とは言うものの閉域モバイル・スマホ内線は4年前のアイデアだ。既に「内線電話」という概念自体が時代遅れである。
そもそも内線電話には2つの目的があった。1つは拠点に引き込まれている限られた本数の電話回線を構内の多数の電話機で効率的に使うこと。構内電話交換機(PBX)に電話回線を収容し、多数の電話機を接続する。もう1つは構内の電話を短い内線番号で済ませられることだ。
IP電話とスマートフォンの時代になってこのような目的はほとんど意味がなくなった。物理的に複数の電話回線を引く必要はなく、1本の回線に数百の電話番号を割り当てることが可能になった。電話はIPルーティングで接続するものであり、構内電話交換機は不要になった。外部の回線を収容する装置の他、電話番号とIPアドレスを対応付けるサーバがあればよい。電話機がどれほど多くてもサーバはイーサネット1本でネットワークに接続すればよく、構内電話交換機のように電話機の台数分のポートを持つ必要がない。
ダイヤルという動作自体がまれになり、スマートフォンの電話帳や履歴をタップするだけなので電話番号の長い短いは操作性に関係なくなった。
一方、コミュニケーションサービスで最近めざましく進歩したのがビデオ会議だ。筆者はZoom Video Communicationsの「Zoom」を愛用している(関連記事)。PC、スマホ、タブレットと端末を選ばず、簡単なユーザーインタフェースで高音質のビデオ会議や音声会議ができる。かつてはiPhoneのスピーカーモードで電話会議をよく開いていた。しかし、音質が悪く、長い打ち合わせではストレスになる。Zoomはコーデックやエコーキャンセラーの性能が良く、帯域幅の限られるモバイル回線でも十分な音質が得られる。
Zoomの画面にはマイクとカメラのアイコンが表示されており、マイクとカメラの両方を生かしてビデオ会議もできれば、マイクだけで音声会議もできる。1対1の音声会議は電話である。そう、「電話はビデオ会議サービスの一部」なのだ。ビデオ会議サービスがコミュニケーションサービス全体であり、必要に応じて多対多のビデオ会議や音声会議、1対1の電話、チャットが使えるようになるのが理想である。
このような脱・内線電話で実現するコミュニケーションサービスを「スマートコミュニケーション」と呼ぶとすると、図3のようなイメージになる。
社内だけでなく国内外のパートナーまで含めて、効率的で効果的なコミュニケーションを実現するのがコラボレーション・グループ、電話しか使えない社外の通信相手がレガシー・グループである。
コラボレーション・グループの端末で社外からの電話の着信が必要なものにはIP電話用の電話番号である050番号を付与する。050番号は通信事業者から必要数購入する。通信事業者からコミュニケーションサービス・クラウドに回線を引き込み、その回線で050番号を付与した端末に外部からの電話が着信する。外部への発信もこの回線を使う。
050番号はスマートフォンに付与することが多いだろう。そのスマートフォンには090/080といった携帯電話の番号はいらない。050はIP電話なのでパケット通信さえ使えればよい。
050番号は海外拠点でも使える。社内外にかかわらず、日本国内の端末と電話の発着信ができる。注意が必要なのは海外拠点から同じ国の電話に発信するときだ。050番号を提供している日本の通信事業者経由で海外の電話につながるので国際電話になってしまう。海外で050番号を使うときは国際電話を禁止にしておくのが安全だ。
外部からの電話着信がないPCなどはメールアドレスをエイリアスとして使う。テレビ会議や電話会議の相手をメールアドレスで指定するのだ。
スマートコミュニケーションに加えて、Slackのようなプロジェクト支援サービスを併用すると効果的な情報共有や進捗(しんちょく)管理ができ一層の生産性向上を図ることができる。
内線番号を止め、構内電話交換機を捨て、固定電話機をなくして大胆なコミュニケーションの革新を進めたいものだ。
松田次博(まつだ つぐひろ)
情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。
IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。『自分主義-営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(日経BP社刊)『ネットワークエンジニアの心得帳』(同)はじめ多数の著書がある。
東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECセキュリティ・ネットワーク事業部主席技術主幹。
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