第267回 偽物まで登場(?)した半導体狂想曲も終わりか、それとも第二幕か頭脳放談

半導体不足も落ち着きつつあるようだ。この間、偽物が登場するなど、製品調達担当者は半導体の確保にかなり苦労したのではないだろうか。そんな苦労が生まれる背景を筆者が想像してみた。

» 2022年08月22日 05時00分 公開

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半導体の偽物の事例 半導体の偽物の事例
半導体の真贋判(しんがん)定サービスを提供しているOKIエンジニアリングのWebサイトでは、半導体の偽物の事例を紹介している。報道によれば、真贋判定サービスに持ち込まれた製品の約3割が偽物であったということだ(画面は、OKIエンジニアリングの「電子部品の真贋判定」ページ)。

 ようやくというべきか。半導体業界での設備投資の抑制とか、デマンドの下振れ予想、生産調整などのニュースが散見されるようになってきた。もちろんよいニュースではない。マスコミが報じているということは、報じられるかなり前から各社とも危機を感じて対応策を検討していたということでもある。

 しかし、以前であれば「いつもの」シリコンサイクルの需給調整がまた始まった、という理解で済ませられたのだが、これからは多分今までとは様相が違う。予想がつかない乱流状態に入っていく可能性があるとみている。

 コロナの時代に突入して2年以上、この間一貫して半導体不足が叫ばれてきた。当然、供給側(半導体の供給側)も需要側(半導体の購入側)もその対応策を考え続け、実施してきたわけだ。そのため突入前とは事情がいろいろと変化している。今回は需要側の変化を考えてみたい。

同じような部品でも簡単には差し替えできない理由

 部品が入ってこなくて完成品が作れない、売れない。これはトンデモない機会損失を半導体の需要家側にもたらしてきた。ハッキリ言って完成品の価格に比べたら吹けば飛ぶような価格でしかない部品のせいで、作れない、売れないというのは、地団駄(じだんだ)踏んで悔しい事態に違いない。

 ただ、そこでの対応策は二極化しているように見受けられる。代替部品、代替調達ルート、代替輸送ルートなどの開発に熱心に取り組んだ(取り組んでいる)組織と、悔しい思いをぐっと飲みこんで機会損失を受け入れている組織である。

 代替部品の調査をためらうなんて、ばかじゃないのと思われるかもしれない。でも、需要家の中にはためらうケースも多々あった(いまだに)と想像している。既に流れている製品に使用する部品を代替品で置き換えるというのは、とてつもないエネルギーを必要とする仕事なのだ、特に日本の製造業では。

 例えば、同じ端子配置、同じ機能だが製造元の違う半導体デバイスが調達可能だと分かったとしよう。しかし日本的にはすぐに明日からでも取り換えよう、とはならない。製造元が変われば、品質保証の体系も異なり、信頼性なども異なる。書類、現物の両方にわたって評価、検討を繰り返した後に、ようやく「Go!」ということになる。

 どこかの外国企業がコッチの会社の製品の方が少し値段が安いから来月分からコッチに切り替え、というノリにはなれない体質なのだ。それでも完璧に置き換えられるということが証明されればまだいいけれど、微妙な違いが見つかったとしたらどうだろう。

 代替品の方は、微妙に保証温度範囲が狭く、しかし使用上は「ギリギリOK」というものだったら。あるいはスペック的には問題ないが、代替品の波形の方に微妙な突出があって、誤動作の不安が出てきてしまったらどうだろう。

 多分、ほとんどのケースで製品認定を中断し、慎重に再評価することになると想像する。そういうやり直しには結構な時間がかかるものだ。当然人手とお金がかかる。

元の部品が調達できるようになるまで待つという選択も

 差し替えできるような製品ですらそうなのだから、似ているけれど明らかに異なる製品の場合はもっと大変だ。例えばコッチのマイコンなら調達可能、でもソフトウェアをチョイと直して、再ビルドが必要になるなぁ。外注のソフトウェア会社に発注するのか社内でやるのか、再評価はどうするのか。あれれ、端子が1ピンだけ違うぞ、これだと基板の作り直しが必要になる。では、誰にお願いするの、そのコストはどうするの。製造部門、調達部門に品質保証部門を入れても処理しきれない仕事が多数発生、さらにいろいろな部署を巻き込んでもなかなか代替品の採用は進まず、という一幕(勝手な想像)が起こりそうだ。

 多分、代替部品認定にかかわる多くの関係者は、やる前からそういう面倒が起こるのは理解しているものだ。どうせなかなか進まない、場合によっては無駄手間になりかねない作業の連続が想像されて、みんな最初からやりたがらないという会社もあるのではないだろうか。

 もともとの部品が、元のルートで十分な数量調達可能になるまで少し待った方が結果的によいのではないか? 消極策に見えるが、それを一概には責められない。

代替品調達の影に偽物の魔の手が……

 一方、上記に述べたような諸問題に汗を流し代替部品の調達に熱心に取り組んだ会社もあるだろう。そのようなケースでは、剛腕を奮って、お尻をたたいて多くの関係者を走らせた人がいることだろう。

 うまくいけば逼迫(ひっぱく)した需給関係の中、いちはやく製品の出荷数量を復活、拡大路線に走っているかもしれない。ガッポリもうけ、市場シェア拡大のチャンスでもある。しかし、そのような代替部品の調達にも魔の手が迫っていたりするのだ。半導体チップの偽物問題だ。

 半導体業界ではほぼ半世紀前の黎明(れいめい)期から互換品というものが存在していた。別な会社の製品でも差し替えて使えるようなものだ。互換品といっても、それは誰が製造していて、品質上の保証をしているのかが明らかな製品なのである。互換品メーカーは逃げも隠れもできず、責任を受けて立つ。これは偽物とは言わない。

 しかし最近問題になっている偽物、フェイク品は全く異なる。チップにマーキングされた型番、そしてロゴマークを見る限り有名メーカー品の定番製品のように見えるのだ。ところが、これは誰が責任とってくれるのかは分からない品物だ。この手のチップをつかんでしまって製品を製造し、品質問題など勃発すると目も当てられない。ロゴマークの会社に苦情を言っても、自社製品でないとにべもない。実際、蓋(ふた)を開けて(プラスチックパッケージを溶かして)中身を見てみると、正規製品とは異なるチップが入っているのだ。驚いて調べなおしても闇の中である。

 この手のチップは某国のマーケットにあふれているといっていいだろう。コロナのずっと前からあふれていたのだが、今回の半導体不足の一環で、日系の需要家にも雪崩(なだれ)込んできているようだ。

 背に腹は代えられず長年付き合いのある商社ルートではない代替調達ルートで調達を試み、見つけた、よかったと思ったら偽物というパターンかもしれない。

半導体の偽物を見分ける方法とは

 おかげで最近業界では「半導体の真贋鑑定」がビジネスになっている。鑑定団よろしく、これは本物、これは偽物と、判断してくれるサービスである。

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