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» 2021年07月19日 05時00分 公開

「新造人間キャシャーン」を2021年のテクノロジーで解説しようキャシャーンがやらねば誰がやる(4/4 ページ)

[米持幸寿,@IT]
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人格を写しとる

ホログラムで元の人格みどりを投影するスワニー(【新造人間キャシャーン】第2話「月光に勝利をかけろ」」から引用)

 キャシャーンには鉄也の、スワニーには母みどりの人格が写し入れられている。フレンダーはハッピーから作られたが、人格(犬格)がコピーされているかどうかは定かではない。

 現代の科学では、人格や心とはどういうものであるか完全には解明されていないため、説明は容易ではない。しかし、さまざまなアプローチで解釈が試みられている。AIの世界では映像と音声といった「デジタルメディア」とテキスト対話での「似たような反応」により人格を写しとったかのように感じさせる技術の研究が進んでいる。

 見た目としては「顔」だ。写真が発明されて人の顔は簡単に見た目をコピーできるようになった。「写真を撮られると魂を抜かれる」という人がかつていたというが、それほど顔を写しとることは人のコピーを作っている気分にさせるものである。

 現代の最新技術では、写し取った顔を画面の中で自由に動かすことができるようになった。その最先端の技術は「ディープフェイク」と呼ばれる。「敵対的生成ネットワーク」(Generative Adversarial Networks:GAN)という深層学習AIを応用したもので、例えば誰かがしゃべっている映像の顔だけを他の人に差し替えた映像を生成することができる。この技術を使えば故人がしゃべっている映像を作ることも可能であるため、過去の俳優が最新映画に出演することもできる。偽映像が出回ることで、社会問題にさえなりつつある。

 次に「声」だ。AIにおける声は音声合成が中心となる。音声合成には、大きく分けて「シンセサイザー方式」と「サンプリング方式」がある。シンセサイザー方式は、人の声の周波数成分をまねて、異なる正弦波などの波を混合したりゆがませたりすることで声に聞こえる音を作り出す技術。サンプリング方式は、人間の声を録音し、正しくしゃべっているかのように貼り合わせる技術。

 前者は比較的自由度が高いため、感情を乗せられるが、少し機械っぽい音声になる。後者は音質が良くとても自然な音声となるが、自由度は低い。サンプリング音声合成は「必要な要素が含まれた録音データがあれば誰の声でも生成できる」点が重要だ。近年の音声合成はとても品質が良くなり、人間がしゃべっているのか音声合成なのか聞き分けがけっこう難しい。バス、駅、防災などの放送、ニュース読み上げなどに生かされている。ここにも深層学習技術が使われている。

 そして「行動」。現在AIで研究されているものには身体研究が追い付いていない(人間と見まごうロボット体は存在しない)ため、多くの場合「対話」という形で人の行動パターンをコピーすることが進められている。例えば、SNSのログを入力して「本人が書き込んでいるのではないか」と思わせるようなbotを作ることも可能となっている。

 これは、他人からの書き込みを入力、本人の書き込みを出力として深層学習によってパターンを覚えさせ、新たな書き込みに対して反応を自動生成することで実現する。また、自然な文章にするために「文章生成」という技術も使われる。言葉の流れ(シーケンスデータ)から言葉の流れを生成する深層学習技術として「Seq2Seq」という技術が注目されている。

 これらの技術を活用した人格コピーサービスも既に商品化されている。しかし、顔、声、反応パターンなどを深層学習で写しとれるが、あくまでもコピーである点は理解しておかなければならない。人の人格、心、魂のようなものを「移動させる」わけではない。AIに自分を移動させ永遠に生き続けることができるわけではない。

Point!

現代の深層学習AIを使って、顔、声、対話パターンなどを写し取り、画面上に再現することができるようになった。しかし、人格を移動することはできない

ブライキングボス

 ブライキングボス率いるアンドロ軍団は、キャシャーンより機械的に描かれている。軍団のロボットは鉄でできており、身体はさびに弱く、電子頭脳は電磁波に弱い。

 現代、世に出回っているロボットの外装は多くの場合アルミニウムのような「軽金属」か、FRP(繊維強化プラスチック)のような「樹脂」でできている。ロボットの動作にとって身体構造の質量は大きな問題であり、「いかに軽量に作るか」は主要な課題なのである。キャシャーンが空手チョップでロボットを破壊するシーンが毎回のように登場するが、ロボットの外装は実は0.1ミリ程度の薄い膜でできているのかもしれない。そして壊れれば工場で修理が必要だ。

 キャシャーンは太陽エネルギー、フレンダーは原子エネルギー(原子力!?)で動くが、ブライキングボスは「燃料」で動いている。太陽>原子力>燃料というヒエラルキーがあり、キャシャーンとフレンダーはアンドロ軍団より特別仕様であることが分かる。キャシャーンとスワニーには「人の心が入っている」とされているが、アンドロ軍団のロボットはより人工的である。不死身の自己再生能力もなく、太陽エネルギーでもなく、人のコピーでもないのだ。

 ブライキングボスとアンドロ軍団は、キャシャーンや人間がうらやましいだろうか。

 ブライキングボスが第12話で食事をしているシーンが出てくる。「人間と同じスタイルで燃料補給するのもよいだろう」と言ってみたり、タバコを吸ったりするシーンまである。ブライキングボスは「自分たちを使ってきた人間」を憎み、取って代わろうとするためか、人間のまねもする。そのようなシーンを幾つか抜き出してみる。

第9話:人間が音楽を愛する街を忌み嫌って攻撃する

第11話:人間が美術を愛する街を忌み嫌って攻撃する

第12話:人間の食事をまねて燃料補給する。タバコを吸う

第19話:マッサージを受ける

第24話:戦勝パーティーを開催する

第26話:風呂に入る

第27話:絵を描く


 このような描写はなぜ生まれるのだろうか。

 BK-1が凶悪化した背景には、「機械やロボットは人間の奴隷である」という思想がある。このため、「ロボットを人間による支配から解放」し、「ロボットが人間を支配する」ことを目指すという描写につながっている。このような描写をする物語は非常に多い。では現実はどうだろうか。今大流行りのAIやロボットは、人間の奴隷なのだろうか?

 現代のAI(ロボットの制御AIを含む)には、残念ながら「自分たちが奴隷のように働かされている」という疑念を抱くだけの能力が備わっていない――幸いなことに、の方が正しいか。

 AIやロボットは人間に憧れるのだろうか。

 AIによって人格や心のようなものを作り出すことができるか、という議論は盛んに行われているが、まだまだ道のりは長い。いつの日か似たようなものはできるかもしれないし、永遠にできないのかもしれない。そして人間の暮らしをAIが悟ったとき、「ああはなりたくない」と思う可能性だってある。

 AIに心のようなものができた日に、憧れられるような良い暮らしを人間は営みたいものである。

筆者プロフィール

米持幸寿

米持幸寿

Pandrbox代表・音声対話インタフェース・プロデューサー

日本IBM、ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパンをへて現職。

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