
スカリー氏 スティーブは、製品についても決して妥協を許しませんでした。初代Macintoshを発表する1週間前のことです。彼は「内蔵されているマザーボードが十分に美しくない」と言い出しました。
しかし彼のイメージ通りのマザーボードを筐体に入れることは、当時は特別なやり方でないと無理だった。急な変更に「どうして? コンピュータケースの中身のことなんて、誰にも分かりはしないよ」というエンジニアにスティーブはこう言ったのです。
「僕が、分かっている」と。
今でもこの会話のことは鮮明に覚えています。製品には妥協しない、というスティーブの信念を象徴するものでしたから。彼が掲げた理念は、アップルの中に脈々と息づいています。アップルは常に、市場に先駆けて革新的なかつベストな製品を創り出している。これこそが、私がアップルで学んだ1番大切なことです。
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