脱日本を目指すITエンジニアから、「シリコンバレーで働くのには、TOEIC何点くらい必要ですか」と聞かれたことが今までに何度もありました。
しかしこの質問、意外と難しいんです。「500点くらいでも何とかなる」という意見もあれば、「満点を取ってもビジネスで満足にコミュニケーションするにはまだ足りない」という意見もあります。私にはその両方が何となく分かります。つまり単純に点数だけでどうこういえるものではなく、実際に働く職場の環境によって、どれくらいの、どのような英語力が必要とされるかは全く異なるということです。
私が初めてTOEICを受験したのは、20代のころ。会社の会議室で受験した団体試験で、ちょうど500点くらいでした。その後、仕事で英語を使う機会があったり、英会話教室に通ったり、英語を使う機会があり、少しずつ伸びて、渡米前には900点を超えることができました。
英語力の物差しとしてはTOEICのようなテストの点数が分かりやすく、実際、最低500点くらいは欲しいところです。
しかしよく言われるように、TOEICの点数だけで業務、特にITエンジニアとしての英語力を計るのは無理があります。実際に職場で必要な英語力は、TOEICの点数だけでは単純に図れないものです。
職場で求められる英語力は、政治家の秘書や新聞記者のように頻繁に人とコミュニケーションを取らなければならない仕事と、1日のほとんどの時間をモニターの前で過ごすITエンジニアとではだいぶ違います。ITエンジニアに日常の業務で求められる英語力は、それほど難しいものではありません。
ITエンジニアが英語を使う機会は、開発しているソフトウェアの仕様書やドキュメントの読み書き、同僚とのメールやチャット、開発チームでのミーティングの席で仕様や設計についてのディスカッション、がほとんどだと思います。
ITエンジニアに英語力そのものは、あまり必要ありません。むしろ重要なのは、今、目の前にあるソフトウェアに不足する機能について提案するとか、どのような不具合が発生しているか的確に報告するとか、どういった対策が必要か議論する、といった力のはずです。英語学習に時間を割くくらいなら、技術力を磨くために時間を使った方がいい。
そもそもシリコンバレーにいるITエンジニアは、中国系や、英語以外が母国語の人が多数を占めています。こういったいわゆる「非ネイティブ」は、必ずしも英語が得意ではない代わりに、英語でソフトウェアの仕様や問題点について議論する、という訓練や経験はたっぷりと積んできています。そこで対等に技術的に議論できることこそが重要です。
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