AIが組織文化とオペレーションに及ぼす影響を管理する方法Gartner Insights Pickup(335)

組織がAI導入を成功させるには「AIに仕事を奪われるのではないか」という従業員の不安に対処し、チェンジマネジメントをし、人材構成を改善する必要がある。

» 2024年01月26日 05時00分 公開
[Pieter den Hamer, Gartner]

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 生成AIの最近の進化は、AIを急速に成長させてきた。AIはもはや単なる技術やビジネスツールではなく、インターネットや印刷機、さらには電気の登場に匹敵するインパクトを社会に及ぼしつつある。今まさに社会全体を変容させようとしている。

 ビジネスにおいてAIはインパクトが大きく、広く浸透しつつあるため、非技術系従業員にも新しいスキルが要求されている。ビジネスリーダーや経営幹部が効果的なリーダーシップを発揮するには、こうした新しいスキルが必要になる。

 何よりも重要なスキルはクリティカルシンキングであり、従業員はAIとの効果的な働き方を学ぶ必要がある。ただし、AIはますます進化しているものの、限界があり、間違いを犯すこともある。ハルシネーション(AIがもっともらしいが誤った回答を返すことを指す)については誰もが知っているが、AIに関連する信頼性やリスクに関する問題は他にもある。

 AIが組織で果たすべき役割について、組織特有の状況や業種に合わせてビジョンを策定することが重要だ。リーダーがすべきことは、AIの可能性を探り、組織でAIを活用する具体的な機会を作ることを目指し、アイデア出しを始めたり、部下を後押ししたりすることだ。例えば、AIを顧客サービスや製造に、あるいは業務や財務に関する意思決定の改善に活用できる可能性がある。

 そのためには、競合他社の動きを理解し、AIの影響や業界にディスラプション(創造的破壊)をもたらす新規参入者の出現に備える必要がある。準備は、AIについて考えることだけではない。全ての企業や組織が、少なくともAIについて今すぐ学び始めるか、既に実施している取り組みをさらに拡大する必要がある。

職場への影響

 組織は、「AIの技術的進化に伴い、仕事を失うのではないか」という従業員の不安に対処する必要がある。これは、「AIの目標は人間の能力を拡張することであり、人間に取って代わることではない」ことを強調することで可能になる。

 Gartnerは、AIがすぐに人間を大きく代替するとはみていない。2026年末まで、AIがいかに進化しても、世界の雇用への影響は中立となり、雇用の純増にも純減にもつながらないと予測している。

 今のところ、組織がAIによって完全に自動化できるタスクはわずかしかない。大半の場合、AIはタスクを拡張する。AIは根本的に、知識へのアクセスを民主化するので、ナレッジワーカー(知識労働者)によって提供されるサービスはより安価になる。これによって需要が高まり、雇用が増加する見通しだ。

 Gartnerは、タスクや活動、仕事を拡張したり、自律的に提供したりするために導入されるAIソリューションが、2033年までに5億人以上の新たな雇用を創出すると予測している。

 それは、AIが人間の能力を拡張し、人間がより生産的かつ効率的に働けるようになるだけでなく、AIが仕事の質も向上させるということだ。

 特に、生成AIはコンテンツ作成や質問への回答、質問の作成、翻訳、文書の要約、ソフトウェアコーディングといったタスクを直接的に変えるだろう。だが、生成AIが個々の仕事をどのように変えるかを予測するのは難しい。

 例えば、生成AIがコピーライティングや顧客サポートにディスラプションをもたらすことが分かっていても、自社でそれらのサービスを提供する担当者にとって、それが何を意味するのかは分からない。生成AIを用いて従業員の生産性を高め、徐々に人員を減らすことになるのか、あるいはそれらの役割を再編成して新タイプのサービスに乗り出すことになるのかは、ビジネスのコンテキストに左右される。

オペレーション戦略

 AIが及ぼす影響は、企業ごとに異なる。そのため、自社固有の状況を考慮する必要がある。そのためには、「われわれは何をしようとしているのか」「パートナーと行おうとしている取り組みはあるか。ある場合、それは何か」を自問する。

 また、AI導入は、技術だけの問題ではないことを認識する必要もある。企業には、適切なAIスキルを持った技術者がやはり必要だが、ビジネスステークホルダーと協力し、AIを効果的に導入するための要件を特定できる人材も求められる。

チェンジマネジメント

 AIの活用を最大限に成功させるには、技術に投資するだけでなく、これまでのビジネスのやり方を変える必要もある。この変更が難しいことは誰もが知っている。一定のマインドセットが必要になり、抵抗に遭うこともあるからだ。重要なのは、AIが組織の将来にとっていかに重要であるかを強調するとともに、AIについて、そしてAIをどのように組織に適用すればよいかを、学ぶのに必要な時間を従業員に提供し、この変更を後押しすることだ。

 AI導入で先行している企業に見られるベストプラクティスには、AIに対する従業員のさまざまな姿勢に明確に対処することが含まれる。だが、従業員の心情は非常にさまざまだ。「AIは、全ての問題を解決する特効薬」と考える過度に楽観的な従業員もいる。AIへの期待がそれほど高いと、失望はほぼ避けられない。

 その対極にあるのが、職を失うことを恐れる従業員だ。当然、両者の中間にいる従業員は、AIの信頼性や、AIを適用し始めてAIの偏見や差別が露呈するリスクを心配している。こうしたリスクを特定、管理、軽減することも、企業がAIについて考える上で重要な要素だ。

出典:How to manage the cultural and operational impact of AI(Gartner)

※この記事は、2023年11月に執筆されたものです。

筆者 Pieter den Hamer

VP Analyst


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