第268回 ArmがQualcommをライセンス契約違反で訴えたのはなぜか?頭脳放談

Armがライセンス契約違反と商標権侵害でQualcommを提訴した。プレスリリースだけでは、詳細をうかがい知ることはできないが、筆者の過去の経験などから妄想たくましく、この提訴の行く末を考えてみた。

» 2022年09月20日 05時00分 公開

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ArmのQualcomm提訴に関するリリース ArmのQualcomm提訴に関するリリース
Armが、ライセンス契約違反と商標権侵害でQualcommを提訴したというプレスリリース。これだけでは、詳細は分からないが、その背景と行く末を筆者が妄想たくましく解説したいと思う。

 2022年8月末に、ArmがSnapdragonなどのArmコア搭載SoCで知られる大手半導体ベンダー「Qualcomm」とその子会社を相手取り訴訟を起こした(Armのプレスリリース「Arm、ライセンス契約違反および商標権侵害に関してQualcomm社とNuvia社を提訴」)。この訴訟は、2021年にQualcommが買収した「Nuvia Inc.」という新興のプロセッサ設計会社の設計を自社製品に組み込もうとするQualcommと、その設計を「捨てろ」と迫るArmの争いである。付随してArmの商標権侵害に関しても訴えている。

Qualcommに買収されたNuviaとは

 Qualcommといえば、スマートフォン(スマホ)業界では知らぬ人のいない大手ベンダーであり、ArmコアのSoC製品を大量に販売してきている。IP(知的財産)会社のArmとは長年の間、共闘関係にあり、密接なコミュニケーションがあったはずだ。Armが訴訟という手段に出たのは少々驚きであった。しかし、訴訟にしないとならないような断絶が両者間にできたということでもある。

 なおArmのプレスリリースを読む限り、Armが求めているのは、「Nuviaの特定の設計の破棄、商標権侵害の差し止めと賠償」なので、Armコアを搭載した既存のSnapdragonなどには影響がないと思われる。

 訴訟を理解するために、まずはQualcommが買収したNuviaについて調べてみたい。現在、NuviaのURLへアクセスしても、既にQualcommのサイトにリダイレクトされている(「Nuvia」で検索すると土木系の会社がヒットするが、ここは関係ないと思う)。

 しかし、訴訟自体は、Nuviaも対象となっているので、法人格はまだ残っているものと思われる。Nuviaは2019年にシリコンバレーのサンタクララ市に設立された極めて新しい会社だ。

 資金調達の履歴をみると2019年11月には5300万ドル、2020年9月には2億4000万ドルを調達している。設立後わずかな間に直近の円ドルレート換算で400億円以上という巨額の資金調達ができたのは、創設者の3人が「スター」だったことが一因だろう。彼らはAppleでプロセッサを開発したり、GoogleでSoCを開発したりしてきた有名人だ。

 そして、Nuviaが設立当初にターゲットにしてきたのは、データセンター向け、多分、HPC(スーパーコンピュータ)もターゲットに入るようなプロセッサだ。そしてそのプロセッサはどうも「巨人Armの肩の上」に乗って先を見据えるものだったらしい。

 そして、2021年1月にはQualcommが巨額の資金、14億ドルを投じて買収することを発表している(Qualcommのプレスリリース「Qualcomm to Acquire NUVIA」)。設立からたかだか2年ほどで、直近レートで2000億円の値が付いたのだ。サクセスストーリーを挙げるのに枚挙にいとまがないシリコンバレーにおいても、大成功といえるだろう。そして大スターの3人はQualcommに入社するという発表である。

ArmがQualcommを訴えた理由

 それが2022年8月末になって、Armに訴えられることになった。Nuviaが開発していたIPがArmにとって好ましくないものであった可能性が高い。Nuviaが巨額の資金調達時に会社の方針として宣伝していたことを踏まえれば、ArmのNeoverseに相当するようなIPであるらしい。「V」「N」「E」の3シリーズあるArm Neoverseは、データセンター、5Gネットワークのエッジから末端のIoTデバイスに至るArm期待のマルチコアシリーズである(Neoverseについては、「Arm Neoverse」参照のこと)。まさにArmのこれからを背負わせるはずの次世代の屋台骨候補だ。

 この訴訟に至る前にはかなりの期間にわたってQualcommとArm間で話し合いがあったらしい。Qualcommは、長年Armとの間で広範で強力なライセンス契約を「結んでいる」と思われる。契約内容が公開されることはないだろうが、Armのライセンシーは世界中に数あれど、Apple、Nvidia、SamsungそしてQualcommなどは別格ではないかと思う。

 一方、Nuviaは新興企業で、設立当初からArmと契約があったとは思えない。しかしその巨額の資金調達をテコにしたのか、何らかのライセンスを手に入れて「Armの肩の上」(Arm:腕の肩というのはちょっと変だが……)に乗ったものらしい。

 Armのリリースを読む限り、1)ArmとNuvia間でライセンス契約はかつて存在、2)Qualcommがその契約をNuviaから自社に移管しようとした。3)Armはそのライセンスを2022年3月で終了という経緯のようだ。終了したライセンスの下で開発継続したのは契約違反、というロジックである。

筆者が訴訟の行く末を妄想してみた

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