デジタルIDの中立性とは何か、なぜ重要なのかGartner Insights Pickup(275)

中立的なデジタルIDの普及が進まなければ、普遍的な所有権と説明責任は定着しない。本稿では、デジタルIDの中立性の可能性と問題、重要性について考える。

» 2022年10月07日 05時00分 公開
[Homan Farahmand, Gartner]

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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 デジタル所有権および説明責任は、デジタルアイデンティティー(ID)と不可分だ。もし、中立的なデジタルIDの普及が進まないとデジタルエコシステムが断片化し、真の普遍的な所有権と説明責任が定着しない。

 デジタルIDの中立性について、私は次のように考えている。

  • デジタルIDの中立性は、デジタルIDとその関連データの包括的、公正、安全な発行、保管、利用のための設計原則になる可能性がある
  • デジタルIDの中立性が確保されれば、組織はバイアスなしで、また自らが発行したデジタルIDのみを優遇することなく、証明済みの検証可能なあらゆるデジタルIDを受け入れられる
  • ネット中立性(インターネットサービスプロバイダーが全てのインターネット通信を平等に扱うこと)が“コネクテッドエコノミー”を可能にしたのと同様に、ID中立性は、物理世界とメタバースなどの仮想世界との両方で、デジタル所有権および説明責任を通じて、“プログラマブルエコノミー”(※)をサポートする
  • これは、特別な扱いを要するエッジケースや、過去に学んだ教訓を考慮した適切な例外処理を前提としている
※Gartnerは、プログラマブルエコノミーを次のように定義している。
「プログラマブルエコノミーとは、分散した(いわゆる“胴元”がいない)非中央集権型のデジタルリソースから成る大規模な基盤として用いる、本質的に“インテリジェントな”経済システムである。このシステムは、商品やサービスの生産と消費をサポートし、イノベーション、起業、人/マシンによる価値交換(金銭的および非金銭的)の多様なシナリオを実現する」
(引用元:「メタバースでビジネス・チャンスをつかむために取り組むべきことは何か?」)


 こうしたデジタルID中立性には、以下の可能性がある。

  • 組織が進めるID中立のアーキテクチャ戦略策定を支援する。この戦略策定は現実の、または仮想エコシステムでチャネルを迅速に開き、継続的なイノベーションがもたらす経済的機会(NFT、メタバースなど)を活用することを目的としている
  • 人口属性とサービス嗜好(しこう)の変化に伴い、今後10年間の経済活動の中で高まる。メタバースにおけるID中立のWeb3.0ビジネスサービスを利用した、デジタル資産の作成、所有、利用の急成長がそのけん引役となる
  • ユーザーが適切な場合に、自己完結型で標準ベースの自分のIDデータポッド(IDデータの格納場所)を管理できるオプションを提供することで、組織のセキュリティおよびプライバシー態勢の大幅な改善を実証する

 ID中立性を支える技術は存在しているか、あるいは登場しつつある(IDフェデレーション、分散型ID、アバター、ソフトウェアロボット、検証可能な変更要求、データポッド、データマーケットプレース、マルチパーティコンピュテーション、ブロックチェーン、オープンバンキングなど)。だが、デジタルID中立性および関連するビジネスモデルは、普遍的に受け入れられている実用的なモデルとして、正式に定義されているわけではない。

 現在のデジタル所有権および説明責任は、極めてサイロ化されている。この根本的なギャップが、さまざまなデジタルエコシステムの成長を阻害している。コンシューマライゼーション(とWeb2.0)は、組織別の断片的なデジタルIDモデルを背景に台頭してきた。そのため、ユーザーが商品やサービスにアクセスするには、その提供元ごとに登録し、その利用規約に従わなければならない。現在のデジタルIDモデルは、次のようなさまざまな問題を引き起こしている。

  • 個人データに対するユーザーの管理が損なわれる
  • 脆弱(ぜいじゃく)でプロプライエタリなサービスインタフェースが無秩序に増える
  • セキュリティやプライバシーに関するサービスプロバイダーの責任が増大する
  • 広告ビジネスでずさんな管理慣行が横行し、無料サービス用のIDが流出する
  • デジタルIDの展開とメンテナンスのコストが上昇する

 デジタルID中立性(とデータレスビジネスサービス)は、Web2.0の基盤となってきたビジネスモデルを根本的に変える。データレスビジネスサービスは「Web3.0」や「分散型Web」とも呼ばれる次世代インターネットにおいて、コンポーザブル(柔軟な組み立てが可能な)アプリケーションの構成要素となる、インターネットグレードのビジネスツールだ。

 このことは、Web3.0に関する従来の解説では、十分に認識されていない。「レガシーIDモデルが引き継がれる」という暗黙の前提があるが、これは間違っている。Web3.0をサポートする強固なID中立性モデルがなければ、次世代インターネットへの組織の取り組みは失敗してしまう可能性がある。エコシステムの持続可能な成長が望めないからだ。

 この問題を提起することは、組織の上級幹部にとって必須だ。金融サービスや政府機関、保険、医療、小売りといった業種では特にそうだ。多くの大規模組織が、次のような成長戦略を模索しているからだ。

  • プログラマブルエコノミーによって自動化を推進し、デジタルエコシステムへの参加を拡大する
  • ロボットアバターやオムニバースでのシミュレーションなど、仮想エンティティによって物理世界でのサービスを強化する
  • 仮想世界でのビジネスプロセスをオペレーション化し、成長機会を生かす
  • IDファーストのビジネスモデルやセキュリティモデルにより、増大するプライバシー問題やセキュリティ脅威を軽減する

 これらの成長戦略は、従来のバザールモデルの模倣で可能になる。このモデルは、「誰もが登録なしで、個人データの提出を義務付けられることなく、店に入って取引や交流をして店を出られる」というものだ。

 同様に、デジタルID中立性は、自己完結型のIDをデータレスビジネスサービスに付加することを可能にする。IDに関連するデータは、自己完結型のデータポッドに保存される。データポッドはユーザーの管理下に置かれるか、エージェントに委ねられる。

 Gartnerは、技術専門家のために、分散型IDと検証可能な変更要求の調査研究を行う一環として、デジタルID中立性の考え方をさらに探求していく。Gartnerの初期仮説は次の通りだ。

  • 短期的には、デジタルID中立性は、組織がデジタルエコシステムの拡大の障壁を取り除き、分散型IDと検証可能な変更要求プロトコルを活用することで、ビジネスアーキテクチャにおけるプライバシーとセキュリティの負債を解消するのに役立つ
  • 長期的には、デジタルID中立性は、Web3.0のデータレスビジネスサービスの広範な普及に貢献する

出典:Some Thought on Why Digital Identity Neutrality Matters(Gartner Blog Network)

筆者 Homan Farahmand

VP Analyst


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