まず、判例を見ていただこう。
ソフトウェア開発会社のシステムエンジニアで、金融機関のシステム開発に従事していたAさんが脳幹部出血により死亡した(当時33歳)。Aさんの妻らは、その死亡原因は社が強いた過重労働にあるとして損害賠償を求める裁判を起こした。Aさんは入社以来、平均して年間約3000時間、多い年では年間3600時間近く労働を行い、ある時期からはプロジェクトマネジャーとしての重責も担っていた。
特に、プロジェクトリーダーに就任してから死亡するまでの約1年間は、時間的に著しく過大な労働量を強いられたのみならず、極めて困難な内容の本件プロジェクトの実質的責任者としてスケジュール順守を求める顧客企業と、増員や負担軽減を求める協力会社のシステムエンジニアらの、双方からの要求および苦情の標的となり、いわば板挾みの状態になって疲労困憊(こんぱい)していた。
技術的な問題や不測の事態に直面し、プロジェクトが遅れ、顧客に責められ、自分も部下も深夜残業や休日出勤を繰り返す。一方、協力会社からは「作業時間が長過ぎる」とクレームがつき、最悪の場合はメンバーを引き上げられてしまう。上司に相談しても抜本的な解決策はない。もしくは、そもそも相談もできず1人で苦しむ――同じような経験を何度となくしてきた私には身につまされるような判例だ。人ごとと思えない読者も少なくないと思う。
裁判の結果は、改めて申し上げるまでもなく過労死が認められた。裁判所が特に厳しく糾弾したのは、ソフトウェア開発会社の「無策」であった。
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