ニューノーマルな時代に向けたMicrosoft&Windowsテクノロジー活用の新たな道筋を探る本特集。企業のビジネス革新を支援し、エンドユーザーの利便性と生産性の向上に寄与するテクノロジーとはどのようなものか。第4弾は、コロナ禍で変わった働き方にMicrosoftの開発環境がどのように追随しているのかを見ていく。
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経済産業省が2018年9月7日に公開した「DXレポート」。同レポート内にあるデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現シナリオに向けたスケジュールでは、2020年末にはシステム刷新に向けたプランニングが完了し、2021年から5年をかけて刷新を進め、自社データを最大限に活用した本格的なDXの実行を可能にしていくとあります。皆さまの会社ではどうでしょうか。まだまだできていないというところも多いのではないでしょうか。
そして、コロナ禍でテレワークを導入する企業が増え、多くの会社員は「自宅で勤務する」という新しい働き方を知ることになりました。その結果、テレワークが可能な企業に魅力を感じ、転職を希望する人が増えてきているように思います。現に筆者の会社の顧客からも、業績は堅調だが離職者が増えているため、既存システムをテレワーク対応にしたい、業務を自動化したいといった内容の相談を多く受けています。2021年以降もコロナ禍が完全に収束するかどうかも分からない今、あらためてDXを強く推進する必要があるのではないでしょうか。
そして、DXを推進する一つの解が、ローコードソリューション「Microsoft Power Platform」になると筆者は考えています。Power Platformでは、システム開発に対する専門的な技能はほぼ不要になります。画面操作と必要に応じた簡単な関数を組み合わせることで、アプリやbotの開発、データ連携、BI(Business Intelligence)を行うことができ、誰もがシステムを構築できるようになります。
「システムを作る」ということは、ITにおける専門分野の技能が必要であり、SIer(システムインテグレーター)などシステム開発を引き受ける専門業者に委託することが多かったと思います。筆者も、これまでSIer業務に従事し、多くの企業にさまざまなシステムを開発、導入してきました。
そこで常々感じていたことですが、携わった企業の業務をそもそも知らないため、どういうシステムが最適なのか、それこそ画面1つにしても実際に使う従業員の方々の業務に適したものかどうかを確認するプロセス一つ一つに労力を伴い、また時間もかかっていました。
逆に、顧客もまた、SIerの業務を知らないが故に、修正を安易に頼んでくるという事態も頻発していたように思います。
例えば、ある画面の一部分を変更してほしいという要望を受けたとします。言葉にすることはたやすいのですが、実際に変更するには、(作りにもよりますが)さまざまな部分を修正する必要があったり、また、その修正によって影響が出る部分を全てテストし直す必要があったりするため、思っている以上の時間と労力を要します。
これらの相互の認識不足も相まって、システムを作る、もしくは修正、更改することは、これまで非常に時間と労力そしてコストを要していました。
各業務のプロである従業員自身がPower Platformを活用してシステムを構築できれば、そこには業務ノウハウがふんだんに含まれるので、利活用が促進されるでしょう。また、従業員自身の手で改善できるため、これまでとは比べものにならないスピードと低コストでシステムをブラッシュアップしていくことも可能になります。
このプロセスが全社的に波及すれば、DXの推進も思った以上に早く完了するのではないでしょうか。
Power Platformはクラウド上で動作します。これまでのように出勤したり、社内ネットワークに接続したりしないと使用できないわけではありません。しかも、オンプレミスのデータもセキュアなクラウドサービス「Microsoft Azure」を通じて接続し利用することができます。
そして、「Microsoft 365」や「Office 365」と同じAzure Active Directory(Azure AD)の認証を受けた上で動作するので、セキュアなクラウドシステムを誰もが構築することができます。それ以外にも、既に提供されているクラウドサービスとの連携も、従来であればAPIを使って操作するような仕組みだったものが、「コネクター」という、API操作と比べて分かりやすい概念でつなげるようになっています。
さらには、さまざまな業務によってデータが生み出され、そのデータを分析、洞察し、業務に還元することで、業務が強化され、さらに多くのデータが発生するというループを循環させることで、高い付加価値を生み出していくことが可能になります。
それでは、Power Platformを使うと業務をどのように改善できるのかを「業務報告」を例に説明していきましょう。
システムを作る上で、最初に行うべきは「データ格納先(テーブル)」の作成です。これを後回しにすると、画面の作成もデータ連携もBIもままなりません。
ただし、最初から完璧にしなければならないことはありません。作っていく途中で、追加される項目もあれば、削除される項目が出てくることも多々あります。
まずは、現在業務報告に使用しているフォーマットを基にテーブルを作成してみましょう。
上記の図5では、一般的な報告書のフォーマットに合わせて作成したテーブルの一例です。ここでは「件名」「実績」「問題点と対策」「今後の計画」「添付資料」という列を宣言しました。しかし、報告書上部にある「日付」「所属」「氏名」という列は作っていません。これは、テーブルを作成すると、自動的に作成日や作成者という列も自動生成されるからです。作成者には、テーブル全体で共通利用されているユーザーと、それにひも付く部署があらかじめ割り当てられるように設定されています。
テーブルが作成できたら、今度は「Microsoft Power Apps」で実際に操作する画面を作成しましょう。Power Appsは、テーブルを基にアプリを自動生成する機能を持っています。
後は、登録や表示に必要な列を選択して保存することで、アプリの作成は終了です。
ここから、レイアウトを変更したい、色やデザインを変更したいといったニーズが出てきた場合でも、PowerPointを操作するように対応できます。
業務報告が登録されたことを自分のチームに通知することで、その内容を全員が把握できるようになります。これには「Microsoft Power Automate」を使うことで、ノーコードでMicrosoft Teamsに通知する機能を追加することができます。
Power Automateは、データの生成や更新、ユーザーが所定の操作をしたときなどをきっかけ(トリガー)に動作を開始し、指定した処理(アクション)を実行する仕組みです。
今回は、テーブルの新規登録を検知して動作させたいので、以下のようにPower Automateを定義します。
たったこれだけの操作で、Microsoft Teamsに自動的に通知するbotを作成できます。
また、ここには承認機能も付加できるので、報告書に不備がある場合は上長が却下することで修正を促すということもスマートフォン上で、ワンタッチで操作できるため、効率的に管理業務が行えるようになります。
「Microsoft Power BI」では、難しいデータベース句(SQL文など)を記述することなく、可視化したいデータを参照するだけで、レポートを作成できます。
他にも、さまざまなデータを組み合わせることで、これまで見えてこなかったことが見えるようになり、次のアクションにつなぐことができるようになります。
例えば、勤怠データをPower BIに取り込み、そこに毎月の有給取得状況や身辺情報などを組み合わせることで、有給を取得しやすい月とそうでない月を可視化し、都合の良いタイミングで有給取得を促すアナウンスを流すこともできるようになります。
また、Power Automateの「モバイルボタントリガー」では、緯度経度情報を取得できるため、安否確認をワンプッシュで報告でき、その結果をPower BIで一元管理することで、報告場所と未報告者の一覧を一目で分かるようにもすることもできます。
前述した通り、これまでの開発では、コーディングスキルといった高度な技術が必要であり、それの習得には多くの労力と時間が必要でした。また、これにはある一定のセンスも必要となり、一度は挫折した方も多いのではないかと思います。
しかし、Power Platformをはじめとしたローコードプラットフォームが台頭してきたことで、「市民開発者」という新しいキャリアが生まれ、もの作りをやってみたかったけど挫折し、やむなく別の道に進んだ方も、あらためて一開発者として活躍できるようになったのではないでしょうか。
市民開発者がいれば、これまでの開発者は必要ないのかという議論をよく見掛けます。ですが、筆者はそうは思いません。
確かに、Power Platformだけでもある程度のシステムを構築し、業務を改善することができます。しかし、それにも限界があります。むしろ、業務を知っている市民開発者が、自分たちでさまざまなアプリを生み出し、活用していく中で、物足りない部分、追加したい部分というのはどんどん生まれてくると思います。
そうしたとき、開発者の方々は、市民開発者の要望に合わせた機能をAPIとして作成し、Power Platformで利用可能なコネクタとして準備するだけでよいのです。これまでのような一から十まで顧客の要望をヒアリングして開発する必要はないのです。
ここでは、DX推進がなぜ必要なのかと、それに対する一つの解として、Power Platformとはどういうものかということを簡単に説明しました。本当にざっくりなので、正直Power Platformの良さの10%もご紹介できていません。ですが、そこから先はここで書き連ねるよりも、実際に皆さん自身で試していただいた方がはるかに早く、深く理解できると思います。
実例として、筆者の会社に入社した事務職の女性がいます。その女性はWordとExcelを多少使ったことがあるぐらいで、基本の関数を使うぐらいでしたが、わずか1カ月でPower Appsを使って自分の生活に役立つアプリを作成できるようになりました。
Power Platformはそれぐらい習得が簡単なのです。「習うより慣れろ」です。アプリ作成が本当に簡単になるのかどうかを試してください。
先日、Power AppsやPower Automateを利用してMicrosoft Teamsでカスタムアプリ、bot、フローの構築を可能にするローコードデータプラットフォーム「Microsoft Dataverse for Teams」が登場しました。一部制限はありますが、Microsoft 365やOffice 365のライセンスを持っている方は、Power AppsやPower AutomateをMicrosoft Teams上で作ったり、使ったりすることができます。もちろんPower BIも使えます。
また、Power Automateに付属するRPA(Robotic Process Automation)機能も強化されました。これを機にぜひいろいろと試してみてください。皆さんのすてきなシステムを見る日を楽しみにしています。
株式会社ソントレーゾ(http://sentreseau.com/)Co-Founder CTO(最高技術責任者)。Webディレクター、ピクトデザイナーを経て、エンジニアに転職後、2006〜2017年までSIerに従事し、主に金融系企業へのシステム導入提案を担当。Active DirectoryやCitrix XenDesktop/XenAppといった情報系システムの更改や、勘定系と情報系のデータを連携させるシステムとしてETLの設計にも携わる。その後独立し、顧客の既存システムのクラウド移行支援や、DX推進の支援、Microsoft 365 や Power Platform、Dynamics 365 の導入、教育支援を行っている。コミュニティー活動も精力的に行っており、Power Platformのコミュニティー内での登壇はもちろん、Power Appsのイベント立案や運営にも携わっている。最近はPower Platformとさまざまな技術を組み合わせて、他のコミュニティーでPower Platformの啓蒙(けいもう)も兼ねて登壇しており、それらの活動が評価され、Microsoft MVPをBusiness Applicationsのカテゴリーで受賞。
企業のビジネスを支え、エンドユーザーの利便性と生産性の向上に寄与してきたMicrosoft&Windowsテクノロジー。2020年も進化、改良が続けられ、安心で安全、より便利になる環境を提供してきた。しかし、本当にMicrosoftが提供するテクノロジーを理解し、十分に活用できているのだろうか――。本特集ではニューノーマルな時代に向けたWindowsプラットフォーム活用の新たな道筋を探ると同時に、さらなる利活用とITモダナイゼーションを推進するためのテクノロジーをあらためて解説する。
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