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» 2021年07月19日 05時00分 公開

「新造人間キャシャーン」を2021年のテクノロジーで解説しようキャシャーンがやらねば誰がやる(2/4 ページ)

[米持幸寿,@IT]

キャシャーンの活動エネルギー「太陽エネルギー」

 キャシャーンの活動エネルギーは、エコロジーなことに「太陽エネルギー」である。第15話で一度だけ話題に挙がるが、フレンダーは原子力のようである。アニメが放映された1973年ごろは、ソーラーウォッチ(太陽光発電付きの腕時計)や、太陽電池が付いたリモコンが登場するなど、太陽エネルギーに注目し始めた時代だったのかもしれない。当時はあまり一般化していなかった太陽エネルギーは、現代社会ではいろいろな場面で実用化され、身近にもなっている。

 まず、太陽エネルギーがキャシャーンの活動エネルギーとして十分なのか検討する。

 皆さんは「一反(いったん)」という言葉をご存じだろうか。日本の古い尺度「尺貫法」の面積単位で、一反=10畝(せ)=300坪(つぼ)で、メートル法では991.74平方メートルだ。尺貫法の一反は田んぼの大きさを示しており、一石(いっこく)の米(およそ2.5俵:15キロ程度)を栽培するのに必要な田んぼの面積とされていたそうである。一石とは1人分の食料という設定だ。

 「太陽エネルギーの話をするのになぜ田んぼ?」と頭を傾げる人もいるだろう。

 これには理由がある。人間は生命活動エネルギーを全て食事から摂取しており、主食である米から得られるエネルギーは太陽エネルギーである。米に含まれる炭水化物は「蓄電池」のようなもので、そこに蓄えられたエネルギーの素は太陽光である。私たち人間を含む動物のほとんどは、光合成によって集められた太陽エネルギーを、炭水化物を摂取することで活動しているのである(地熱で生きる動物もいる)。

 人間が必要とするエネルギーを現代の食事から考えてみよう。成人男性の食事からの摂取エネルギーは、カロリーで語られることが一般的だ。農林水産省の「一日に必要なエネルギー量と摂取の目安」によると、日本人成人男性の1日の摂取エネルギーは2400〜3000キロカロリーとされている。この数字からエネルギーを換算してみよう。カロリーをワットに変換するには、以下の式を使う。

1cal=4.184x(ワット秒)


 calはカロリー、xは秒数である。ワットは電力であり、エネルギーは時間を乗算する必要がある。この式に当てはめると、最大値の3000キロカロリーは、「3000×4.184=12,552キロワット秒」であり、さらに3600秒で割り、「3.49キロワット時」である。これを24時間で割ると「145.3ワット」となる。平均値ではあるが、145ワットあれば、日本人成人男性が1日活動できるということになる。

 太陽電池パネルもそうだが、太陽光は日中短い時間しか当たらない。筆者が太陽電池パネルを運用していたころは、朝日が昇るとほんの少しずつ発電量が上がり、南中時刻にピークとなり、また徐々に下がった。このピークが最大エネルギーだとして、モデル化してみる。

 昼夜が同じ時間の春分と秋分の日を参考にする。朝6時から夕方6時まで、ほぼ三角形に太陽光が増え、また下がると設定すると、ピークのエネルギーの24時間分の4分の1が、1日の太陽光エネルギーの享受量と考えられる。これは、実質最大100ワット出力する太陽電池パネルが天気の良い日に最大で出力できる電力は、「100(ワット)×24(時間)/4=600ワットアワー程度」だということだ。

 ただし、曇りや雨の日はぐっと下がることも知っておいてほしい。暗い雨の日はほとんどゼロに近くなる。キャシャーンが雨の中で動けなくなるシーンがあるのはこのためだ。

筆者が運用していた太陽電池パネル(筆者提供)

 次にエネルギーの「変換効率」を考える。

 変換効率とは、「太陽光のエネルギーのうち、どれくらいを電力に変換できるか」の率である。今日マーケットで高いシェアを持つ太陽電池パネルは「単結晶シリコン」というタイプで、変換効率は20%程度が一般的、より効率の良い高価なものだと30%を超えるものもある。およそ80%のエネルギーは光として反射して空に逃げたり、熱になって大気に吸い込まれたりする。

 ところで、地表に降り注ぐ太陽エネルギーは、経済産業省 資源エネルギー庁の「太陽エネルギーの基礎知識」によると、1平方メートル当たり1.0キロワットで、日本では800ワット、夜間、曇り、雨などの影響を考えると、「年間平均で145ワット程度」だそうだ。何と、日本人成人男性の1日の必要エネルギー量とほぼ同じ。つまり、変換効率100%なら、1平方メートルの日照があればいい。1反なんていう大きな面積がなくても何とかなるのだ。

 ここまでの確認事項をまとめてみる。「日本人成人男性は平均して1日145ワット程度のエネルギーが必要だ」「それは、1平方メートル当たりの太陽エネルギーとほぼ同じである」「ただし、これは100%吸収できれば、という話」である。江戸時代の考え方では、1人を賄える一反の田んぼは991平方メートルも必要だった。いかにお米のエネルギーの吸収効率が悪いかが分かる。ただし、お米はおいしい

 キャシャーンが太陽エネルギーを吸収するとき、ソーラーメットという名のヘルメットに付いている三日月形のくさび形が光る。あれが太陽電池パネルだろうか。あれでは1平方メートルはなさそうである。全身で吸収できるのであれば、何とか1平方メートルくらいあるだろうか? それでも、ものすごく効率の良いエネルギー変換を行っていることが前提である。キャシャーンの戦闘能力を考えると、さらにエネルギーが必要そうで、実際にはこれだけで足りるのか心配である。少なくとも現代の技術では、そこまで太陽エネルギーを効率的に集めることはできない。

Point!

日本人成人男性が活動するために必要な太陽エネルギーは1平方メートル分。しかし、キャシャーンの活動を支える太陽エネルギーをソーラーメットで収集するのは大変そうである

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