こんな裁量労働制は嫌だ!「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(85)(2/3 ページ)

» 2021年03月15日 05時00分 公開

裁量の余地のない裁量労働制

 まずは概要から見ていただこう。

東京地方裁判所 平成23年10月31日判決から

あるソフトウェア開発企業Xに務めるシステムエンジニアYが、累積した数百万円の残業手当の支払いを求めて企業側を訴えた。

企業Xはシステムエンジニアについて専門業務型裁量労働制を実施しており、社員の1日の労働時間は労使協定により8時間と見なされる制度だった。このため企業側は残業手当を支払う義務はないと主張したが、システムエンジニアYは、自身の行っている仕事は、裁量労働制の対象ではないプログラミング業務や営業業務であり、またプログラミングにつきノルマを課すなどの拘束性の強い具体的な業務指示がされていたこと、健康確保を図る措置が何らとられず、むしろ過労死ラインを超える労働時間を強いていたことなどを理由として、専門業務型裁量労働制の適用はないと主張して、これまでの残業代の支払いを求めた。

一方、企業Xはプログラミング業務はシステムエンジニアが行うことは一般的であるし、また、取引先の単なる窓口であって営業を担当していたわけでもないと反論した。

「契約は契約」とはいうものの……

 厚生労働省の専門業務型裁量労働制には、該当職種として「2 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう)の分析又は設計の業務」「7 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案もしくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)」「9 ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」が挙げられている。

 では、システムエンジニアのする仕事全てが裁量労働に合うものか、つまり、労働者の裁量が認められ、仕事の優先順位や進め方を自分で決められるような仕事の内容かといえば、そうとは限らない。

 文中にあるプログラミングについていえば、その仕事量は成果物の規模に大きく関係する。例えば、1000ステップのプログラムを組むとなれば、ある程度決まった時間を要し、作成者はそれを減じるような工夫はしにくい。

 過去の資産を流用したり、作業効率を高めてくれる開発ツールを使ったりはできるが、昨今の開発ではそうしたものによる効率化は最初の計画段階から織り込まれている場合も多く、いざプログラムを作ろうという段階になってから、さらに作業量を切り込むには限度があるといわざるを得ない。

 こうした労働条件下での作業でも、やはり裁量労働制は認められるのだろうか。どんな条件であれ、労働契約として企業と労働者がいったん合意したら、割に合わない裁量労働を続けなければならないのだろうか

 続きを見てみよう。

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