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» 2022年07月25日 05時00分 公開

第266回 RISC-Vが追い上げるか、Armが逃げ切るか、Armが新戦略を発表頭脳放談

このところ、RISC-Vのニュースが目立つようになってきた。そんな中、Armが2022年の新戦略を発表し、高性能なGPUとCPUを発表した。これらのターゲットは「ゲーム」である。なぜ、Armはゲームをターゲットにするのか、Armの新戦略を考察してみた。

[Massa POP Izumida,著]

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Cortex-X3の性能 Cortex-X3の性能
Cortex-X3はシングルスレッド性能を34%向上させたという。画面は、Arm Blog「New generation of Armv9 CPUs unleash unprecedented compute power」より。

 「Arm(アーム)」が2022年の新戦略を発表した(Armのプレスリリース「Arm Total Computeソリューションがコンシューマー機器のビジュアル体験を再定義し、モバイルゲームのさらなる高性能を実現」)。はた目にはNVIDIAによる買収の断念を受けて先行きの不透明感が増しているArmであるが、押しも押されもせぬプロセッサ業界の雄である。毎年発表の戦略をアップデートしないでいたらその方が大問題だ。

 しかし、世界中に関係する企業の数が知れない巨大な市場を形成しているArmのことだ。急な方向転換はできない。「大国を治むるは小鮮を烹るがごとくす」、過去の延長上に見えるところにこそ、将来への布石を潜ませているように見えなくもない。

 当然すぎるのだけれど、Armと言ったらやはりスマートフォン(スマホ)である。大量に数が出る組み込みマイクロコントローラー向けの下位機種もあるのだが単価が安い上にその変化は緩やかだ。またHPC(スーパーコンピュータ)やサーバ機などは技術的には高度な分野もあるが、スマホに比べたら圧倒的にボリュームが少ない。

 毎年20億台に迫るような数量で、かつ比較的よい単価で売れるスマホ向けは、押しもおされぬArmビジネスのメインであろう。そのスマホ市場で、今回Armが打ち出しているのがゲームアプリケーションへのフォーカスである。

 いまやコンシューマー向け分野は、ゲーム抜きには存在できない。携帯ゲーム機(多くはArmコア機)を持ち歩いている人もいるが、電車内でスマホをいじっている人々の多くが実はゲームをやっているのだから。音楽、動画、高精細な写真撮影にSNSとハードウェア的にはやりつくされている感がある中で、貪欲に計算能力を求めてやまないのがゲームアプリケーションだ。スマホをメインに据えるならフォーカスせざるを得ない、ともいえる。

 x86では、AMDが古くからゲーム市場を狙ってきて(その頃はそこしか生きる道がなかったようにも思えるが)、Intelに迫る地盤を得た。AMDに追い上げられたIntelが、今度はゲーム市場に注力してAMDを迎え撃っている。しかし、ArmにはArmのゲーム市場にフォーカスする意味がありそうだ。その裏側を想像たくましくしてみた。

Armはスムーズに新製品への移行を進める

 まずスマホ市場を狙ったArmの新製品群を見てみよう。ここではハイエンドの新GPUシリーズと「X」の名を冠したハイエンド新CPUの登場が目玉だ。

 しかし、いつものことだがArmは新規製品と既存製品のラインのすみ分けというか、ビジネス的なつなぎが上手である。新しい機種が出たからといって、古いシリーズはもう終わり的なことには決してしない。

 ダメになったIPベンダーを振り返ると、期待の新機種を売ろう売ろうとするあまりに、自らの旧来機種の足を引っ張ってしまうことが見られた。Armはそういう失敗をしないように心掛けているように見える。

ゲーム向けのGPU「Immortalis-G715」を発表

 まずGPUを見てみよう。Armは「Mali」の名を冠するGPUシリーズをArmのCPUコアと合わせて多くのライセンシーに販売してきた。NVIDIAによるArm買収話のあったころ、反発の理由の1つにNVIDIAのGPUの支配力が強まるのではないかという懸念もあったように思われる。

今回発表されたGPU 今回発表されたGPU
レイ・トレーシングをサポートするハイエンドのGPU「Immortalis-G715」と、Maliシリーズの「Mali-G715」と「Mali-G615」が発表された。画面は、Arm Blog「Gaming performance unleashed with Arm's new GPUs」より。

 しかし、NVIDIAとの話の裏側でもArmはGPUの自社開発を着々と続けてきていたようだ。今回、Armはフラグシップとなる新GPUシリーズ「Immortalis-G715」を発表している。

 「Immortalis」は、「不滅」という大上段なネーミングだ。Maliとの差別化ポイントとなる一番の売りはハードウェアによるレイ・トレーシングのサポートである。レイ・トレーシングはグラフィックス向けの専用機ではあり得るけれど、コンシューマー分野のモバイル向け(想定する主要用途はゲーム)に投入したところが目新しい。

 その一方で、従来のMaliシリーズのプレミアム版として新機種「Mali-G715」も発表している。また、同時にちょっとコア数を削って廉価な感じに仕上げたらしい「Mali-G615」も発表している。従来機種の延長でレイ・トレーシングがない「プレミアム」なところを目指すなら「Mali-G715」、レイ・トレーシングを活用するような「新たな地平」を目指すなら「Immortalis-G715」というすみ分け、売り分けのようだ。

 現時点では当然ながらレイ・トレーシング・ハードウェアを活用するような人気のソフトウェア(ゲーム)は、まだないはずだ。しばらくはMaliシリーズで十分なのではないかと思う。

 しかし、差別化を狙いたい向きは新機能に飛びつくだろうから遅かれ早かれImmortalisの「レイ・トレーシング機能ないとダメよ」という方向になるのだろう。GPUの場合、高級機の新機種から徐々にImmortalisシリーズに置き換わってゆき、ゆくゆくはImmortalisが主流になるのではないかと想像する。

 置き換えには幾つか意味がある。1つ目は以前にも書いたが危ない中国の分派(Armチャイナ)への対抗だ(頭脳放談「第261回 NVIDIAによるArm買収の破談、その間にRISC-Vの足音が……」参照のこと)。新たな機能を持つImmortalisが主流になれば、そのライセンスを持っていない分派は、核心市場である中国市場から排除されるだろうからだ。その点で中国のスマホメーカーのArm機種採用動向は非常に気になる。

 また、全く別な視点では、RISC-V陣営への先制攻撃という意味もあるだろう。今のところRISC-Vは伸びているとはいえ、スマホ市場に入り込めてはいない。またRISC-Vと組み合わせる定番GPUがあるわけでもない。

 Arm製のGPUで市場を抑えておくというのは、巨大なスマホ市場を他に渡さないため、先々を考えた布石に見える。なお、Mali以前にArm向けGPUの定番IPを供給していたImagination社は、Armの自社GPUによってArm市場からたたき出された後、MIPSを買収するなどして、紆余(うよ)曲折の後、現在はRISC-Vを担いでいる。

さらにシングルコア性能を高めた「Cortex-X3」を発表

 次はCPUだ。従前Armは用途別に「Cortex-A」「Cortex-R」「Cortex-M」と、めでたく「A」「R」「M」の3文字を冠するシリーズを展開してきた。松竹梅という感じ。

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