Windows 10の開発が事実上のメンテナンス期間(今後、大きな新機能が追加されないという意)に移行し、間もなくWindows 8.1以前のサポートが終了する中、Windows 11への移行に消極的だった企業も、いよいよ本格的に導入を進めなければならなくなりました。本連載も今回から、本格的にWindows 11への移行に主軸を移します。
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Windows 10 バージョン21H2(November 2021 Update)まで「半期チャネル(Semi-Annual Channel、SAC)」で提供されてきた「Windows 10」は、その後、1年に1回の「一般提供チャネル(General Availability Channel)」に移行しました。
最新のWindows 10 バージョン22H2(Windows 10 2022 Update)は、Windows 10バージョン2004以降のコアを共通とするマイナーアップデートとして提供されました。今後も1年に1回のサイクルで機能更新プログラムが提供される模様ですが(確定的ではありません)、「2025年10月」にWindows 10のサポートは全て終了します。「2023年1月」には、「Windows 8.1」の延長サポートが終了し、「Windows 7」の3年目「拡張セキュリティ更新プログラム(Extended Security Update、ESU)」の期限を迎え、これらのレガシーバージョンも完全にサポートされなくなります。
現在、企業クライアントとして利用されているデバイスで、「Windows 11」の最初のバージョンがリリースされる以前に導入されたものの多くは、Windows 11で要求されるシステム要件を満たしておらず、Windows 11にアップグレードできない場合があります。既存ハードウェア資産の有効活用という観点からも、Windows 11への移行が進まない現状があるのではないでしょうか。
Windows 7〜Windows 10まで、32bit(x86)および64bit(x64)版Windowsの最小システム要件に大差はありませんでした。そのため、多くのデバイスでは、Windows 7やWindows 8.1からWindows 10へのアップグレードが可能でした。しかし、Windows 11でシステム要件は大きく変更されました。x86版の提供がなくなり、64bitプロセッサ、UEFIファームウェア、トラステッドプラットフォームモジュール(TPM)が必須となり、互換性のあるプロセッサの世代も比較的新しいものに制限されています(画面1)。
Windows 11の最小システム要件は表1の通りです。なお、Windows 11の最小システム要件、および機能固有の要件については、以下のサイトで確認することができます。
ハードウェア | 要件 |
---|---|
プロセッサ | 1GHz以上で2コア以上のWindows 11と互換性のある64bitプロセッサまたはSoC(System on a Chip) |
メモリ | 4GB |
ストレージ | 64GB以上 |
ファームウェア | UEFI、セキュアブート対応 |
TPM | TPM 2.0 |
グラフィックス | DirectX 12(WDDM 2.0ドライバ)以上 |
ディスプレイ | 9インチ以上、8bitカラー以上の高解像度(720pixel)ディスプレイ |
その他 | インターネット接続(個人向けHomeおよびProにはMicrosoftアカウントが必要) |
表1 Windows 11のシステム要件 |
Windows 11のシステム要件を見ると、Windows 11 Proも、Homeと同様にセットアップに「Microsoftアカウント」が必須であるかのように読み取れるかもしれませんが、決してそうではありません。
セットアップ時の手順は少し複雑ですが、ローカルアカウントでセットアップできることはWindows 10以前と変わりませんし(画面2)、セットアップ後のActive Directoryドメイン参加設定や、Azure Active Directory(Azure AD)参加が可能です。また、Windows 7〜Windows 10と同様に、「応答ファイル」によるOS展開の自動化もこれまでと同じ方法を利用できます。Windows 10以降はプロビジョニングパッケージや「Windows Autopilot」など、さらに展開オプションが増えています。
Windows 11ではプロセッサ要件が厳しくなりました。システム要件にある“Windows 11と互換性のある64bitプロセッサ”とは、以下にリストされているIntel、AMD、またはArm(Qualcomm)プロセッサモデルであるかどうかということです。Intelプロセッサの場合、第8世代(および第7世代の一部)以降のプロセッサモデルである必要があります。
Windows 11と互換性のある比較的新しいプロセッサは、2017年に発見され、2018年初めに公表された「投機的実行サイドチャネル攻撃」として知られるプロセッサの脆弱(ぜいじゃく)性問題に対策可能(マイクロコードアップデートの提供)であるかどうか、対策済みのプロセッサであるかどうかということもできます。
この脆弱性を悪用した攻撃としては、「Meltdown」や「Spectre」「Foreshadow」などが存在します。Windows 10およびWindows 11は、プロセッサ側のマイクロコードによる軽減策の実装と、OS自体が備えるソフトウェア軽減策の両面から、性能を著しく低下させることなく、この脆弱性を軽減できます。つまり、プロセッサモデルを限定するWindows 11を導入することは、それだけで投機的実行サイドチャネル攻撃を軽減するということになります。
Windows 11の最小メモリ要件は、64bit版Windows 10の2GBの2倍となる「4GB」になりました。しかし、4GBではOS稼働時の利用可能な空きメモリ領域が乏しく、アプリの要件や同時実行数によっては、快適な操作性は得られないでしょう。少なくとも8GBは欲しいところです。
使用したいWindows 11の機能によっても必要なプロセッサコア数やプロセッサ機能、メモリ要件が違ってきます。
例えば、「クライアントHyper-V」(同時実行する仮想マシンに必要なリソース)、Windows 11 バージョン22H2からの新機能「Android用Windowsサブシステム」(最小8GBメモリ)、「Microsoft Defender Application Guard」(最小4コアプロセッサ、最小8GBメモリ)、「Windowsサンドボックス」(最小2コア/推奨4コアプロセッサ、最小4GB/推奨8GBメモリ)を利用するなら、やはり8GBが最小メモリ要件となるでしょう。また、いずれの機能にもHyper-V対応のプロセッサ機能(Intel VT-xまたはAMD-V、第2レベルアドレス変換拡張《SLAT》)が必要です(画面3)。
これからWindows 11デバイスを新規導入する場合は、プリインストールモデルを選択すれば、最小システム要件は間違いなく満たしています。その上で使用する機能に応じて、プロセッサコア数や機能、メモリ容量を検討すればよいでしょう。
Arm版Windows 11はフル機能版Windowsの比較的新しい選択肢であり、Arm版Windows 10のWOW64(Windows 32bit On Windows 64bit)によるx86エミュレーションに加え、Arm版Windows 11ではx64エミュレーションにも対応しました。しかし、レガシーなアプリケーションの多いビジネス環境において、エミュレーションのオーバーヘッドや、一部のアプリやドライバがそもそも対応できないなど、制限があることには注意が必要です。個人や教育の場面では選択肢になり得ますが、ビジネス環境においては新しいプロセッサアーキテクチャの導入はハードルが高いでしょう。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2023(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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