そうはいっても、限度があります。英語が全く分からない、コミュニケーションが取れないとなると、仕事に差し障りが生じます。
基本的な英語力を伸ばしつつ、技術的な議論もできるようにならなければならない、一番の近道は「英語で仕事をする」ことです。
第一段階として、「メールで仕事できる」ことを目指しましょう。
メールなら発音を気にすることもなく、相手の発言を聞き逃すこともありません。単語の意味が分からなければゆっくり辞書を引きながら、自分のペースで読み書きできます。まずは、朝、出社したときに海外支社から届いたメールの内容を正確に理解し、落ち着いて、相手の朝までに、相手が理解できる返信を送り、業務が進められることを目指しましょう。
メールする相手がいなければ、業務で使いそうなソフトウェアや測定器の会社に技術的な質問をしてみましょう。きっと返事をくれるはずです。まず、こうして仕事で使う英単語の量を増やし、ビジネス表現に慣れましょう。「Stack Overflow」のようなコミュニティーサイトで質問したり、積極的に質問に答えてあげたりするのもいいと思います。
次は、同僚とチャットできるようになりましょう。
チャットも文字ベースですから発音やヒアリングの心配はありませんが、会話は自然な速度で進行していきます。さらにいったん送った文章を修正することはできません。チャットの訓練を積むことで速度に慣れ、会話力の強化につながります。
日本と米国で仕事をすると、どうしても時差があるのでメールは1日に1往復になって業務効率が極端に落ちます。日本の朝9時はシリコンバレーの夕方4時です。朝イチ出社して退社直前のシリコンバレー社員をチャットで捕まえて、メールでは話しにくい内容をチャットで片付けてしまいましょう。
その他にも地道に英語力を鍛えるチャンスはいくらでもあります。普段、職場で日本語で会議をしているときに、「これを英語で言ったらどうなるんだろう」と考える訓練を繰り返すのもいいでしょう。慣れてくれば、英語力だけでなく、英語で物事を考えたり、プレゼンしたりするときに、日本人と日本語で話すように簡単には進められないことに気付くこともあると思います。
一般的な日本人にとって、英語は読み書きの方が得意で、聞き取りや発音の方が不得意だといわれています。
つまり業務では、メールやチャットの方が得意で、直接会って話す方が難しいのです。さらに電話となると相手が喜んでいるのか怒っているのかも分からず、身振り手振りも使えないので、最も難しいといえます。
さらに難易度が高いのが「会議」です。特に相手の表情が見えない電話会議は難関中の難関です。
全員が日本人の会議で日本語で議論するときは、全員が日本人の常識の上で話をするので、当たり前のことは通過していきなり微妙な議論になっていることが、ままあります。
しかし、多国籍の、しかも英語がネイティブではない社員が集まって、仕方なく英語で議論するときには、必ずしも全員が同じ常識を持っているとは限りません。「こんなの当たり前だろ」と思っていることですら、一つずつ確認しながら地道に合意形成していく必要があります。また多くの場合、英語の言葉の問題にならないように議事録にする傾向があるので、そのようにして形成された合意は非常に大きな力を持つことになります。
大手IT企業の決算発表やCEOの談話やインタビュー的なものを自動翻訳して読んでみると、案外、当たり前のことをクドクドと言っているだけのようなことが分かると思います。それほど英語で多国籍に情報発信するということは手間暇がかかるのです。
「プログラムは書いた通りにしか動かない」という名言があります。英語でコミュニケーションができるというのはまさにそれで、文化や常識の異なる多国籍の集合で、議論を行い、結論を導き出す、というのはまさに「議論された通りにしか結論がでない」ものなのです。
論理的な思考能力を得意とするITエンジニアにとって、世界中から必ずしも英語が得意でない人々が集まって同じ言語で仕事をしている環境というのは、実は異文化の人々が集まるには最も仕事しやすい環境であるといえるのではないかと思います。
連載「さよなら、シリコンバレー」。次回は、「就労ビザの取り方」です。
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