ハイブリッドワークがうまくいかない理由と改善ポイントGartner Insights Pickup(313)

なぜ、ハイブリッドワークはうまくいかないのか……? 本稿では、うまくいかない理由と、その改善ポイントを紹介する。

» 2023年08月04日 05時00分 公開
[Tori Paulman, Gartner]

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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Insights」や、アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」などから、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 2022年12月。企業は“オフィス回帰”を目指していたものの、2回目の大きな挫折を余儀なくされていた(新型コロナウイルス感染症のオミクロン変異株の流行による)。そのとき、私はマズローの「欲求5段階説」を、未来の働き方に当てはめて考えてみようと思い付いた。

 マズローによると、人間の欲求には5つの段階がある。最も低次の欲求は「生理的欲求」で、より創造的、知的な「自己実現欲求」が最も高次の欲求だ。さらに重要なのは、人間は、低次の欲求を満たす確固たる基盤がなければ、帰属、承認、自己実現という高次の欲求がわかないということだ。

 私が欲求5段階説を踏まえて未来の働き方を考察し、図解した記事を初めて発表してから1年半余りたつ。だが、依然として、経営リーダーは「従業員をオフィスに復帰させるにはどうすればよいのか」と頭を悩ませている。

 私は毎日、顧客とやりとりする中で、従業員をオフィスに呼び戻す方法を知りたがっている経営リーダーたちと話している。こうしたリーダーからは「尻をたたくのではなく、動機付けをしようとしているがうまくいかない」といった声が聞かれる。最近メディアに掲載された記事のタイトルを幾つか抜き出してみると、暗中模索していることが浮き彫りになる。

 --出社の義務付け、ピックルボール、ビール。何がハイブリッドワークを定着させるのか(NY Times)
 --ハイブリッドワークが新常態――半分しか埋まっていないビルも常態化(Barrons)
 --CEOは、オフィス回帰を巡る議論は決着がついたと考えた。それは間違っていたようだ(NBC)
 --「オフィス回帰は自らの首を絞める」と従業員は批判(Business Insider)

従業員の欲求階層

 従業員の帰属欲求や承認欲求、自己実現欲求が満たされていれば、企業が従業員から受ける恩恵がはるかに大きくなることは容易に分かる。だが、ほとんどの企業は、生理的欲求と安全欲求という基本的な欲求を満たせられずに足踏みしている。従業員の5段階の欲求は、以下のように要約できる。

  • 生理的欲求:自分の生理的欲求を満たすスペースで働くことを選択したい
  • 安全欲求: 自分の欲求に合った働き方をデザインでき、予測可能で安定した状態を手に入れたい
  • 帰属欲求:同僚と豊かな人間関係を築き、直属のチーム以外のグループともつながりを感じたい
  • 承認欲求:自分の仕事を就業時間ではなく、結果や成果物に基づいて評価してほしい
  • 自己実現欲求:働きがいを感じ、自分の貢献が会社の成功につながっていると実感したい
(出所:Gartner)

ハイブリッドワークはどのように計画されているか

 現在、ハイブリッドワーク戦略は通常、リーダーがシステムで「どの程度の予測可能性を必要とするか、あるいは望むか」や、「どの程度の柔軟性を許容するか」を考慮して計画される。皆さんがどうかは分からないが、私の知っているほとんどの人はあまり柔軟ではない。

 そして、「より柔軟になるためには、多くの労力を費やしてライフスタイルの選択を変え、新しいスタイルに慣れるまで苦労しなければならない」ことを理解すると、柔軟性を高めることの優先順位は低くなってしまう。

 画一的なハイブリッドワーク戦略への傾倒や、さらに悪いことには「週の大半を完全出社とする」という思考停止のようなやり方がいまだに見られるのは、そこに理由がある。ハイブリッドワークを計画するにあたっては、以下の点に注意する必要がある。

  • 予測可能性:「3日出社/2日テレワーク」のように日数を指定したり、「火、水、木」といった特定の曜日を指定して出社を義務付ける企業は、ハイブリッドワークを推進する上で肝心な柔軟性を提供する機会を逃す
  • 柔軟性:従業員が働く時間と場所を自由に選べるようにしている企業は、オフィス回帰の取り組みを価値のあるものにする予測可能性を提供する機会を逃す
  • 妥協:決定を個々のチームに委ねる企業は、ハイブリッドワークの計画立案を容易にする仕組みを備えていない場合が多い。そのため、出社日の計画を立てることが面倒になり、それがハイブリッドワークの妨げになる。こうした企業は大抵、決定が個々のマネジャー任せになるため、不公平が生じ、マネジャーの負担も増える。私の父もいつも言っていたが、いったん妥協し始めると誰も幸せにならない
(出所:Gartner)

ハイブリッドワークの改善ポイント

 Gartnerの「2022 Digital Worker Experience Survey」(2022年デジタルワーカーエクスペリエンス調査)では、従業員の92%がハイブリッドワークを望んでいることが分かった。ただし、こうした従業員のうち「出社日を会社や上司に決めてほしい」と思っている人は14%にすぎない。さらに印象的なことに、他の従業員(86%)のうち「自分で最低限の義務を選択肢から選択すること」「完全な自主性に任されること」「直属のチームと一緒に出社日を計画すること」をそれぞれ望む人の割合が、ほぼ同じであることも明らかになった。

 額面通りに受け止めれば、これは素晴らしいニュースではない。この3つの方針のいずれかに沿って、全ての従業員を対象としたハイブリッドワーク戦略を策定すると、50%以上の従業員の意向に合わないということだからだ。だが、欲求階層説を踏まえてこのニュースを見ると、なかなかうまくいかないハイブリッドワークをリーダーが成功させるのに役立つヒントも含まれている。これらのヒントを生かして以下のような方策を講じられる。

  • 適切な出社日時を計画する上で、マネジャーではなく従業員の役割を優先させる、ハイブリッドワーク戦略を定義する
  • ワークプレースエクスペリエンス(WEX)アプリを導入し、従業員が最適な出社日を計画したり、個人やグループの活動のためのワークスペースの他、駐車場、ランチ、アメニティーを予約したりできるように支援する
  • コラボレーションアプリや個人、チームの生産性を高めるアプリで、「時間を見つける」機能など、従業員が同僚と調整するのに役立つ機能を有効にするとともに、社内SNSアプリと連携させる
  • マネジャーやリーダーに、仕事の連携を後押ししたり、従業員に出社を促したり、出社していない従業員を特定したりするためのアプリケーション機能を提供する

出典:Why We Are Stuck in a Hybrid Vortex and How To Break the Cycle(Gartner Blog Network)

※「Gartner Blog Network」は、Gartnerのアナリストが自身のアイデアを試し、リサーチを前進させるための場として提供しています。Gartnerのアナリストが同サイトに投稿するコンテンツは、Gartnerの標準的な編集レビューを受けていません。ブログポストにおける全てのコメントや意見は投稿者自身のものであり、Gartnerおよびその経営陣の考え方を代弁するものではありません。

筆者 Tori Paulman

Sr Director Analyst


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