再開されたデモシステム作りは、想像した以上に負荷の高いものになった。見だしに使用する語句や時事ニュースの数はこれまでの十倍以上に及び、レイアウトの作成機能も既存のレイアウトから選ぶのではなく、AIが判断して作成する方式に変えた。開発作業はセールス中にもかかわらず5カ月にも及んだ。
2017年6月――。
「カラーの広告も作るんですか?」
季節が初夏を超え、梅雨に入ろうとするころ、生駒の要望を聞いた日高が目を丸くした。
「ええ。やはりデモは見た目が大切じゃないですか。クリエーターたちに『前回とは違う』ことをハッキリ分からせるためにも、そこはぜひ。それと、オペレーターがパラメーターを入れる画面も本番同様にWebベースのしっかりしたものにしてください」
日高は息を飲んだ。これでは本番開発を行うのと変わらない。これまでに投入したシステムエンジニアの工数は、すでに20人月に達し、セールスの範囲を大幅に超えている。マッキンリーの技術部門からは、「いいかげんにしてくれ」というクレームが上がり、日高の上司からも、作業を心配するメールや電話が何度も寄せられていた。
それでも、「ここまでの費用は、正式受注後には回収できる」と周囲を説得し、終わりの見えない作業に疲れたメンバーたちを鼓舞して作業の継続を命じてきたのだ。
「さすがに、これ以上は……」
言葉に詰まる日高に、生駒が少し口元を柔らげて言った。
「実はですね。この自動広告作成システムの導入、もう本決まりになりそうなんです」
「本当ですか!」
日高は思わず声を高くした。
「ええ。チラシ作成の自動化は経営上も必須だということが、役員たちにも浸透してきましてね。後は形式的な稟議だけなんですよ」
「それは……」日高は目の周りが熱くなるのを感じた。ようやく、これまでの苦労が報われる。技術部門にも上司にも胸を張って報告できるし、担当したエンジニアたちもきっと喜んでくれるだろう。
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